赤とのお茶会


フラリと街に出ていたら、偶然にも秀さんに会った。前は監視目的だったんだろうけど、多分、今回は本当の本当に偶然だと思う。だって秀さんの顔が、珍しく驚いていたから。レアな顔してると思うよ。今。
でもすぐにフッと笑みを浮かべて、コーヒーでも飲むか?とお誘い。特に用事もないし、急いでいるわけでもない…断る理由が1つもなかった私は、黙ってただ頷いたんだ。





「…結局、ボウヤに会いに行かなかったんだってな」
「誰から聞いたのさ」
「有希子さんだ。この間、アメリカに着いたと連絡が来てな」


連絡先交換してたんですか、アンタ。
というか、有希子さんも何で秀さんにそれを話すのか…!いや、それは有希子さんの自由だから、私がとやかく言う権利はないし、言うつもりもないけれどもさ!!


「だって、…どんな顔をすればいいのかわからなかったんだ。気づいてただろ?」
「ああ。下らん理由で会いに行くのを、躊躇っていることには気がついていたさ」
「下らんってひどいなぁ…こっちにとっては立派な悩み事だよ」


ストローを動かせば、汗をかいたグラスの中でカラン、と氷が音を立てた。…そう、私にとっては立派で重要な悩み事―――それはもしかしたら、約束を破った私への罰なのかもしれないなんて、馬鹿げたことを考えてしまう。全く…誰が下すのよ、そんな罰。
まぁ、下すとしたら…私自身、なのかもしれないね。自嘲気味に話せば、そう自分を責めるなと言われてしまった。それと同時にコツン、と額を小突いたのは、もちろん秀さんの手で。


「お前が自分を責めた所で、あのボウヤは嫌な顔しかしないだろう。それこそ下らん」
「いや、まぁ…そうなんだけどさ」
「俺はそんな顔をさせる為にアメリカ行きを進めたわけではないが?」
「う…そう言われると何も言えないデス……」


私だってくらーい顔をする為にアメリカに来たわけではない。気分転換と、色々整理したかったから来たわけで。うだうだ悩むだけなら、それこそ日本にいたって問題はなかったわけだ。……いいやもう、白状するよ!逃げたんだよ私は!!泣きそうになってガバッとテーブルに顔を伏せる。秀さんが溜息をついたのを気配と音で察したけど、もう何も言うまい…。

普段はあっけらかんとしている自覚も、能天気な自覚もある。悩んでも然程長い時間ではないし、「まぁいっか」と楽観的に考えることだって少なくない。だけど、新一に関してだけはうだうだと悩む傾向があるんだ。特に恋をしているとわかった時からは。
何でアイツを見るとドキドキするのかとか、何で新一と蘭が楽しそうに話していると嫌だと思ってしまうのかとか、恋をしていると結論に至るまでどれだけ悩んだかわからんくらい。新一から告白された時だって、そう。今までで一番悩んだ!って言いたくなるくらいに考えて、悩んだんじゃないのかな。うん。


「成長、しないなぁ…私」
「そうでもないだろう。泣き虫な所は変わってないと思うが」
「…そこは直ったよ。あれは不可抗力ってやつだ」
「まぁ、それは差し引いても―――咲羅は強くなったと思うがね」


ぽんぽん、と秀さんの大きな手が私の頭を撫でた。


「そう悩むな。…言っただろう?お前には笑顔が似合う、と」
「…言われたよ、沖矢さんにも」
「どちらの言葉も俺が発したものだがな」
「ああ、まぁね…」
「―――どれだけ悩んでいても、ボウヤに会えば全部吹っ飛ぶだろうさ」


それは言えてるかもしれない。秀さんの言葉に納得して、私は残りのアイスコーヒーを飲み込んだ。

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