純粋無垢な君が纏うのは


「は?」
「だーかーら!お姉様にモデルやってほしいの!」


園子ちゃん、君は何でいつもよくわからない爆弾を落としていくんですか。何だよモデルって!
ちょっと相談したいことがあるから、今から家に来てって言われたから来てみたものの。言われたのはモデルやって、って驚くべき言葉でした。


「園子の知り合いにブライダルのカメラマンさんがいるらしいんですけど…」
「今度撮る予定だったウェディングドレスのモデルさんがドタキャンしちゃったのよ!!」
「へぇ、それはまた…」


大変だね、と口にする前にガッと両手を掴まれた。掴んだのはもちろん園子ちゃんで、目をウルウルさせて上目遣い。
ぐっ…女の子のこういう顔に弱いのに、わかってやってるのかな?この子!!


「何かね、そのカメラマンさんが園子姉ちゃんと歩いてた円香姉ちゃんを見かけたことがあるらしくて…」
「ずいぶん円香さんを気に入ったみたいで、是非彼女に!って言われちゃったんだそうです」
「何故に私……っ!」
「美人だし、スタイルいいし、絶対似合う!撮りたい!!って繰り返されたわ」
「熱烈だよねぇ、そのカメラマンさん」


そういう問題じゃないよボウヤ。熱烈だったらいい、とかそんなわけない。断じてないから!!むしろ、熱烈な方が大迷惑なパターンじゃないか…!絶対、どんなに断ってもしつっこく誘ってくるやつだ。
そりゃあお困りだったら助けてあげたいのは山々よ?それも園子ちゃんの知り合いとあれば尚更ね。だけど、内容が…っ!モデルなんかじゃなければ快く引き受けても何ら問題はないと思うんだけど、モデルって!しかもウェディングドレスってなんだそれ。
結婚する前に着る羽目になるの?いや、結婚自体いつになるかわからないし、式なんて絶対に挙げないと思うけどさ!そういうのはなるべく避けた方がいいであろう職業ですからね、一応。
まぁ、私の事情は置いておこう。今は関係ないことだし。それにしても、どうしようかなぁ…いくらカメラマンご本人に強く要望されているとしても、私、ど素人なんですけれども。モデルなんて一度もやったことないし、言われる程スタイルもいいとは思えない。果たして役に立てるのか、という疑問が残るわけですわ。
ボヤいても蘭ちゃんと園子ちゃんは大丈夫!の一点張りだし、唯一の味方だと思っていたボウヤにも似合うと思うけどな、とあざとい仕草で返された。なんだこの野郎、首傾げるとか可愛いじゃないか。
引き受けるにしても、沖矢くん怒らないかなぁ…モデルとか。沖矢くんというか、秀一?


「……受けてもいいけど、いくつか条件出してもいい?」
「もっちろん!ちゃんと彼に伝えるわ」
「仕事が忙しくてカメラマンさんのスケジュールに合わせられる余裕がないの、だからこっちのスケジュールに合わせてもらえると助かるかな」
「うんうん、それから?」
「それから、……さすがに1人じゃ嫌。撮影時に蘭ちゃん、園子ちゃん、コナンくんが来てくれるならいいよ」


この2つが条件。わがまま言うなよ、って我ながら思うけど、うん、ごめんなさい。譲れない部分っていうのはどうしても出てくるものなんです。苦笑しながらもハッキリ告げたそれを、園子ちゃんはカメラマンさんに言っておくからね!とにっこり笑ってくれた。
はてさて、どうなることやら。

そんな話をした翌日。早速園子ちゃんから「お姉様の条件、飲んでくれるって!」とハイテンションな連絡が入りました。その場でスケジュールを確認すると、5日後に非番で丸一日時間が取れそうな日がある。休日は彼とも共有しているけれど、この日は別に出かける約束はしていなかったわよね。
多分、食材や日用品の買い足しくらいかな…あとはいつも通り、家でのんびり読書をするくらいだろう。前もって出かける旨を伝えておけば、特に問題はないはず。素直にモデルをやるってことを言おうかと思ったけど、止められてしまったらマズいよなと思い直し、蘭ちゃんと園子ちゃんと出かけるってことだけ伝えることにした。





「じゃあいってきます。夕飯までには帰るね」
「遅くなるようでしたら連絡してください、迎えに行きますから」
「わかった。とりあえず、帰る時に連絡するようにするわ」
「ええ、お願いします。いってらっしゃい、円香さん」


彼女達と待ち合わせしているのは駅前。最初は沖矢くんが車で送ってくれる、とのことだったんだけど…どうやら撮影に使うスタジオは米花町内にあるらしくてさ?カメラマンさんのアシスタントさんが駅まで迎えに来てくれるんだって。
鉢合わせすることはないだろうと思っているけれど、万が一そうなったらどういうことです?と尋問されるに決まってる。それはどうしたって避けたいので、近いから大丈夫!歩いて行ける!と突っぱねたのだ。
何でそこまで拒否するんだ?と言いたげだったけど、運動不足なんです、と苦しい言い訳をすれば、とりあえずは納得してくれたみたい。

