心強い味方、現る?
『まぁ、日本にいるの?!私も会いたいんだけど、残念ながら拠点をラスベガスに移しちゃったのよ〜…』
『そうだ!ホテルとか、住む所が決まっていないなら家に住みなさいな。円香ちゃんの部屋はそのままになってるから!』
『あ、そうそう。新ちゃんは日本に残ってるんだけど、あの子ちょっと大変なことになってて―――…』
賑やかな義姉さんの声を思い出しながら、静かに忍び込んできた足音と気配に全神経を集中させる。まぁ、誰かわかっているから警戒なんて全くしていないんだけど…忍び込んできたあちらさんはずいぶんと私のことを警戒しているみたい。
それも当然かな、あちらさんからしてみれば勝手に入り込んだ不審者なんだろうから。正体を見せたら、一体どんな反応をしてくれるのだろう。その顔を思い浮かべるだけで口の端がニヤリ、と持ち上がる。
「ねぇ、誰かが入り込んでるって本当なの?」
「間違いねぇよ。水道のメーターが動いてるし、今だって人の気配が…」
「子供の悪戯にしては―――ちょーっとおいたが過ぎるんじゃないかしら?ボウヤ、お嬢ちゃん」
開かれたリビングのドア。そのすぐ横で壁に寄り掛かりながら声を掛ければ、面白いくらいに警戒心が強くなって…ボウヤはお嬢ちゃんを庇うかのように腕を広げている。ふふ、正義感たっぷりねぇ。そういう子、嫌いじゃないわ。
だけど、勝手に入り込んでしまうのはダメね。私が強盗だったら、この子達はとっくにお陀仏だ。
「ッあ、なた……!」
「ハァイ、シェリーちゃん。お久しぶりね」
「灰原のコードネーム、」
「君は工藤新一ね?ふふっ本当に小さくなっちゃったのねぇ」
子供達の目が怯えの色を宿す。特にシェリーちゃんはその色が濃く、ボウヤの後ろに隠れるようにして私を見上げていて。
その姿にクスリ、と笑みを漏らせば、ボウヤ―――新くんの表情がグッと険しくなった。
「円香、さん…オメーまさか……!」
「勘違いしないでね、新くん。―――大丈夫、私は君達の敵ではないわ」
「え…?」
「ごめんね、シェリーちゃん…っと、今は灰原哀と名乗っているんだったわね」
「え、ええ…」
しっかしまぁ…本当にあの薬の副作用はすごいわね。本当に子供の姿になっちゃうんだもの。哀ちゃんが小さくなった姿は生で見ていたし、新くんのことだって話には聞いていた。だから別段、驚くようなことではないのだけれど…やっぱり間近で見てしまうと驚くものなんだなぁ。2人の姿をまじまじと観察して、ほう、と溜息を吐いた。
ぽかん、としていた新くんがハッと我に返ってジト目で私を見上げる。一体、どういうことなんだよ?とでも言いたげな顔で。
うん、至極当然な反応かな?まるで敵のような顔で近づいてしまったし。あれは忍び込んできた罰に少しからかってやろう、という悪戯心だったんだけど…多分、新くんに本気で怒られるから言わないでおこうっと。説明するからソファに座って、と促せば、意外にも素直にソファに腰掛けた。
「それで、何から聞きたい?」
「まず、此処にいる理由。アメリカにいたんじゃねーのかよ」
「あら、義姉さんから聞いてない?私、仕事の関係でしばらく日本にいることになったから工藤邸に居候することになったのよ」
「……は?!聞いてねぇけど!」
「もう…新くんに言っておいてね、って言ったのになぁ」
忍び込んできたのが新くんだってわかった瞬間に、ああこれは義姉さん伝えてないなって気はしてたけど。本気で忘れてるのか、それとも面白がって伝えていないのかはわかりかねるけどね。でも後者の確率は高いかなぁ。あの人、自分の子供相手でも遊んじゃう時があるから。兄さんもそうだけどさ。
「あ、の…」
「ん?なぁに?哀ちゃん」
「貴方、…私を連れ戻しに来たんじゃないの?」
いまだ怯えた色を宿したまま、哀ちゃんはそう呟いた。その言葉に新くんの顔はハッとして、再び彼の中にあったであろう疑問が首をもたげ始めたらしい。
…そうか、私の職業を明かしていないから…新くんも哀ちゃんも私が組織の一員だと勘違いしているのね。そう思うような態度をとったのは私自身だから、それを責めることも傷つくこともしないけれど。
「シェリーちゃんを連れ戻すなんてとんでもない。言ったでしょう?私は君達の敵じゃない、って」
「じゃあ貴方も組織を裏切って…?!」
「それも違う。裏切るも何も、私は元々奴らに忠誠なんて誓っていないもの」
「円香さん…?」
「組織にいたのは事実よ―――でも私はネズミ…」
「まさか…潜入していたの?」
ご名答!哀ちゃんににっこり笑顔を向ければ、少しだけ警戒を解いてくれたらしい。ネズミと言っただけで潜入していたってことを理解してくれて、説明する手間が省けたわ。…と思ったのだけれど、新くんにはそうはいかないみたい。哀ちゃんは当事者だからそれだけで理解してくれるけど、新くんはそうじゃないものね。一から説明をしてくれないと、どういうことなのかわからないって顔をしているもの。
背もたれに重心を移し、私は少し前のことを話し始めた。組織を探る為に潜入捜査官としてしばらく潜り込んでいたこと、そこではシェリーちゃんの右腕として研究に携わっていたこと、薬を飲んで幼児化してしまったシェリーちゃんを抱えて組織を抜けたこと…かなりかいつまんでいるから詳しいことは全く話していないけど、でもこれで何となくはわかってもらえたはず。
とりあえず、組織にいたのは捜査の一環だってことを理解してもらえれば問題はないわけだし。
「…そう、あの温かい腕は貴方だったのね。円香さん」
「あら、嬉しい。名前で呼んでくれるの?」
「あっ…当たり前じゃない。お世話に、なった人だし」
「ちょっと待て。なぁ、円香さん…潜入捜査官ってオメー、何の仕事してやがる…?」
おや、私、新くんに何の仕事してるのか言ってなかったっけ。……あ、そういえば誰にも言ってなかったような気もする。
ジャケットの内ポケットから私の職業を証明する為のIDカードを取り出して2人の前にかざした。
「えっ…FBI捜査官〜〜〜〜っ?!」
「うん。こう見えてもそうなのですよ。ビックリした?」
「したわよ!だ、だって貴方が…連邦捜査局の捜査官だなんて…!」
そんなに意外だって顔をされると、何か傷つくんだけど…まぁいいか。
「まぁ、そういうわけだからさ。しばらくお邪魔するわね?新くん」
「…今の姿では江戸川コナンって名乗ってる。工藤新一は事件で遠くにいるって設定だから」
「はいはい、ボロを出さないように頑張るわ―――ボウヤ?」
コナンくんと呼ぶのは違和感があってダメだな、と思ってしまったので、ボウヤ呼びでいくことにした。もちろん、当人である新くんからは「ボウヤ呼びはやめろ!!」って怒られたけど。