まるでお伽噺のように
―――ガガガガガッ!
ああああぁああもおおぉおおおっ!いい加減、弾切れになってもおかしくない程に撃ち込んでくれていますよね?!それなのにどうしていまだにマシンガンが元気いっぱいなんですか誰か教えてくださいっ!
何とか掻い潜って2階までは下りておられたけど、あともう少しの所で再び襲われてます。いいのか、こんなにぶっ放して。近いうちに警察来ちゃいますよー、絶対。
(…と思ったけど、この辺りに民家とかなかったわ)
よくよく考えてみれば、民家があるような所にアジトを構えるわけないですよねーそうですよねー私が浅はかでした。はい。
そろそろぐったりしてきた…さすがにキッドもお疲れのご様子だし、なるべく早く脱出させてあげたい所なんだけどねぇ。どうしたものか。
「うーん、ここ2階だし何とか飛び降りれるかなぁ」
「…ベルツリー急行の時も思ったけど、案外無茶なこと考えるよな」
「だからそういう職業なんだってば。アイツらに殺されるのを待つより、どうにか手立てを―――」
「見つけたぞガキ!女ぁ!」
「チッ…走って!!」
キッドの手を引いて走り出す。後ろからはいくつもの発砲音も聞こえる…幸いにもマシンガンの音は聞こえないけれど、早く脱出するか身を隠すかしないといつ蜂の巣になるかわかったもんじゃないわ。
どこか隠れられそうな場所は…と走りながら探している時だった。足と肩に激痛が走り、倒れ込んでしまったのは。
「おい?!」
「っつぅ…!」
「全く手間かけさせやがって…だが、ここまでだ。殺してやるよ、仲良く地獄へ行く、」
―――カァンッ!
「なにっ…?!」
「き、っど、今のうちに……っ」
「!」
でも、一体誰があの男の銃を弾き飛ばしたの…?私でも、キッドでもない。それにこのビル内には、私達の味方になり得る人物は1人もいないのに。あの音は恐らく、銃弾で弾き飛ばしたものだ…角度などを考えると、外からの狙撃ってこと?
(まさか、…秀一…?)
この暗闇の中であそこまで的確な狙撃ができるのは、秀一しかいない。彼だったらジョディやボスから連絡をもらっている可能性が高いし、私が銃撃戦に巻き込まれていることも、ビルに1人残った理由も予想できているはずだもの。
そっか、あの人が助けに来てくれたんだ。頬が緩み、そっと息を吐いた。
「なぁ、アンタ生きてるか?!」
「生きてる、わよ…そう簡単に死ぬ傷じゃないわ」
ズキズキ痛むし、止血していないから血は止まってないし、そのせいか頭がクラクラしてきてはいるけれど…でも多分、死にはしない。このまま放っておかれたら確実に死ぬと思うけど。でもその心配はないだろう、さっきの援護狙撃が私の予想通りなら、間もなくこの体は回収されることになる。
もし違っていたとしても、意外とお人好しなこの怪盗が面倒を見てくれること間違いなしだろうからね。さすがに自分のテリトリーに連れ込むことはしないだろうから、病院に連れて行かれるくらいかなぁ。…事件にされないと、いいんだけどな。痛む肩と足に眉を顰めながら、そんな場違いなことを考える。
それにしても、…何でこう生傷が絶えないかな。私。貰い手が決まっているとはいえ、そしてFBI捜査官だから仕方ないとはいえ、これ以上、傷痕を残してしまうのは忍びないというか何というか。
きっと秀一は気にしないだろうし、私もそんなことを気にする程に乙女ではないのだけれども。いや、多分気にした方がいいんだと思うんだけどね?気にしたら負けだと思っているというか、そんなの気にしてたらFBIなんてやってられないというか…そんな感じなのですよ。
「……?き、っど…?」
「―――誰かいる」
ひゅう、と風が吹く。その音に混じってジャリ、と地面を踏みしめる音が聞こえて視線を上げた。
「すまないな、ボウヤ。そいつはこちらで引き取らせて頂く」
「なんだ、アンタ。急に…」
「大丈夫…その人、私の上司だから」
「…は?マジで?!」
なんでそんなに驚くの。はは、と苦笑を浮かべてしまった。下ろして、と言えば渋々下ろしてくれたけど、何故にそんな不機嫌になっているのかね君は。秀一は多分、君を捕まえる気はないだろうし…そんなに警戒心丸出しにならなくてもいいのに。あ、いや、警戒心は必要か。うん。
痛む足を引きずりながら歩こうとすれば、そのままひょいっと秀一に抱え上げられてしまった。お姫様抱っこではなく、米俵のように肩に担ぎ上げられた状態だけどね。うん、これ怒ってる気がします。マジで。
「ああ…ボウヤ。この時間に子供が外にいるのは感心しないが、コイツを守ってくれたことには感謝する」
「いや、どっちかっつーと守られてたの俺…」
「フ、早く帰るといい。直に警察が来る、まだ捕まりたくはないだろう?―――怪盗キッド」
「?!」
おお、ビックリしてる感じがする…まぁ、そうだよね。キッドの格好をしていたらわかるの当たり前だけど、今の彼はただの作業着を着ているボウヤだもの。キッドを知っている人が見たって、だーれも気がつかないはずなのに。それなのにどうして、って思っているんだろうなぁ、この子は。
でもね、FBIをナメない方がいいわよ?FBIというか、秀一をって言った方が正しいかな。この人の観察力半端じゃないんだから。
呆然と立ち尽くしているであろう彼を置いて、秀一は歩き出した。このまま病院に連れて行かれるのかな…それとも工藤邸?銃で撃たれたとはいえ、そこまで深い傷ではないだろうから家で手当てをしてもらえれば全然構わないのだけれども。でもそれ許されないだろうなー下手すると入院かなぁ。せっかく記憶も戻って復帰できたのに、また休暇とかシャレにならない。
は、と短く息を吐き出せば、秀一の足が止まり抱え直された。担がれていた体勢からお姫様抱っこに変えられ、一瞬だけ頭が真っ白になる。え、何でこっち?!何ですか、と文句を言われる前に口を塞がれてしまい、音となることのなかった言葉は飲み込まれるしかなかった。
「ふ、…んぁ、秀一…っ」
「全く…本当に無茶をするな、お前は」
「ごめんなさ、」
「少し寝ていろ。すぐに病院へ連れて行く」
汗で張り付いた前髪を払い、頭を撫でられる感触にうっとりと目を閉じた。