(ああ、でもモデルすること黙ってるから…写真を見せてあげることできないのか)

何で好き好んで自分の写真を見せねばならない、と眉間にシワが寄ったが、不本意に近いとはいえ、せっかくの晴れ姿(?)だ。やっぱり好きな人には見てもらいたいって気持ちは、あるよね。少なからず。どんな反応をしてくれるのかも気になる所だし。
そう思う反面、ウエディングドレスを着て写真を撮ることになった経緯を聞かれたらどうしようかな、と考えてしまう。うん、やっぱり写真も封印かな。


「円香姉ちゃーん!」
「あ、おはよー。3人共」
「おはようございます、円香さん」
「あれ?お姉様、1人?てっきり昴さんを連れてくるのかと…」


何でそんな考えに至ったの園子ちゃん。


「だってあの人、結構過保護でしょ?だから、モデルやるなんて言ったら絶対に来ると思ってたのよ」
「…言ってないもん、モデルすること」
「えっ?!黙って来ちゃったんですか?」
「君達と出かける、とは言ったけど…モデルの件は何も」
「円香姉ちゃん…それはさすがに昴さん心配するよ?」


ボウヤの言葉にやっぱり?と苦笑を浮かべるも、でも面倒なことにはしたくないしなぁ…と思っているのも、本音なのです。言わなかったら余計に、面倒なことになりそうだけど…という小さな名探偵の呟きに、ビシッと体を固くする。
固まった私に気がついたのはボウヤだけ。ギギギ、と音がしそうな仕草で彼の方を向けば、気がついてなかったのかアンタ、と言わんばかりの目で見上げられていましたとさ。


「アホでしょ、円香さん」
「呆れた顔しないでコナンくん…!」
「したくもなるわ。つーか、写真も見せねぇつもり?」
「え、うん…言わないで写真だけ見せたら、追及されちゃう」


だったら、一から説明しとけば良かったじゃん。
溜息交じりに言われた一言に、今更ながら同意しそうになったのは言う間でもない。こっそり頭を抱えている間にお迎えのアシスタントさんが来たらしく、あれよあれよと言う間に着替えとメイクをすることに。ドレスも数種類あるらしく、その度にアクセサリーの総付け替えとメイク直しが入ることとなる。うっわぁ…これは想像していたよりも長丁場になりそう。
ついてきてもらった3人は滅多に入れない撮影現場だからか、きゃいきゃいと楽しそうに辺りを見渡している。あー、私もそっち側に回りたかったなぁと若干、遠い目。スタイリストさんやメイクさんが気を遣ってなのか、肌綺麗ですねとか、聞いていた通りスタイルバッチリですね!とか話しかけてくれているんだけど、どう反応するのが正解なのかな?!コレ!
ただ、そうですか〜あはは〜と愛想笑い浮かべるので精一杯なんですけれども!!外見とか褒められ慣れてなくてどうしていいかわかんないんだって!
そうこうしているうちに1着目の撮影が始まった。まずはプリンセスラインのドレス。多分、これが一般的なのかな?よくわからないけれど。


「うわぁ…!さすが円香お姉様ね!」
「すっごい綺麗…ね、コナンくん」
「う、うん。ビックリした」


そんな会話がされているとは露知らず、撮影はどんどんと進んでいく。途中、休憩をはさみながらも想像以上に急ピッチで撮影が進んでビックリしています。
だってドレスの種類、多いんだよ?!7種類くらいあったし、それ以外で赤と黒のウエディングドレスが1着ずつ…え、ウエディングドレスって白だけじゃないの?赤ってカラードレスじゃないの?そして黒を着る人もいらっしゃるの…?
黒は格式高い色だ、と聞いたことはあるけれど、結婚式で純白を着るのって『清純』を表すからじゃなかったっけ。話を聞いてみると、黒のウエディングドレスを着る人は決してゼロではないそうな。でもやっぱり、白が一般的みたい。
こんなのもあるんだ、ってビックリしたのは、何も色だけではない。ミニ丈があることも、今回の撮影で初めて知ったのよね。私が着たのは後ろは他のウエディングドレスと同じく長いんだけど、正面から見るとひざ丈くらいになってるの!丈が短いのも可愛いなぁと思ったし、何より動きやすくて感動したわ…!


「円香さんは綺麗な足しているから、ミニ丈が一番映えるかも…」
「ミニもいいけど、マーメイドラインも良かったわよ?」
「うーん、でもやっぱりどれも似合ってたなぁ…黒のドレスも着こなしててすごかったよね!」
「…君達、本人を前にしてそういうこと言わないでよ…」
「諦めた方がいいよ、円香姉ちゃん。きっと2人共、止まらないから。満足するまで」


えええ…それは勘弁してほしいなぁ。正直、カメラマンさんに撮ってもらうだけでもぐったりなのに、次のドレスに着替える前に3人に写真を撮られて尚更ぐったりだよ…。
全て終わる頃には本当、精根尽き果てた状態になっていました。歩いて帰るつもりだったけど、沖矢くんに迎えに来てもらおう。そうしよう。この時はまだ、彼に問い詰められることになるとは思っていなかったのです。
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