Hello,sister-in-law!


その再会は偶然も偶然。というか、予想なんて全くしていないものでビックリしたにも程がある。だって、彼女が日本にいるなんて思いもしなかったから。…あの人も教えてくれたら良かったのに。そしたら私から会いに行くことだってできたのにね。


「円香姉!!」


そんなことを考えながら、私はぎゅーっと抱きついてきた可愛い可愛い妹のような存在にこっそり笑みを浮かべていた。
彼女が居候している工藤邸に飛び込んできたのは、今から数十分前のこと。仕事が終わって帰宅した私は、スーツから着替えるべくすぐに自室へ引っ込んだの。でもそれはいつものことだし、リビングやキッチンにいる沖矢くんには必ずただいま、って声はかけてるよ。たまに遊びに来ているボウヤにも(って言っても、この家はボウヤの家なんだけどさ)。
まぁ、それは置いておいて…すぐに自室へ引っ込んじゃうから、その間の来客応対なんかは全部沖矢くんに任せちゃってるのよね。着替え終わるまでは出ません、っていうスタンスなので。もちろん、着替えが済んでいれば応対しますよ?そこまで横着はしませんって。
だけど、今日の来客は私が自室に引っ込んで数分後。それもインターホンが鳴った―――というより、無理矢理にドアを開けられたって感じだったかなぁ。音だけで判断すると。さすがにビックリして肩が揺れたよね、ビクッて。
驚いたんだけど…ドア越しに聞こえる声はどこかで聞いた覚えがあって。ん?って首を傾げた。ハスキーな声で、喋り方にも特徴があって。そうなると気になって仕方ないじゃない?何かモメてるような気もしたから、さっさと着替えて1階に下りたらあらビックリ。冒頭に戻るわけですよ。


「久しぶりだねぇ、真純ちゃん。日本に来てたんだ?」
「ああ、帝丹高校に通ってるんだ!」
「成程。それで見覚えのある制服着てるし、蘭ちゃん達と一緒だったのね」
「世良ちゃんが円香お姉様と知り合いだったなんて…!」
「うん、ビックリした…」
「円香さん。良ければ上がってもらったらどうです?貴方に会いに来たようですから」
「そうだね。3人共、急いでなければお茶でもどうかな。沖矢くんの作ったお菓子美味しいよ」


子供を誘ってるんじゃないんですから、と沖矢くんには呆れ顔をされたけど、3人は難なくOKしてくれたよ?女の子は割と甘いものの誘惑に弱いのですよ!
キッチンに消えていく沖矢くんの背を見送って、私は真純ちゃん達をリビングに案内した。いやー、それにしても本当にビックリした。何で私が日本にいることも、この工藤邸にいることも知っていたんだろう?
何より謎なのは、インターホンを押さずにいきなりドアを開けたっぽいこと。何か理由があったのかな?…インターホン押さない理由って何さ。


「―――円香さん」
「あ、ありがとう。沖矢くん」
「いいえ。私は書斎にいますので」
「ん。わかった」


ポットとカップ、そして昨日焼いたらしいマドレーヌが乗せられたトレイを受け取れば、ふわりと頭を撫でられて頬が緩んでしまった。ふふ、こういう時の体温とか優しさは変わらないよねぇ?変装していても。


「やーだ、お姉様っ!ラブラブなのね、昴さんと!」
「あはは。相変わらず好きだねぇ、そういう話」
「女の子ですもの!」
「…円香姉、もしかして」
「あー…うん、つき合ってるの。さっきの彼と」


真純ちゃんの記憶の中の私は、きっと秀一とつき合っていた時で止まっている。自然と連絡を取らなくなっちゃって、秀一と別れた後は会うこともなかったから別れたことも話していない。秀一が話したかもしれないけれど、この反応を見る限り話さなかったんだろうなぁ。これは。
まぁ、妹だからといって逐一報告する義務なんてないからね。話すも話さないも、それはあの人の自由だと思う。それに私も別れました、なんて話すつもりなかったし。そりゃあ、聞かれれば答えるけどさ。自ら話すってことはしない、ってことだよ。
私の話を聞いた真純ちゃんはどこか複雑そうで。苦笑を浮かべてそっか、と言った。


