開き直りとは、
私は今、有希子さんの手によって『とびっきりのオシャレ』を施されている最中だったりする。しかもこの人、すっごいウキウキでやって下さっています。はい。
何でそんなことになっているかと言いますと、事の発端は一昨日届いた1通のメール。相手は秀さんで、連絡先を交換して、あっちから送られてきたのはそれが初めてだった…って、そんな余計な情報は置いておいて。送られてきたメールの内容っていうのが、その…
『明後日、パーティーに出席することになった。同行しろ』
これ。私の意見なんて聞く気なさそうだし、というか行くことがほぼ決定事項になってるし、もう読んだ瞬間目を見開くしかないよね!携帯を凝視していたら優作さん達がそれに気がついてどうしたんだい?って聞かれ、こういうメールが届いたんですーって画面を見せたんだ。
そしたら…何故か、有希子さんがめっちゃ乗り気になっちゃってねぇ。目一杯綺麗にしてあげるからね!って、にっこり微笑まれました。瞬間、「あ、これ逃げられないパターンだ」って遠い目になったのは言うまでもなし。
「…有希子さん。さすがにこの露出度は……」
「あら、似合ってるわよ?咲羅ちゃんは美人だし、スタイルもいいんだから見せつけるくらいでいかなくちゃ!」
「美人でもないし、スタイルも良くないですよ…」
あー、と項垂れても有希子さんはにこにこ笑って、髪の毛のセットや化粧を施していく。さすが有希子さん、手際がめっちゃいいなぁ…テキパキとしているのに、決して妥協しないというすごさ。
―――コンコン
「はーい?」
「有希子、咲羅くん。蘭くんと園子くんが来たけれど…」
「上がって待っててもらうよう言ってくれるかしら?もう少しで準備も終わるから!」
「わかった、伝えておこう。赤井くんにもそう言っておけばいいかな?」
「あ、そっか。秀さんももうすぐ来るんだっけ…すみません、優作さん。それでお願いします」
着替え中だった時のことも考慮し、紳士である優作さんはドアの向こうから問いかけてきてくれた。このまま答えるのは失礼かも、と思いつつも、まだ準備が終わっていないのも本当なのでそのままの状態でお願いすればわかったよ、と声が返ってきて階段を下りていく音がする。そして階下からは何やら話をしている3人の声、恐らくは上がって待っていてくれとか言ってくれているんだと思う。本当、ありがとうございます優作さん。
何故、彼女達が来ているのかと言うと…どうやら2人が行くパーティーと秀さんと私が行くパーティーというのが同じものらしくてな。ついでだから、と秀さんの発案で一緒に行くことになったんだ。園子から良ければ一緒に行かないか、と誘いを受けて判明したんだけどなーそれ。
(秀さんがパーティーに参加とか…とても嫌な予感しかしないんですけどね、私)
断ろうと思えば、断ることもできたはずだ。いくら決定事項のようになっていても!…だけど、そうできなかったのは秀さんに「礼をしてくれるんだろう?」と言われてしまったから。
そう、蘭達がワシントンに来るとわかった時に彼には運転手をお願いして、ちゃんとお礼はするから、と言ってあったんだよねぇ。だからきっとこれ幸いと言わんばかりに、決定事項のようなメールが来たんだと思うけど。
「さー、できたわよ!うん、我ながら完璧ね!」
「ありがとうございます……うわ、誰だこれ」
「紛うことなき咲羅ちゃんよ?…あ、ちょっとこっち向いてー」
―――パシャッ
「うわ!有希子さん?!」
「せっかくおめかししたんだもの、新ちゃんにも送ってあげなくちゃ〜」
心底やめてください……!
だけど、私の心の叫びは有希子さんに届くことはなく、悲しいかな写メは新一へと送られたそうな。うう、これで反応が私の携帯に来た日には叫べるレベルだ、発狂しそうだよこの野郎。
「…ほう、見違えたな」
「咲羅ちゃんすっごい綺麗!!」
「ほんと!普段からちゃんとお化粧とかすればいいのに」
「まじでやめてはずかしい!」
外見を褒められるのは慣れていないから、一気に顔に熱が集まっていく。蘭と園子だけだったら何とか上手く躱すことができたのかもしれないけど、いつの間にか秀さんも来ちゃってるし!しかも一番最初に感想言いやがったのこの人だし!!
人を褒めるイメージ皆無の人に言われちゃったら、そりゃあもう恥ずかしさMAXにもなるでしょーが。こんなんで大丈夫か、私…色々と不安になってきた。
パーティーが始まるまでまだ時間があるらしい。秀さんに話がある、と別室へと連れてこられたのだけれど…これは本当に嫌な予感がしますぜ、旦那。うへぇ、と顔に出せば、台無しだなと笑われた。うん、だろうね!でも気にしない、気にしたら負けだ。
「で、話って?」
「咲羅のことだ、勘づいているとは思うが…仕事でパーティーに潜り込む」
「…いいのかよ、FBI。捜査の為だ、って明言しちゃって」
「さすがに仕事内容までは言わんさ。事実だけを、教えておくつもりだ」
お前を巻き込むつもりはないよ。
そう笑って、秀さんはおもむろに手を伸ばす。彼の手が触れたのは私の耳、突然の感触に僅かに体が揺れ眉間にシワが寄った。私のその様子に彼はフッと笑みを浮かべたけど、触れた手はそのまま離れる様子がない。
一体何なんだ、と文句を言おうと口を開いた瞬間、手が触れた時とは違う感触がして思いっきり「うわ?!」と声を上げる結果になりました。でもマジビビった…!
