■「
My Dear.」のその後
ルパンとの(不本意な)協定が済んだ後、驚くくらいにいつもの日常が戻ってきた。ボスやジョディ、キャメルくんにはこっぴどく怒られたものの、特にお咎めなしという結果。いいのだろうか、と苦笑が漏れたけど、ボスがお咎めなしと言ってくれるのならば、それに越したことはない。変に反論して自宅謹慎とか、そんなの洒落にならないし。
うんうん、と1人頷きながら街を歩いていると、1台のバイクが走っているのが見えた。何の気なしにあのバイク不二子さんが乗っていたやつに似ているな、と思ったら、脳内で再生されたのと全く同じ声で子猫ちゃん、と呼ばれて目をひん剥きました。
「は?!」
「はい、これ貴方の分のヘルメット。さっさと被って後ろに乗ってちょうだい」
尚更、は?!だ。そして日本ではバイクの2人乗りってアウトだったはずなんだけど!そんな私の叫びは一蹴されて、されるがまま、後ろに乗る羽目になりました。何か流されすぎじゃない?私!
色々と反論したいけれど、バイクに乗っているから文句を言ってもきっと不二子さんの耳には届かない。だったら、停まってから思う存分言うしかないわけで。内心溜息を吐きながら、彼女の腰に回した腕に力を込める。そして街中を疾走すること数十分。バイクは何の予告もなく、停まった。いや、予告なくて当然なんだけど。
「此処…?」
「私が泊まってるホテルよ。いらっしゃい、子猫ちゃん」
パチン、とウインクされて、思わずときめいた。同性であっても不二子さんの美貌やお茶目な一面には、ドキッとしてしまう。ほっそいし、胸大きいし、本当に同性?って疑問が浮かぶ程、素敵な女性だよなぁ。この人は。私が男だったら絶対にこの人に落とされてると思うんだ。うん。
…って、そんなことを考えている場合ではなくて!さっさと歩き始めた不二子さんの背中を追いながら、私はさっき彼女が言っていた言葉を反芻する。確か、私が泊まってるホテル―――って言ってたわよね?それはつまり、この豪華なホテルに滞在しているという意味で…でもそれを私にバラしてしまっていいのか?これを警察にリークしたら、簡単に捕まってしまうというのに。
(…だけど、それを不二子さんが一切考えていないとも思えない)
ということは、この人は私が警察にリークしないと思っている。そんなことはしない・有り得ない、と。そうじゃなきゃあっさり連れて来たりしないよなぁ。さすがに自由気ままな女泥棒さんでも。
まぁ、確かにこの場に警察を呼ぶつもりはないんだけど。ないのだけれど、…それを見透かされているというのは気分がいいものではないし、捜査官失格だと言われているような気さえする。私の思い込みに過ぎないのだろうけど、それでもやっぱり…泥棒に見透かされてしまうというのは、悔しさが募るというものだ。
「何がいい?何でもあるけれど」
「あ、…お酒以外なら、何でも」
「子猫ちゃんはお酒飲めない子?」
「いや、全然イケますけども」
そう、イケる口です。でもさすがに何をしでかすかわからない彼女の前で、無防備にお酒を飲むほど落ちぶれてはおりません。何が起きてもいいように、動けるようにしておきたいのだ。多少飲んだとしても動けるっちゃ動けるけど、まぁ用心は必要よね。
(一番いいのは、彼女から出されたものを一切口にしないことだけれど)
とはいえ、全く口をつけないというのも失礼な話だから、一口くらいは飲むけどね。変な味がしないことを祈るばかりです。……というかさ?今更過ぎるけど、本当に私は何で不二子さんに拉致られてるの?
「それで私を拉致してどーするつもりです?」
「あら、もう忘れちゃった?」
忘れちゃった、って…何を?