「円香姉、聞いてもいい?」
「…あの人のこと?」
「!…うん」
「あの人が大学を卒業する前にね、別れちゃってるの。それっきり」
「そっか、…そっかぁ、別れちゃってたんだ秀兄と円香姉……」
「え?円香さんの忘れられない人ってまさか…」


うん、真純ちゃんのお兄さんです。紅茶に口をつけながらしれっと答えると、蘭ちゃんと園子ちゃんはビックリ顔。
そんな驚くようなことかなぁ…ああでも、友達のお兄さんとつき合ってたとか忘れられないとか、意外と驚く事案なのかもしれないね。うん。
私だったら多分、へぇそうなんだーで済ませちゃいそうだけど。


「でも世良さんのお兄さんって亡くなってる、んだよね?」
「うん、そう聞いてるよ」
「…前に言ったでしょ?もう手が届かない、って」


実際は生きてますけど。事情があって死んだふりしているだけで、別人になって生きてますけどね!もっと言えば、さっき会ってますから!!本当に真純ちゃんにはネタバレしてあげたいよ…あんなにも懐いてて、お兄ちゃんっ子だったのを知っているから余計に会わせてあげたいって思っちゃう。
彼女は怒るかもしれないけれど、きっと嬉しそうに笑ってくれると思うから。全てが片付いたらまた、楽しそうに話をする秀一と真純ちゃんの姿を見ることができるのかしら。

(あれでいて秀一も真純ちゃん大好きだからなぁ…)

見ているだけではあまりわからないかもしれないけれど、案外シスコンなのです。だからきっと、生きていることを告げられないこの状況が辛いって思ってるんじゃないのかなって。ちょっと心配なのよね。杞憂だったら、それはそれで構わないのだけれど。
秀一も真純ちゃんも大事だから、2人にはずっと笑ってもらいたいって思うんだよ。それを願うくらい、構わないでしょう?
沖矢くんお手製のマドレーヌを頬張りながら、女子高生3人は楽しそうにお喋りしている。真純ちゃんって男の子っぽい所があったけど、それは今でも変わらないし相変わらずイケメン女子なんだけど、でも…蘭ちゃんと園子ちゃんとこうして話している所を見ると―――ちゃんと女の子なんだなぁ、って思う。本人に言ったら失礼でしかないんだけどね。


「なぁっ円香姉!今度、何処か出かけないか?」
「え?」
「せっかく会えたんだ、僕、もっと君と話したい」
「…ふふっいいわよ。空いてる日を連絡するから、アドレスと番号教えてくれる?」
「もちろんっ!」


私と彼女は連絡先を交換して、真純ちゃん達は今日は帰ることにしたらしい。


「気をつけて帰ってね」
「はい。昴さんにもお礼を言っておいてください、ごちそうさまでしたって」
「わかった、伝えておくわ」
「じゃあ、またね!お姉様っ」


またね、と手を振ったんだけど、真純ちゃんがじっと私を見上げたまま動く様子を見せない。蘭ちゃんと園子ちゃんもどうしたの?と声をかけるけれど、彼女は反応を見せなくて。
え、ちょっと本当にどうしたの?彼女の名前を紡げば、何とか反応を示してくれたけれど今度は私の服の裾を握ったままだ。蘭ちゃんと園子ちゃんは何か思う所があったのか、外で待ってるねと先に出て行った。
パタン、と玄関が閉まる音がしても真純ちゃんは口を開こうとはしない。もう私と彼女しかいないのに、まだ言いにくいことなのだろうか?


