だって探偵ですから
「どうしてそんな格好をしているの?
―――――工藤新一くん。そして…宮野志保さん」
私のその一言にひどく驚いた顔をしたコナンくんと哀ちゃん。そんな2人を庇うように口を開いたのは、まさかの阿笠博士。
「なっ…、何を言い出すんじゃ咲羅くん!新一は今、事件の調査で遠くに行っておるし、宮野…志保?という子も此処にはおらんぞ?いるのはコナンくんと哀くんじゃ」
「ふぅん…ってことは、博士は2人の事情を知ってるわけか」
「?!」
「だってそうじゃなきゃ、そんなに焦る必要はない…だろ?」
ニヤリ、と笑ってそう言い放てば、博士は途端にしまった!という表情になり、コナンくんと哀ちゃんは全く…と言いたげな呆れた表情を浮かべている。
ふふ。子供である2人にこんな顔されたんじゃ、大人の威厳が皆無だなぁ博士は。…ま、その方が博士らしいと思うけれどね?私は。
それはさておき。改めてコナンくん達に視線を向けてみれば、若干警戒してる…かな?特に哀ちゃんが。警戒する気持ちもわかるけどね。きっと…疑ってるんだろうから、私のこと。
「たくよぉ…博士も誤魔化すならもう少し演技してくれよ」
「す、すまん…」
「んで咲羅、いつから気が付いてたんだ?オレ達のこと」
「?!ちょ、くど…じゃない、江戸川くん!!」
あぁ、やっぱりすんなり認めてしまった彼に哀ちゃんは驚いてるし、慌ててる。
「んだよ灰原」
「貴方わかってるの?!彼女があの組織と関係ないっていう証拠はないのよ!」
「コイツはあいつらとは関係ねぇ。オレの幼なじみだ」
「馬鹿ね!彼女はしばらくこの町を離れていたんでしょう?その間に組織と繋がった可能性だってっ…!」
「…あー…まぁ、簡単に疑念が消えるわけないよなぁ」
のほほーんと発した私の言葉に、思わず哀ちゃんはぽかんとした顔。あは、そういう顔は何ていうか…年相応、って感じだ。とても可愛らしい表情に笑みを浮かべれば、今度は訝しんだ表情へと変化する。思ったより表情が変わる子だな。もっとクールな子かと思ってたけど、…あ、今は焦ってるからか。
「…貴方、一体何なの?」
「何なのと言われても…どこにでもいる、一般人?」
「ただの一般人が、気がつくはずがないのよ…!」
「まーなぁ…私だって自分で推測した瞬間、それはないだろーと思ったけど」
だけど、色んなことを1つずつ整理して、推理していくと…その仮説が一番、しっくりきたんだから仕方ない。もし、その仮説が外れていたのならそれはそれで別に構わなかった。2人はいやに大人っぽい小学生だ、って納得もしただろうから。これでも柔軟な思考を持っているつもりなのでね。
「落ち着けよ、灰原。コイツは天地が引っくり返ってもあの組織に加担するようなことは、絶対にねぇ。なぁ、博士?」
「あぁ、そうじゃなぁ…咲羅くんはそういう人間ではないぞ?哀くん」
「…2人して持ち上げ過ぎではないかな、私のこと」
でもまぁ、嬉しいけどね。幼い時からの知り合いである博士と新一にこう言ってもらえるのは。だって信頼されてる、ってわかるじゃん?