「そこまで驚くこともなかろう」
「急に触られたら誰でもビックリするっつーの…!」
「お前を巻き込むつもりは更々ないが、俺と共にいることで狙われるかもしれん。念の為、つけておけ」
つけておけ、って何がだよ…ワケがわからない、とさっきまで触られていた耳に触れてみれば、そこにはイヤホン?がはめられていた。それは上手く髪で隠されていて激しい動きさえしなければ、見えることはないだろうけど…これ、なに?秀さんは念の為にーとか言ってたけど、……あ、もしかしてインカム?
「何かあったら知らせろ、って?」
「そういうことだ」
「…そっちの会話、聞こえたりしないの」
「聞こえないように細工をしてある。…残念だったな、名探偵?」
ニヤリと笑った秀さんはとてつもなくカッコ良かったけど、それと同時に憎らしくも感じました。私の心の中を見透かされているみたいで、悔しい。むう、と唇を尖らせれば、お前はわかりやすいんだよとか何とか言われる始末だし。
これでも探偵を営んでいて、ポーカーフェイスには自信があるんだけどなぁ…顔に出やすいね、とか言われたこと、一度もないし。というか、わかりやすかったら探偵なんて務まらないんじゃないかとも思うのだけれど…どうなの?
「顔に出やすいというわけではない。…が、お前の考えていることくらい予想がつく」
事件と名のつくものに首を突っ込みたがるのは、探偵の性だろう?
そこでようやく、彼が私のことをわかりやすいと表現した理由がわかった。新一といい、私といい、事件が起きた!と聞けば、危険を顧みずに突っ込んでいくからわかりやすい―――そう言った、ってことだわな。うん、まぁ否定はしないよね。その通りだとは思う。
…だけど、これでも立場は弁えてるつもりなんだ。日本だったら何も考えず、手や口を出しちゃうと思うんだけど、ここはアメリカだからねぇ…さすがに首を突っ込むようなバカな真似はしないつもりでいるんだけど。多分、それはあくまでも”つもり”で、いざ事件が起きたらそれすらも忘れてしまうんだろうなぁとは、他人事のように思ってはいる。きっと秀さんもそれをわかっているからこそ、敢えて残念だったなって言ったんだろうね。
とりあえず、パーティー中に何が起こっても大人しくしていろ。と改めて釘を刺されてから、私達は会場へと向かった。そう時間もかからずに着いたのだけれど、…目の前にそびえ立つお城と言った方が良さそうなお屋敷に目を瞠る。
園子はお嬢様だし、秀さんだって仕事柄こういう場所に潜入することもあるだろうからさして驚いていないみたいだけど、どこにでもいる一般家庭にて育った私と蘭は、こんな立派な建物に入ることなんて早々ないわけであります。いや、園子の家も相当でっかいけど…これはその数百倍くらいか?
―――グイッ
「行くぞ、お前が来ないと中に入れない」
「あ、う、うん…蘭、園子、また後で」
「うん、後でね。咲羅ちゃん」
腕を組んでおけ、と言われ、差し出された右腕にそっと絡ませる。こ、れは思っていた以上に恥ずかしすぎやしませんか…?!パーティーだし、エスコートされる性別なのもわかっちゃいるけど、それでも慣れないことをするのはいつだって大変なんだ。
今日だって車に乗っている間から緊張してて、今だって心臓バクバクで油断しようものなら手と足が同時に出てしまいそうなくらい。そんなことをしてしまったら、末代までの恥だ。どうにかして気を付けないと。
ガッチガチの私に気がついたらしい彼は、くつくつと喉を震わせている。この野郎、他人事だと思って…!いや、実際他人事なのは間違いないんだけど!
「というかさ、私の聞き間違いじゃなかったらさっき…」
「俺の妻になっている」
「やっぱりか…!」
言われたもん、ハッキリ言われたもん!「そちらが奥さんですね」って、受付のダンディな男性に微笑まれながら!!さすがに受付でポカンとした表情になるわけにもいかなかったから、必死で笑顔を取り繕ったけど…ああもう、先に設定とかあるのか確認しておくべきだったわ。そうしておけば、こんなに驚くこともなかっただろうにね。
でもそれは済んだことだ、それをどうこう言ったって何にもならないし…今は秀さんの奥さんでいることを、頑張ろう。
(彼氏ができるまえに旦那さんができるとか…)
旦那さんといっても演技だから、別に何ともないんだけどさ。事実無根、ってやつ?使い方を間違っているような気がしないでもないけど、…もういいや。何でも。
考えるのが面倒になってきたから、放棄させてもらうとしよう。パーティーに参加することなんて早々ないんだし、この際、楽しんでしまおうじゃないか!
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