恋の芽生え


―――午後三時。
小学1年生である彼らは、帰宅する時間である。


「ん。よーし、今日も大成功!」


私の最近の日課は、志保の帰宅と共に遊びに来る彼らの為におやつを作ること。
事の始まりは私の遅い昼ご飯に作ったホットケーキの残りを、食べる?と皆に勧めたことだった。今思うと、残りをやるなよって感じだけどな。そしたら歩美ちゃんも、光彦くんも、元太くんも、…そして新一までもが美味しい、と嬉しそうに笑うもんだから何だか嬉しくなっちゃって。志保は毎日、私の料理食べてるから「いつも通り。美味しいわ」ってだけ。
何て言うか…あんなに喜んでもらったのがすごく久しぶりで、無条件に顔がニヤけちゃって、それから皆が来るってわかってる時はおやつを作るようになってしまったわけです。来る時だけ、と言っても…大体、毎日来てるんだけどね。


「ただいま、咲羅。…あら、また作ってくれてたの?」
「おかえり。うん、来るって聞いてたからね」
「それが今日は吉田さん達、来れなくなっちゃったのよ。来てるのは工藤くんだけ」
「そうなの?」
「おー。3人共、家の用事だってよ。…お邪魔します」


家の用事じゃ仕方ない。それに今日作ったのはクッキーだから、然程問題でもないかな。
これだったら私の仕事のお供にもなるし、何なら新一に蘭と小五郎のおじ様への手土産として持たしてもいいし。シフォンケーキにしなくて正解だったかも。


「ま、とりあえずお茶いれるよ。2人共、手ェ洗ってうがいなー」
「「はーい」」


パタパタと洗面所へ向かっていく後ろ姿は、本当に普通の小学生だ。でも本当は17歳の男子高校生と、18歳の天才科学者だっつーんだから驚きだよなぁ…今更ではあるけど、子供のフリして学校通ってるの大変なんだろうね。小学1年生の勉強なんて、ずいぶん昔に習ってるもんだし、それでなくとも新一は頭が良いから余計に退屈しているだろう。志保だって元は科学者だから、頭脳明晰だろうし。
ほーんと毎日、よく頑張ってるよなーとか考えながら、クッキーをつまみ食い。さっきも食べたけど。お茶の準備が終わった頃、洗面所へ行っていた2人がリビングに戻ってきた。


「お、クッキー」
「新一、あとで袋にいれてやるから蘭達にあげて」
「いいのか?」
「皆が来るだろう、と思って作った量だからな…結構、あるんだよ」


ほら、とキッチンに残してきた皿を指差せば、新一も納得したらしくわかった、と頷いてくれる。私も甘い物好きだから食べるけど、さすがにあの量を消費するのは骨が折れる。そして飽きる。全部は食べきれない。
志保と博士に協力してもらうにしたって、多いしね。…それを考えると、あの子達はめちゃくちゃ食べてたんだなぁ。
学校での話や、新一が最近携わった事件の話をしながらのお茶会。お皿に盛っていたクッキーが半分くらいに減った頃、志保は調べ物があると部屋へ戻ってしまった。リビングには私と新一のみ、である。でも、何か…嬉しかったり、するんだよなぁ。


「まだ忙しいのか?仕事」
「最近は少し落ち着いた。そうじゃなきゃこうやってお菓子作ったり、話したりしてないさ」
「…それもそうか。んじゃ、ちゃんと寝てんだな?」
「寝てる、寝てる。ちゃんと夜に寝て、朝起きてご飯も作ってるくらい」
「そっか、…ならいい」


お?なんだ、新一の奴、心配してくれてたのか。


「サンキューな、新一」
「べ、別に…咲羅に倒れられると、事件の話する相手いねーし…つまんねーんだよ」
「ははっ!確かに志保とはこういう話出来ないだろうし、蘭や少年探偵団の皆は論外か」
「蘭とこんな話しちまったら、正体バレる…!」
「違いないな」


学生時代の頃と変わらず、新一とホームズの話や推理小説の話をするのは楽しくて仕方がない。時間を忘れてしまう程だ。何だか、昔に戻った気さえしてしまうなぁ…それに何で新一の傍ってこんなに落ち着くんだ?不思議な感覚だなー。
和やかに会話が続いていたんだが、新一が時間を見ようと取り出したケータイを落としてしまった。床を滑って私の足元に転がって来たそれを拾い上げると、待ち受けにはこの前蘭と私が撮った写真。びっくりしたのか、食い入るようにケータイの画面を凝視。視線を外すことが、出来なかった。


「ぅわ!」

―――バッ!

「しん、いち、…それ、」
「いや、その、これはだな…!!」


その反応。赤面した顔。
…そうか、やっぱりそうだったんだね新一。


「やっぱり新一は蘭のことが好きだったんだな!」
「…………、へ?」
「そっか、そっか。そうだよな〜蘭と園子は新一が好きなのは私だ、とか言ってたけど、やっぱり2人の勘違いか」
「え、ちょ、咲羅?」
「大丈夫!蘭には内緒にしとくし、私、応援してるからさ」


胸の奥が、少し痛むのは…きっと私の気のせいだ。
大事な大事な幼なじみの恋は、心から応援してやるべきだろう?

- 7 -
prevbacknext
TOP