大事なものは手離すな


『できたぞ、咲羅くん!』
博士の大きな声で起こされた、早朝。うん、…できあがって嬉しいのはよくわかるけど、さすがに4時に叩き起こされるのは堪えるんだけどね。つーか、博士ってばほとんど寝てないんじゃね?頼んだ身としては、そこまで根を詰めなくても良かったのに…と申し訳なく思う。急いでいるのも本当だけれど、それで博士が体を壊してしまったらどうしようもないだろ?早々に作り上げてくれたことも、有難いっていうのが本音だけれど。

とりあえず使い方云々はあとで聞かせてもらうから今は寝ろ!と、半ば無理矢理に部屋に戻らせて、私も二度寝を決め込む。今日は依頼人と会う約束もないし、急ぎの報告書もない…昼くらいまで眠っても問題はないはず。
朝食用にパンを作ってあるから、志保には悪いけどそれだけ食べて学校に行ってもらおう。ベッドに体を投げ出せば、あっという間に睡魔に襲われた。それに抗うことはせず、私はゆっくりと意識を手放したのです。





―――べしんっ!

「ぁいた?!」
「いい加減、起きやがれ。寝坊助咲羅」
「………新一?え、何で此処にいるんだ?学校は?」


額に衝撃を感じて目を覚ませば、新一が怒ったような顔をして覗き込んでいた。さっきの痛みは確実に新一がやったものなんだろう、とわかるけれど…今日は平日で、子供の姿になっている新一は学校に行っている時間のはずなのに。
寝起きであまり働いていない頭を回転させ、浮かんだ疑問を口にすると、眉間に一層深いシワが刻まれて―――もう夕方だ!ともう一発、額にデコピンを喰らった。いってぇなこの野郎!!


「携帯鳴らしても出ねぇし、メールも返ってこねぇし、ノックしても返事がねぇし…何かあったのかと思って入ってみりゃあ、ぐーすか寝こけやがって…!」
「え、えっと、ごめん…?」
「…心配して損した」
「悪かったって。…もう少しだけ、って思って二度寝したんだけど…」
「オメーそれで何回、夕方まで寝こけてた?あ?」


…すんません。姿は小学生なのに、めっちゃ怖いです。新一さん。


「多分、片手じゃ足りないくらい…?」
「ご名答。ったく…相変わらず、何よりも睡眠を優先するんだなオメーは」
「あはは…面目ない」


ベッドから出て思いきり伸びをする。長時間眠っていたこともあり、体中が悲鳴を上げた。うーわ、自分の体から発せられた音だとはいえ、さすがにこれは引くわ…。バキバキっていったぞ、私の骨。首も、と軽く回せば、そこからも骨が鳴る音が響いて、新一も口元をヒクリ、と歪ませている。うん、まぁそんな反応にもなるよなー私自身、驚くような音だったし。

あ、そういえばさっき携帯に電話したとかメールしたとか言ってたけど、新一は私に急用でもあったのか?わざわざ部屋に様子を見に来たのは、一切返信がなかったからなんだろうけど…元々は用事があった、ってことだよな?何も用事がないのに連絡してくることは、ないに等しい。
ベッドメイクをしながら問いかければ、志保から頼んでいたメカが出来上がったと聞いたから、と答えが返ってくる。ああ、今日の早朝に出来上がったーってやつね。なんだ、志保も出来上がったこと知ってたんだ。


「見に行ってもいいか、って連絡だったんだけど…オメーもまだ見てねぇか、博士が作ったメカ」
「うん。というか、私が二度寝した理由はハイテンションだった博士に叩き起こされたからなんだけどね」


着替えたいからあっち向いて、とドア側を指差せば、顔を真っ赤にして先にリビングに行ってる!と、ものすっごい速さで出て行った。

―――バタバタバタッ…ゴツンッ!

そしてものすっごい痛そうな音と、博士の慌てたような声が聞こえてきた。あー…あれは階段から落ちたか、転んだかのどっちかだな。新一が転ぶとか、珍しいこともあるものだ。


「…というか、可愛いねぇ。あんなに真っ赤になっちゃって」


着替えてリビングに顔を出せば、博士に手当てをされている新一発見。
あ、やっぱり階段から落ちた音だったのか。あれ。


「もしかして、とは思っていたけれど…やっぱりまだ寝ていたのね、咲羅」
「ん。うっかりやっちゃいました」
「すまんのう、咲羅くん…ワシがあんな時間に起こしてしもうたから」
「あー…うん、まぁ大丈夫。頼んだの私だし。ありがとね、博士」
「なんのなんの!それで肝心の頼まれたものじゃが…これじゃ!」


じゃじゃーん!と博士が取り出したのは、新一がつけているような黒縁メガネ。それよりは大分、細身のフレームではあるけど…え、これで映像か写真として送れるの?頼んでおいて何だけどさ、そういう装置がついているようには全く見えないんだけど。
手に取ってじっっっっくり見てみると、あの…ツルって言うんだっけ?そこに小さなボタンがついてるみたい。恐る恐る押してみれば、レンズ部分にいくつもの円状?の図?みたいなのが映し出されたんだが、…ん?何かちっこい丸が点滅してる。なんだこれ。


「今、咲羅くんが押したのは発信機の場所を見る為のボタンじゃ。逆側のツルにもボタンがあってのう、そっちを押すと」
「押したけど、…何の音もしないんだけど」
「あ?博士、プリンターがガタガタいってるけど」
「咲羅くんがボタンを押したじゃろう?それで撮れた写真が、あのプリンターに直接送信されてきたんじゃよ。ガタガタいってるのは、印刷しとるからじゃな」
「音しないんだ…商品化したら悪用されそう」


ふぅん…でも今回ばかりは、音がしないのは有難いな。眼鏡を直すフリをしてボタン押せるから、写真撮ったな!って気がつかれることもないだろうし。
実際、どのくらい鮮明に写るのだろう?プリントされた紙を引っ張り出せば、デジカメで撮るのと大差ない鮮明さだった。うっわ、すっごい綺麗じゃないか!これだったら文字もハッキリ見えそうだな…これはすごい。


「へえ…すげーじゃねぇか、博士」
「ワシにかかればこのくらい造作もないわい。…ああ、探偵バッジについている発信機も受信できるから、起動させれば居場所を特定できる。半径20キロ程じゃが」
「いや、それでも十分すぎる。助かったよ、ありがとう」


これで、…志保の望みを叶えてやれる。これで守りたい奴を、守ってやることができる。


「咲羅、頼みごとをしている身だし、今更止めようという気もないけれど…悲しませるような真似だけは、しないでちょうだい」


志保の言葉に「それは誰を?」とは、返せなかった。

- 31 -
prevbacknext
TOP