心待ちにして


新一から電話をもらって、何故か工藤邸へと呼び出された私。つーか、隣にいるんならわざわざ呼び出すなんてことをしないでこっちに来ればいいのに…何でそっちにいるのかがわかんねぇや。
昨日、なーんか人がいっぱい来てたみたいだけど、また面倒事を引き起こしたのかね?アイツは。


―――ガチャッ

「コナンー?来たけどなん、の……」
「―――…久しぶりだな、お嬢ちゃん」


―――パタン。

…とりあえず、状況を整理しよう。何だ?私はついに幻覚を見るようにまでなっちまったのか?それくらい頭ん中がおかしくなってるっつーこと?だってそうとしか思えないだろ?死んだはずの秀さん、が、此処に…工藤邸にいるはずがないんだ。そりゃあ少し前まではもしかしたら生きてるかも、って推理してたけど、でも根拠も証拠もないし、そもそも理由がわからなかったから。だから、…私の推理は的外れだって自分で納得したはずだったのに。
それなのに何で、その張本人が此処にいるんだ?!やっぱり幻覚か?それとも幽霊、とか?秀さんのことだから未練とかありそうだし。主に仕事関連で。


「おい、咲羅。なーにしてんだよ、早く入って来いって」
「え、だ、って…何かもう、頭ん中ぐちゃぐちゃなんだけど…?!」
「いーから来いって、父さん達も来てっからよ」


えっ優作さんと有希子さん?!多忙な2人が何で日本に…というか、秀さんと同じ部屋にいるってことだよな?一体、どういう繋がりなの。
余計にぐちゃぐちゃになった頭を抱え、新一と一緒に部屋の中に入れば説明された通り優作さんと有希子さんがいた。ついでに言えば、有希子さんには抱きつかれた。それもものすごい勢いで。…何と言うかまぁ、歓迎のされ方が昔と変わらないなぁ。


「咲羅ちゃん久しぶり〜!!も〜すっかり綺麗になっちゃって!」
「お久しぶりです、有希子さん。有希子さんは変わらないですね、相変わらず綺麗だ」
「ふふっ貴方も相変わらず女の子を喜ばせるのが得意ね?」


優作さんにもお久しぶりです、と挨拶をして―――最後に視線がいったのは、もちろん秀さんで。こうしてちゃんと顔を見るのは、中学生以来…つまり、8年は経ってるということ。この人、ほとんど変わってないなぁ…というか、あの時が老けてたってことなのかもしんないけど。
うん、まぁアレだ。―――今でもやっぱり、秀さんはカッコイイと思ってしまう。あの時みたいなときめきとかは感じないけど、でも…好きだな、とは思う。恋情というより、親愛に近いものだとは思うけどさ。


「な、んで…アンタが此処にいるんだよ。ジョディさんに死んだって、聞いてたのに…!」
「色々あってな。詳しくは話せんが…ずっと近くにいたぞ」
「は?近く、って…―――まさか、マジで沖矢さんなのか?!」
「マジでって、咲羅、お前気がついてたのか?!」
「もしかしてって思ったことがあったんだ、少し前に。どーにも秀さんと沖矢さんが似ているような気がして…似てて当然か、本人なんだもんな」


あーもう、ジョディさんから訃報聞いた時の悲しみを返せ。この野郎。


「口を挟んで悪いんだが…咲羅くんと赤井くんは知り合いだったのかね?」
「知り合いと言っていいの…?」
「いいんじゃないのか?間違ってはいない」
「まぁ、アンタがそう言うなら。…昔、向こうでお世話になったんですよ」


そう口にしたら新一の顔が「お前、まさか…!」って顔になったから、とりあえず1発叩いておいた。だってコイツ、絶対に私が何か犯罪を犯したって顔をしやがったからな。するわけないでしょ、バカなのか名探偵のクセに。


「中学生の夏休みにアメリカに旅行に行って、そこで事件に巻き込まれたんです。それで…」
「担当したのが俺、だったってわけです」
「それっきりだけどね、会うの」


帰るまではしょっちゅう会ってたけど、って呟けば、新一の顔が微妙に不機嫌そうに歪んで。…自意識過剰かもしんないけど、もしかして新一の奴、秀さんに妬いてんのかな?そうだとしたらちょっと、嬉しいかもしんないなー。気持ちを知っているだけでつき合ってるわけじゃあないけど、やっぱりさ…好きな奴が嫉妬してくれんのって愛されてる証拠って感じがするから。
そう考えると―――変な意地張らずにつき合ってしまえば良かった、と思う自分もいるわけでして。自業自得だけど、少しだけ後悔してしまってる自分に失笑する。ほーんと、…大バカだ、私。


「そうだったのねぇ…2人が知り合いだとは思わなかったわ。ねね、その頃の赤井くんってどんな感じだった?」
「どんなって、…今と変わらない感じですよ?カッコ良かったと思いますけど」
「…そんな風に思ってたのか?」
「そりゃあ…ちょっと怖い人だ、とは思ったけど」


うん、嘘はついてない。あの頃は秀さんに恋してたし、でもその惚れた欲目を抜いたとしてもこの人はカッコイイと思うからなぁ。


「成程、咲羅くんは赤井くんみたいな人がタイプなんだね」
「な、?!」
「えー?じゃあ新ちゃんのお嫁さんにはなってくれないの〜?」
「ちょ、?!!」
「…コナン、顔面崩壊してるぞ」
「ククッ面白い面だな、ボウヤ」


つーかさ、優作さん達はコナンの正体を知ってるみたいだからいいけど、秀さんは知らないんじゃないの?まぁ、小学1年とは思えない所を何度も見てるだろうから、普通の小学生じゃないことは気がついてると思うけど。

(でもこんな過剰に反応してるとこ見せちゃったら、バレちゃうんじゃないのかなー。恐ろしい程に勘が鋭いぞ、この人)

バレたらマズイのは自分自身だろうに、そんなことは一切頭の中から抜け落ちてしまっている小さな名探偵は、まだ顔面崩壊中だ。それを見て優作さんと有希子さんは楽しそうに笑ってるけどな。相変わらず自分の子供で遊ぶのが好きな人達だね。…そういう所も好きですけど。面白くて。
久しぶりに工藤親子が揃ってるのを見たけど、やっぱり仲が良いなぁって少しだけ…羨ましくなるんだ。


「羨ましそうな顔をしているな」
「…そ?秀さんの思い違いじゃないかな」
「ホー、躱し方が上手くなったもんだ」
「これでも成人してるもんでねー…それなりに世渡り上手にはなったと思うよ」


まだ楽しそうに話をしている3人を横目で見つつ、秀さんの隣へと腰を下ろす。


「ま、とりあえず―――おかえり、秀さん」
「!…ふ、ただいま」


懐かしい空気が、戻ってきたような気がした。

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