変わらぬ友人


有希子さんに連れられて、アメリカに来てからかれこれ1ヶ月ほどが経過した。思っていた以上に長期滞在になっていて、自分でも驚いてたりするんだけど。
最初はさ、2〜3週間で戻るだろうなって考えてたんだよ、あんまり長居するのもアレだから。…でも、気がつけば長い時間が経過していたというオチ。案外、こっちでの生活は快適で―――英語も昔より上達したように感じます。

そして今日は、仕事が休みだという秀さんに無理矢理運転手をお願いして(ちゃんとお礼はするつもりだよ!)、とある人達を迎えに空港へ来ていたりする。ええっと、到着時間を考えるとそろそろ姿が見えるはずなんだけど………あっいた。


「蘭、園子!」
「咲羅さん!久しぶりー!!」
「久しぶり、咲羅ちゃん」
「ん、久しぶり。2人共」


抱きついてきた園子を受け止め、蘭にも笑顔を返す。黙って渡米したことを責められるかな、と思ったけど、そんなことはなくって、2人共、嬉しそうに笑ってくれてて私も頬が緩む。
ひとしきり感動の再会を味わった所で、園子が私の後ろで控えるようにして立っていた秀さんに気がついたらしい。だぁれ?と首を傾げる仕草は、女の私から見ても非常に愛らしいと思う。


「あ、あの人…」
「蘭は昔、ニューヨークで会ったことがあるんだったよな?」
「うん、一応」
「紹介するよ、この人は赤井秀一さん」
「…どうも」
「えっちょっと待って咲羅さん!新一くんからこの人に鞍替えしたの?!」


園子のびっくり発言に私も秀さんも、数十秒たっぷりと固まった。それで吹き出した。秀さんも顔を伏せ、くつくつと喉を震わせて笑ってる。彼女の発言はツボに入ったらしい。だ、だって新一から秀さんに鞍替えって、…よくもまぁそんな想像が働くよなぁ。
でもま、確かに友人を迎えに一緒に来ている男ってどう考えても、どう見ても恋人だと思うのかもしれない。この人が大切だってことは間違いないけど、でもそれだけ。それにまず否定するとしたら、私は新一と付き合っていないということだ。


「フッ…面白いことを言うな、お前の友達は」
「くくっああ、そうかも。違うよ、園子。秀さんは小さい頃にお世話になった人で、恋人じゃあない。それに鞍替えもしてないから」
「そ、そうなの…?でもわざわざ一緒に来てるから、つい…」


んー、ハッキリ言ってしまえば運転手として呼んだんだよね。秀さんのこと。


「咲羅ちゃん…そんなにハッキリ、」
「大丈夫、そう言って頼んだから。ね?」
「あれは頼み事でも何でもなかったぞ」


じとり、と瞳を向けてくる彼を知らんぷり。人にものを頼む態度じゃなかったのは自覚してるけど、このひろーい場所を案内するなら公共機関を使うより、車の方が楽じゃないか。お金も浮くし。
ボソッと言えば、ガソリン代がかかるだろうバカが、と返されちゃったけどね。改めてちゃんとお礼はするから、と笑うと、一瞬だけ間が空いて撤回はさせんぞ、と口元を緩ませた秀さん。…とんでもないことを言われないことを祈りたいな、切実に。

私達のやり取りを終始見ていた蘭と園子は、何が面白かったのか知らないけど楽しそうにクスクス笑ってる。それも涙を流す程に。
当人からすれば漫才していたわけじゃないし、至って普通に会話をしていただけなんだけど…何がそんなに面白かったんですかね?笑っている2人を見れたのは、とても嬉しいけれども。可愛いし。ただ、それが私達が原因でなければ、という前提付きだけどな。


