頑張るのも程ほどに
「はぁ?キッドと共闘しただぁ?!」
「しっ!声が大きいわよ、ボウヤ」
「あ、ワリ……でもそれ、マジな話なのかよ?」
「マジマジ、大マジよ。共闘っていう程ではないけど、ちょっとしたアレでね」
「うーわ、何だよそれ…」
案の定、私は2週間の入院となりました。幸い、傷はそこまで深くはない。足も掠ったのみだったので、塞がってしまえばリハビリをしなくとも動けるようになるだろう、というのがお医者さんの見解。肩はバッチリ撃ち抜かれてしまっているから、今までのように動かせるようになるまで時間はかかるらしいけれどね。
そうなった経緯をお見舞いに来てくれたボウヤに話したんだけど、これまた案の定、驚かれました。予想していたけど、やっぱりか。
「ま、あのビルは日本警察が押さえてしまったから偵察は無駄になったみたいだけど?」
「そりゃそうだろうよ…ドンパチやっちまったんだろ?」
「主にあっちがねー。あっぶない橋渡ってたんじゃない?あの調子だと」
FBIとしては証拠になり得る人物を取り逃した、って感じもあるんだけど、結局完璧な裏付けは取れなかったからな…本当に黒の組織と関係していたのかは、もう闇の中。公安も追っていた可能性は高いから、直に白黒ハッキリつけてくれるとは思うけどさ。
ただ、その情報はこっちに流れてこないだろうから、どうにかして手に入れないといけないわけだけど。
(こういう時、手を組んでいたら楽なのにって思うんだけどねぇ…)
それはいつまで経っても無理だろう。絵空事に過ぎない。いずれ、組織を壊滅させる瞬間には―――手を組むことになるかもしれないけれど、果たしてどうなることやら。
でも…ボウヤがいればそれも可能になってしまうのでは、と最近では思うのよね。ただでさえFBIと公安にツテを作ってしまった恐るべき子供なんだから。
「じゃあ俺はそろそろ帰る。明日は灰原も連れてくっからよ」
「ん、楽しみにしてるね」
ボウヤがパイプ椅子から立ち上がった時、病室のドアが開いた。そこにいたのはジョディなんだけど、…私は何となく違和感を感じて首を傾げてしまう。ボウヤはそんな私を見て不思議そうな顔をしたけれど、何か思い当たったかのような表情になって足早に出て行く。
おいこら、病院は走っちゃいけません!私の声にはーい、と可愛らしい子供特有の声を出したけれど、そんなので騙されると思った、ら……騙されるよねぇそりゃあ!ほーんとあんなあざとさまで身につけちゃってるんだから我が甥っ子は。
「夕方にだーいじな会議があるんじゃなかったの?ジョディ」
「ああ、あれは中止になったのよ。だから貴方のお見舞いに…って、なぁに?変な顔しちゃって」
「貴方…ジョディじゃないわね?―――キッドかしら」
ニッと口角を上げて言い放ってやれば、はーとあからさまな溜息をつかれた。
ほほう、当たりってわけか。カマってかけてみるものね。
「カマかけやがったな…」
「ええ、もちろん。でも彼女の顔でその声って…気持ち悪い」
「悪かったな!仕方ねーだろ、変装しないで来るわけにもいかねぇしっ…!」
そもそも何でそんな危険を冒してまで、この病院にやって来てるのか聞きたいんだけど。とりあえず座れば?と声かけながらも、質問は欠かさない。わざわざ変装してまでやって来たんだもの、私に用事があるってことでしょう?
「ピンピンしてる所を見ると、警察には捕まらなかったみたいね」
「ああ、見つからずに済んだよ。お宝は見れなかったけどな」
「でしょうね。あの建物、警察が押さえちゃってるから」
「まぁ、そうそう当たりには出会えねぇ運命だし…ハズレだった確率の方が高いけど」
怪盗キッドという名前は知っているし、ビッグジュエルを狙う怪盗だというのも知っている。でも彼本人の話を聞いている限り、ただ宝石欲しさに盗みを働いているということではなさそうだ。
それに…当たり・ハズレがどーのって言ってたわよね?それってつまり、ハズレだった宝石には興味がないってことになる。それはつまり、目当ての宝石はたった1つだけってこと。
何故、それを探しているのか私は詮索するつもりもないけど―――きっと、彼にとって大事なものなのだろう。危険を顧みず、突っ込んでいくくらいだからね。
「…で、俺がここに来た理由だけどさ」
「うん?」
―――ポンッ!