「真純ちゃん?」
「円香姉、は……」
「ん?」
「秀兄のこと、まだ好きなのか?」


驚いてしまった。まさか、この子にそんなことを聞かれるとは思わなかったから。でもさっき、蘭ちゃんが忘れられない人が…って言っていたから、それで疑問に思ったのかもしれない。
忘れられないと言ったのに、今は沖矢くんという全く違う人とつき合っているから。


「蘭くんが言ってた円香姉の忘れられない人は秀兄だ。それってつまり、まだ好きだってことなんだよな?」
「うーん…何て言えばいいのかなぁ。どう言えば君が納得してくれるか、なんてわからないけれど…」
「…うん」
「私にとってあの人はね、唯一の人なの。かけがえのない存在なの。きっと、…秀一に代わる人なんて一生出会えないと思ってる」


この言葉は、想いは、『沖矢』くんにはとても失礼だ。そんなの百も承知。…それでもやっぱり、これが私の本心なんだ。


「沖矢くんのことは好きよ。秀一の代わりにしているわけじゃない、彼が好きで…つき合ってるの。―――でも」
「一生、一番は秀兄?」
「うん。これから先、私はずっと秀一を想い続けるわ。どんなに沖矢くんを傷つける結果になろうとも、それだけは…変わらないと思うから」


まぁ、同一人物なわけだから?こんなまともっぽいことを言っても、愛しているのは昔も今も変わってないってことになるんだけど。だけど、秀一が別人として生きていることを知らない人に説明をするには、これが一番わかりやすいかなって。
それに同一人物だって頭ではわかってるけど、胸に甘い痛みが走るのはやっぱり変装をしていない時や、変装をしていても秀一が滲み出ている時だから…どうしても秀一が一番ってことになるのよね。自分で言っておきながら段々と意味がわからなくなってきたけれど。


「なら、何で別れちゃったのさ…秀兄に何かされた?」
「まさか!そんなわけないじゃない。そうね…しいて言うなら、私が弱かったから続けられなかったの」
「円香姉が?」
「淋しくて仕方なくって、待っていられなくなっちゃって…今だったらきっと、それでも平気なのかもしれないけど」
「そ、っか…」


真純ちゃんがそんな顔する必要、ないのに。


「…ごめん。何か、嫌なこと聞いた」
「そんなことないわ。真純ちゃんこそ、嫌な思いしたんじゃない?ごめんね」
「ううん、聞かせてくれてありがと。円香姉」


バイバイ、と手を振った真純ちゃんは、スッキリとした顔をしていた。もしかしなくても、心配させちゃってたのかなぁ…つき合いがあったのはずいぶん昔なのに、まだ『円香姉』って呼んでくれているし。
鍵を閉めてリビングに戻ろう、と踵を返すと、書斎に引っ込んでいた沖矢くんがいた。ああ…真純ちゃん達が帰ったことに気がついて出てきたのか。


「別にリビングにいれば良かったのに」
「…さすがに女だけの会話に混ざるわけにもいかんだろう」
「真純ちゃんと話したかったんじゃありません?」
「まだ時期ではないさ」


伸ばされた腕が私を抱き寄せる。頭上では小さな溜息が吐かれ、何だかお疲れモード?んん、でもそんな感じではないなぁ…どっちかっつーと、後悔しているようなそんな感じだろうか。
どうしたんです?と聞いてみれば、改めて聞くと堪えると言われたんですけど。改めてって…え?どういうこと?というか、何を聞いたの?ワケがわからなくて頭上にはたくさんのクエスチョンマークが出現中です。はい。


「真純と話していただろう?俺と―――…別れた時のことを」
「ああ、別れた理由のことですか」
「俺が悪いのは十分わかっていたつもりだが、やっぱりお前の口から聞くとな…」
「大丈夫です。今だったら絶対…何があっても待てますから」


今度はもう無理だ、なんて言わない。逃げ出したりもしない…ずっと、貴方の傍にいますから。
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