恋しいと誰が哭く、
「なんっで燃えてんのこのアジト…!」
見つからないかもしれない。此処にはないかもしれない。そんな志保の心配は呆気なく吹っ飛ばされました、つまりはありましたよ薬の研究データ!それを預かったUSBにコピーし、念の為、博士に作ってもらったカメラ眼鏡(仮)でもデータを撮影しておいた。
その間、至る所から不穏な音や声が聞こえてきていたものの、私が侵入していた部屋へは誰も来なかった。ラッキーだ、というか…多分、事情を知った秀さんが此処へ構成員が誰も近づけないように頑張ってくれているような気がしないでもない。もしくは、他のFBIの面々。
とりあえず欲しいものは手に入ったし、さっさと外へ―――と思って、ドアを開けたらそこはもうゴウゴウと炎を上げて燃えていた。一瞬にして、そこは火の海になっていて呆然とする…おいおい、どういうことだ?!FBIが火を放ったのか?…いや、そんなバカなことをするはずがないか。あの人達は殺すのが目的じゃあない、1人残らず捕まえるつもりのはずだ。
ドンパチやっている間に殺しちまった場合は、まぁ仕方ないことだと片づけられるのかもしれないけど。だけど、最初から殺そうという考えはないはずなんだ!ということは、これは組織の奴らの仕業ってことか…!
この放火が悪足掻きだとすれば、FBIが優勢だってことになる。もしくは、死なばもろとも精神―――とか。そうなると非常にマズイことになるけど、…此処にいたんじゃ何も確認ができない。
「くっそ…どこか出口は、」
火の手はすぐそこまできている。早く出ないと私も火だるまになる…それだけは嫌だ、こんな所で死んでたまるかってんだ!入り込んできた煙で噎せて、視界が揺らぐ。ああもう、こんなのシャレにならないじゃないか。
ふっと上げた視線の先にあったのは―――窓。
ここは2階だけど、飛び降りた所で死ぬような高さじゃないはず。それにもう、迷っているような時間はない…だとすれば、覚悟を決めて飛び降りるしかねぇよな!着ていたジャケットでリュックを包み、私は助走をつけて思いっきり窓ガラスに突っ込んだ。大した高さではないけど、着地に失敗したらどっちにしろ危険だわ。
―――ガサガサガサッ!
いっ……たたたた、でも地面に着地するより全然マシ…下が植え込みで助かったかもしれない。荷物も無事だし、あとは新一や秀さん達の安否を確認しないと。
植え込みがクッションになったとはいえ、枝でやってしまったのか腕はすり傷だらけだった。これは顔もひどいことになってそうだなぁ…痛む体を起こして、人の声が聞こえる方へと足を進める。そしてようやくジョディさんとキャメルさんの後ろ姿を発見!
「ジョディさん!」
「あっ…咲羅ちゃん!無事だったのね?!」
彼女も煤や血で顔も、服も黒くなっていたけれど、致命傷になるような怪我は負ってないらしい。激しい銃撃戦でFBIの仲間が何人も命を落としたけれど、それでも制圧できたわ、とジョディさんは緩く笑みを浮かべていた。長い、長い戦いがようやく終わったのだ、と。
それを聞いて私もホッとした、これで新一も黒の組織の呪縛から―――…そうだ、新一は何処にいるんだ?
「咲羅ちゃん?」
「…ジョディさん、アイツは?アイツは何処にいるんだ?」
「アイツ?誰のこと?シュウ?」
「秀さんもだけどっ…コナン、コナンの姿が見えないんだ!アイツはまだ出てきてないのか?!」
いない、…どれだけ視線を巡らせても、アイツの姿が何処にも見えないんだよ。
私の訴えでジョディさんは、キャメルさんに新一の姿を捜すように命じていた。命令を受けたキャメルさんは私と同じように視線を巡らせているけれど、見つけました!という声は、聞こえてこない。
「ジョディさんっい、いません、コナンくんの姿がないです!」
「嘘…まさか、まだ中に?!」
「それから赤井さんもまだ出てきてないみたいで…!」
「コナンくんとシュウ、一緒にいるの…?!」
…そうだ、博士が作ってくれた眼鏡、確か探偵バッジについてる発信機を受信できる、って言ってたよな?新一もそれを持っていたはずだから、それでアイツの居場所がわかるかも!
急いでリュックの中から眼鏡を取り出してスイッチを入れれば、あの時と同じように円状にちっこい丸が点滅している映像が映し出された。この点滅しているのが新一のはずだ。だけど、動いている様子がない…?確か、発信機を持っている対象者が動けばこの丸も動く、って博士は言っていたはずだよな?それなのに動いていないってことは、
「まさか…?!」
嘘だろ、冗談は止めろよ名探偵…!
死んでなんかいないよな?そうだ、探偵バッジを落とした可能性だって……色んな予想が浮かんでは消えていく。でも最後に残るのはやっぱり、最悪の予想で。心臓がバクバクとうるさいほどに鳴っている。
それを打ち消そうと大丈夫、新一が死ぬはずないって考えるのに、そんなのは無駄だというように体の震えが止まらない。
「―――ッ!」
「ちょっと咲羅ちゃんっ…戻ってはダメよ!!」
ジョディさんの声を無視して、私は再びアジトの中へ足を踏み入れた。水でもあればそれをかぶってから入ったんだけど、そんな都合良く水があるわけもない。せめて煙を吸い込まないように、と袖口で口と鼻を抑え、レンズに映し出されている場所まで急ぐ。
だけど、燃え盛っている建物だ、そう簡単に奥まで進ませてくれない…何とか隙間をかいくぐったりして歩みを進めるけど、次第に呼吸が苦しくなってきたぞ…!でもこの辺から発信機の反応が、いるとすればこの辺りに間違いはないはず。
キョロキョロと視線を巡らせれば、人の足のようなものが見えた気がした。レンズに映っている場所とも一致する…!ということは、あれは絶対に新一だ!!慌てて走り寄れば、そこには予想通り新一の姿。そこら中、怪我をしているのか服は赤黒く染まっている。ゾクリ、と背中に悪寒が走った。
「ゲホッ…し、んいち、新一!!頼むから目を開けて、新一っ」
「ぅ、………咲羅…?バー、ロ、なにして、」
「お前を助けに来たに決まってるだろ?!守るって、絶対に守るって…!」
「い、いから早く逃げろ、…この燃え方じゃ、長くはもたねぇぞ」
「バカ言うなよ!私に新一を置いていけって言うの?!それだったら、」
此処で一緒に死んだ方がマシだ!
「…それは困るな」
「っ?!…しゅ、秀さ……」
「あかい、さん…終わったの……?」
「ああ、ボウヤのおかげでな。お嬢ちゃん、まだ動けるか?」
秀さんの問いかけに頷けば、彼は新一を担ぎ上げた。辺りを一瞥し、突破口を見つけたのか行くぞと声を掛けられる。よろよろと立ち上がり、決してはぐれたりしないよう必死に秀さんの背中を追う。
彼の肩に担ぎ上げられた新一は、ぐったりとしたままピクリとも動かない。目も閉じられたまま、ここからでは呼吸をしているのか確認もできなくて再び背中を悪寒が走ったのがわかった。…大丈夫、きっと、大丈夫、生きてる…!
(守るって、言ったのに。)
何もできなかった。別行動していたんだから仕方がない、と新一は笑うかもしれないけれど、私はそんな風に割り切れないよ。死なせたくない一心で、嫌がるお前についてきたのにそれなのに、…守るだなんて口ばっかりだ。
- 33 -
prev|back|next
TOP