「わ?!」
「……見舞いに、来た」
「驚いた、…そうか、キッドってマジシャンみたいなことしてたわね」
目の前に差し出された花を受け取り、独り言ちる。月下の奇術師とか言われてるもんね。盗む瞬間は見たことなかったけど蘭ちゃんと園子ちゃんが、イリュージョンだとか何とか言っていたような覚えがあるな。
はー…すごい、キッドじゃなくてマジシャンとしてアメリカに行けばいいのに。修業すればきっと有名になれるはずだ、この子は。
「ふふ、ありがと。気にしてたんだ?」
「そりゃっ…守られて、たし…その怪我だって俺があの場所にいなきゃ負ってなかっただろ?」
「うーん、どうだろう?君がいなかったとしてもあの銃弾が飛び交う中じゃあ、無傷っていうのは無理でしょ」
「そうだとしても、…悪かった」
「気にしないでいいわよ。傷なんていつかは治って、消えていくものなんだから」
時計を見ればもうすぐ17時になろうとしていた。そろそろ秀一が来る頃かな…夕方に顔を見に行く、と連絡が入っていたし。まぁ、来るのは秀一ではなく沖矢くんなんだろうけど。あの日は緊急事態だったから秀一のままだったけど、今回はそうもいかないだろう。
まず、本来の姿のまま外に出ること自体、危険なんだもの。そう簡単に変装を解いたらマズいのよ、いくら自分でできるようになったからとはいえ。
もらった花をくるくる回しながら、ジョディの変装をしているキッドにそろそろ帰った方がいいことを知らせる。何で?って顔をされたけど、これから来る人物はジョディのことを知っているからと教えれば、げっ!っという顔。うん、これは事の次第を理解したようね。良かった、良かった。
バタバタと出て行くキッドの背を見送りながら、沖矢くんとバッタリ遭遇しないといいなぁ、と願う。でもその矢先、怪訝な顔をした沖矢くんが入ってきたもんだから会っちゃったな、と心の中で合掌した。
「もしかして、彼が来ていましたか?」
「あはは…やっぱり君にはバレバレだった?」
「バレバレというか、さっきまで本人と一緒だったので自ずと…」
「あっちゃあ…そうだったの」
「とは言っても、彼女はもう帰りましたから鉢合わせすることはないと思いますよ」
ああ、そうなんだ?それなら良かったけど。ジョディはきっと怪盗キッドなんて知らないだろうから、見た瞬間にベルモットと勘違いしそうなんだもん。そうなったら大変なことになりそうだし。
ふう、と安堵の息を吐き出していると、沖矢くんの目が私の手元を凝視していることに気がついた。何かついて、…あ、この花か。気になるの?と花を持ち上げれば、珍しくいや…と口ごもる。
こんな彼は何度か見たことがあったけど、そういう時は大概―――気に食わないことがある時だ。私と兄さんの関係を知らなかった時もそうだったけど。ああ、でもあれは気に食わないっていうか、気になるって感じの方が強かったように思うけど。
「お見舞いとお詫びの花だって。さっきもらったの」
「ホー…飾っておくか?」
「急に秀一にならないでくださいってば…。せっかくもらったので飾りますけど、でも嫌なんでしょう?」
「まぁ、いい気はしないな。他の男にもらった花というのは」
「彼に下心はありませんよ。ただのお見舞いなんですから」
わかってはいるが、と言いながらも、眉間にシワ寄ってますよ沖矢くん。それからさり気なくキスしようとしないでください、その格好の時はそういうことしないって約束忘れたのかこの野郎…!
「…仕方がない。退院したら覚悟しておけよ」
「うわぁ、物騒な言葉…」
退院まであと1週間と4日。
その頃、私の体は無事でいられるのか…それはもう、神のみぞ知るってやつですね。