「電話した時に言ったでしょう?今度会った時にどんな夜を過ごしたか教えてちょうだいって」
「………あ!」
「ようやく思い出したの?ひどい子猫ちゃんねぇ」
「私、話すなんて一言も言ってないんですけど?!」
「い〜じゃない!何も減るわけじゃないんだし」
減る!何かは説明できないけど、でも確実に!私の中の何かが減るってことは目に見えてますから!ざざっと後退りして叫んでみても、不二子さんはなんのその。もう聞く気満々ってオーラを背負って、それはもうニコニコしていらっしゃる。
こんな状況でなければ、綺麗な笑顔だなーとか思うだろうけど…今はそんな余裕は1ミリもありません。つーか、無理。だって何で秀一とのことを赤裸々に語らなくちゃいけないの?!そんなの恥ずかしすぎて死ねる自信あるよ!いくら仲が良い相手でも、ソッチのことを話すとかできっこない。仲が良い相手でないなら尚のことだ!!
無理、嫌だ、と何度も抗議して、ブンブンと首を横に振ってみるけれど、それくらいで諦めてくれるような人だったら苦労はしないですよね。相手、不二子さんだもん。無理に決まってるよ、わかってた。これはもう諦めて話すしかないのだろうか、そうでなくちゃ解放してくれない気がしてきたよ。
でもどう話すのよ。最初から最後まで詳しく?…いやいやいやいや!そんなの話したくないし、自分が逆の立場だったら願い下げのパターンだよ!何故、他人の夜の生活を詳しく聞かねばならんのだ。
「〜〜〜無理っ絶対に無理だから!!」
「顔が真っ赤じゃな〜い!そんなに熱い夜を過ごしたのかしら?」
「うッ…」
「貴方ってFBIのクセに色恋事となると、思いっきり顔に出るのね。面白いわ」
面白がらないでください、切実に…!
「ふふっシルバーブレッドも大概だったけど、貴方も似たようなものね」
「…は?彼が、なに?」
「ほら、つまみ食いし損ねた時のことよ」
いや、し損ねた時のことって言われても…映像は見たけど、あの人、別段変なことはしていなかったし言ってもいなかったと思うんだけれども。でも恥ずかしくなるようなことは言ってた、…かな。キスの仕草が違うとか何とか!私じゃない、と変装を見破ってくれたことは嬉しかったけど、そんな理由?!と頭を抱えたくなったのは、記憶に新しい。
おまけにルパンと次元に宣戦布告までしてくれちゃったもんだから、恥ずかしいやら嬉しいやら、すっごい複雑になったんだよね。
「そんなに変なこと言ってなかったように思うけど…羞恥心は抜きにして」
「ああ、そうか。彼、小型カメラの電源切っちゃってたんだっけ」
「…?」
「シルバーブレッドってば、あんなにクールなのに貴方のこととなると途端に瞳に甘い色を宿すのよ」
さっきの貴方と同じようにね。
そう言われた瞬間にぶわっと全身の熱が上がったような気がした。だ、だって、確かに秀一はストレートに言葉とか態度で示してくれているんだけど…それを第三者に、となると話はまた別物だと思うの。彼のことだ。きっと隠す必要などない、と思って前面に出してきたのだろうけれど。
(嬉しいけど、ダメだ、やっぱり恥ずかしい…!)
こんなにも愛されていることが、思われていることが、幸せな気分にさせてくれるとは思わなかったよ。
大学時代の私が知ったら、絶対に驚くこと間違いなしだと思うの。あの時だって愛されていない、と思っていなかったわけではないけれど―――今と比べたら断然、言葉とか色々足りてなかったんだなぁ…と思い知らされる。
「恥ずかしがることないわ。女は愛されて綺麗になるものよ」
「…そう、ですか」
「あんな色男、逃したらダメよ?子猫ちゃん」
「逃がす?―――とんでもない。そんなこと、天地がひっくり返っても有り得ないわ」
だって私の隣はもう、あの人だけのものだから。