「なんなんだよ、2人して…」
「だって、何だか息ピッタリなんだもん。咲羅ちゃんと赤井さんって」
「これは新一くんもうかうかしてらんないわね〜!」


『新一』という名前を聞いて、心臓がドキリと跳ねる。私が日本を発って1ヶ月が経った、ということは、そろそろアイツも退院している可能性が高いということだ。そして解毒薬を飲んで、…元の体に戻っているという可能性も。
ただ、2人と一緒にアメリカに来なかったということはまだ入院したままなのかも、しれないけれど。気になって仕方がないのなら、2人に聞いてみればいいだけなんだ。コナンはどうしてる?とか、新一はまだ難解な事件を追ってるのか?とか…真実を突き止めるのは、至極簡単で。でもそれをしないのはやっぱり、逃げてきてしまったという後ろめたさがあるからなのだろう。

(一種の自責の念、みたいなものなのかも…)

何処に行きたい、とか、これを食べてみたい、とか、日本で買ったであろうガイドブックを見ながら楽しそうに計画を立てている2人の姿を見つめながら、頭の中は同じことがぐるぐると回っている。
…ダメだな、せっかく蘭達が遊びに来ているというのに。バレてしまわないようにそっと溜息をついていると、くるっと振り返った蘭がそういえばコナンくんがね、と口を開いた。


「コナンくん、怒ってたわよ?咲羅ちゃんが黙ってアメリカに行っちゃったこと」
「もしかして咲羅さん、がきんちょに言っていかなかったの?懐かれてたのに」
「…急だったのもあったし、博士と蘭にしか…伝えてない」


そっと目を逸らしてボソリ、と呟けば、2人はも〜!と怒っているような声を出した。うん、わかる、わかるよ君達の言いたいことは十二分に!!でも仕方ないじゃないか、アメリカ行きを決めた理由が新一に会いに行く勇気がない・合わせる顔がないっていうアレなんだから!
なのに、当人であるアイツに「アメリカいってきまーす」なんてお気楽発言、できるはずもないんだっての。…とはいえ、それを素直に口に出すわけにもいかないのであはは、と笑って誤魔化すことにしたけど。


「それで最初は何処に行くんだ?」


理由をハッキリとは言っていないけど、何となく事情を察してくれている秀さんが助け舟を出してくれた。あれ、病院でもこういうのあったような気がする。…ひどく無愛想で、人相悪いのに、それなのに人の気持ちの変化に敏感な所があるんだよなぁ…女心は察せない・わからんとか言っていたクセして。


「そうだよ、蘭!早くしないと行きたい所、回りきれないわ!」
「でも園子…今日1日で回りきれる場所の量じゃないからね?」
「…試しに聞くけどさ、どれくらい?」
「えっとね…」


蘭がガイドブックを開き、園子がまず此処でしょ、それから此処と此処と此処と…って次々に指差していく様子を眺め、秀さんと同じタイミングで頭を抱える羽目になった。
行きたい所がたくさんあったのはわかったけど、あのね?アメリカ―――というか、ワシントンだって広い。それはもうかなりだだっ広い所だ。だから1日で回れるのは数少ないんだって…苦笑を浮かべ、そう教えてあげれば残念そうな表情になったけど、納得はしてくれたみたいだ。良かった。


「でも良かったのか?ワシントンで。観光名所はたくさんあるけど…2人の年齢なら、ニューヨークの方が楽しめそうな気がするけど」
「いいの、いいの!咲羅さんに会いたかったし、数日後にねワシントンで行われるパーティーに呼ばれてるから」
「ああ、アメリカに来たのはそういう…」
「第一の目的はそれだけど、咲羅ちゃんに会いたかったのも本当だよ?」


蘭の言葉にじーんとしていると、頭の上に温かいものが乗っかった。視線を上げてみれば、その正体はどうやら秀さんの手だったらしい。珍しく柔らかい笑みを浮かべた彼は、良かったな、と呟いた。
それにうん、と頷きと笑みを返せば、バッチリ目撃したらしい園子が「恋人同士みたい!」って黄色い声を上げてくれました…だから違うって!

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