…そうだ。私が何故、哀ちゃんのことを知っているのか話をしておいた方がいいかもしれないね。信じてもらえるかどうかはまた別だが。
「ねぇ、哀ちゃん。この呼び方に覚え、ない?……『相変わらずだなぁ、シェリーちゃん?』」
「ッ!その、呼び方…その声………!」
「ははっ覚えててくれたんだ?光栄だねぇ」
「覚えてるに決まってる、…何かと私に構ってきて、なのに勝手に黙っていなくなって…!!」
死んだんだと、組織の人間に殺されたんだと…そう、思っていたのに。
か細い声で呟いた彼女の瞳には、薄っすらと涙が浮かんでいた。思わず、かける言葉を失ってしまう…まさか、こんなにも案じてくれていたなんて予想もしていなかったからね。てか、むしろ嫌われてると思ってたし?そしていなくなって清々した、と思われてるもんだと思ってましたよ。これはー…意外すぎる事実、だな。
静かに涙を流す哀ちゃんの頭をそっと撫でていると、不機嫌そうな声音が耳に届いた。…なーんで急に不機嫌になってんのかねぇ?君は。
「どーしたのさ、コナンくん」
「もう正体バレてんだから、新一でいい。…何で灰原と知り合いなんだよ?」
「ああ、そのことか。前にちょっとだけ、世話になったことがあるんだ。…まだ宮野志保だった時に」
この町を出た後、色んな所で探偵の仕事をしてた。変装したりして、ね。だから、ちょーっと危ない組織に潜入して調査したりとかすることも多々あったわけだ。
今思うと、ものすっごい無謀なことしてんなぁってわかるけど…あの時はただがむしゃらに真実を追いかけてたし。…うん、よく殺されなかったな私。んで、その時に偶然知り合ったのが今此処にいる哀ちゃんってわけ。あの時はまだ子供になってなかったけどさ。
この子は…しくじって怪我を負った"俺"を、何だかんだ文句言いつつ匿って世話してくれたんだよ。怪我がある程度良くなるまでな。組織の人間にバレたら自分が罰を受ける、っつーのになぁ…ま、怪我が治った後に会いに行ってた私も私だけど。
最後の最後までこの姿は変装です、とは明かすことが出来ずに、男として接してたんだけども。…あの時から、ずっと気になってたんだ。ちゃんと生きているのか、とか…組織を抜けることは出来たのだろうか、とかさ。
「良かった、って言える状況ではないんだろうけど…それでも君が生きていてくれて良かったよ、志保」
「…それは、私のセリフだわ。それに私はまだ、貴方の本当の名前聞いていないのだけど?」
「そういえばそうだな。…じゃ、改めて…私の名前は伊勢谷咲羅って言うんだ、よろしくな」
「灰原哀よ、この姿では…ね。こちらこそよろしくお願いするわ、…咲羅」
初めて、名前を呼んでくれた。あの時も最後までねぇ、とか、ちょっと、とかしか呼ばなかったのに。
ああ、これは思った以上に嬉しいかもしれない!嬉しくて仕方なかったから、思わず志保…もとい、哀を抱きしめたらさすがに怒られました。…何だ、抱きしめるのはまだダメかー。
「(いやー、それにしても…)」
改めてじーっと2人の顔を見てみれば、うん、やっぱり新一と志保なんだなぁ。本人なんだから当たり前なんだろうけど、新一なんか眼鏡取ったら本当に小さい頃のアイツまんまなんじゃないか?絶対。
…眼鏡取った顔、見たい。蘭や小五郎のおじ様がいる前じゃ、絶対に取ってくれないだろうから。だって、コナンが新一だってバレたらまずいんでしょう?きっと。
「…んだよ咲羅」
「や、小さい頃の新一って懐かしいなーって思って…眼鏡取る気ない?」
「別にそのくらいいいけど…、」
眼鏡を取ったコナンは、予想通り昔の新一そのまんま!!!当たり前だけどね、本人だから!
うーわー。ずっと思ってたけど、やっぱり小さい新一は可愛いっ!欲望のままにむぎゅーって抱きしめると、腕の中から「はーなーせー!!」って声が聞こえる。うん、このやり取りも変わんないなー…昔も抱きしめるとこんな風に言われた記憶がある。その証拠に阿笠博士が苦笑いしてるからね。
「あら、良かったじゃない工藤くん?綺麗なお姉さんに抱きしめてもらって」
「灰原…、てめぇ」
「…そうだ、新一。蘭に正体を明かしてないのって、…彼女を危険に晒さない為かい?」
「!」
「で、毛利家に居候してるのは…探偵であるおじ様の元にいれば、何か組織についての情報が掴めると思ったから?」
「さ、さすが咲羅くんじゃのう…びっくりしたわい」
ま、このくらいはさすがに予想がつくさ。
…それに、新一のことだ…そのくらい考えていてもおかしくはない。元に戻る方法は何としてでも見つけたいだろうからね。
「お前…相変わらずの勘の鋭さ、だな」
「そりゃあねぇ。このくらいの鋭さがないと、探偵は務まらんでしょー」
こうして私の新しい生活がスタートしたわけです。
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