私の初恋、僕の初恋


蘭ちゃんと園子ちゃんとボウヤが工藤邸に遊びに来た。メンツ的に掃除に来たのかな、と思ってたけど、そうじゃないみたい。私がいるし、そう頻繁に掃除に来たりしませんよ〜と蘭ちゃんは笑ってる。それでこっそり、恋人の時間の邪魔はしませんって耳打ちされました。
それはもう、顔があっついですよね!高校生に気を遣われる大人って…大人って!!


「では、私は書斎にいますのでごゆっくり」
「あっ今日は沖矢さんも一緒にお喋りしましょうよ!」
「…私も、ですか?」


思わぬお誘いに沖矢くんがきょとんとした表情を浮かべた。ビックリして目が開かなくて良かったね。多分、それでもバレたりはしないと思うけど…蘭ちゃんとは昔に一度だけアメリカで会ったことがあるって言ってたし、用心しておくに越したことはないのです。どこからバレるかなんてわからないし、蘭ちゃんも時々鋭いからなぁ…これも新くんやおじ様の影響だったりするのかしら。
まぁ、それはともかく。どう対処すればいいのか困ったんでしょうね、視線だけが私に向いた。あはは、困ってる困ってる。沖矢くんもこんな顔できるんじゃないか、別人を演じていても滅多に表情崩さないからこういうのって嬉しくなるよねぇ。
ふふ、と笑みを零しながら、隣をポンポンと叩く。そうすれば少しだけ躊躇したけど、すんなりと腰を下ろしてくれたよ。


「たまにはいいんじゃない?女子高生とお話するのも」
「…その言い方は親父くさいですよ、円香さん」


だってそれ以外に言い方がないじゃないか。とりあえず沖矢くんの分のカップとお菓子がないし、取りに行ってこよう。お菓子が余ってるか聞いてみれば、まだまだあるらしいです。
ちなみに今日のお菓子はシフォンケーキ、これまた沖矢くんの力作だったりする。…2人暮らしなのにシフォンケーキ作るってどうなの。本当、蘭ちゃん達が遊びに来てくれて助かったよ。そうじゃなきゃ食べきれないでしょ、4人分切り分けてまだまだ残ってるんじゃ絶対に。

彼の分のカップとお菓子を持ってリビングに戻ってくれば、何だか盛り上がっていた。盛り上がっていた、と言っても蘭ちゃんと園子ちゃんがだけどね。ボウヤはまだ違和感ないだろうけど、沖矢くんが盛り上がって話に混ざっていたらそれはそれで笑う。面白映像まっしぐらだよ、それ。見てみたい気もするけどね。
でも何の話をしているんだろ…何だか蘭ちゃん達の頬が赤い気がするけど。


「あっおかえり、円香姉ちゃん!」
「ただいま。何の話でそんなに盛り上がってるの?」
「ふふん!それはもちろん、お姉様と沖矢さんの話よ!」
「…沖矢くん、変なこと話してないよね?」
「ええ、恐らくは」


恐らくってなんだそれ、怖い!!ひくり、と口元が引きつったのが見えたのか蘭ちゃんが慌てて変なこと言ってないです、大丈夫です!とフォロー。ボウヤも変な顔してないし…これは多分、蘭ちゃんがフォローしてくれた通り、変なことは口走っていないのだろう。
うう、でも恥ずかしいってことだけは変わらない。自分がその場にいようがいまいが、沖矢くんとの関係を話題に出されるのは苦手なのだ。だってどんな告白だったのかとか、どっちから告白したのかとか、どんな所へデートに行くのかとか…そういうことを赤裸々に語るって、恥ずかしくないわけないでしょう?あまり突っ込んだことは聞かれないだろうけど、できれば黙秘したい気分なのです。
これは根掘り葉掘り聞かれるのかなぁ、と苦笑したんだけど、話はあらぬ方向へ。


「ねぇ、円香お姉様の初恋ってどんな人なの?」
「…え?初恋?」
「そう!今の彼氏は沖矢さんで、その前の彼氏はアメリカの人でしょ?」
「まぁ…」
「だとしたら、あとは初恋の人も聞きたいじゃない!」


いや、聞きたくならないよ。絶対。少なくとも私は。


「沖矢さんも気になりますよね?円香さんの初恋の人」
「そうですね、お聞きしたいです」
「えー…」
「ほらほらお姉様っ!3人も聞きたいって言ってるんだから」


あ、ボウヤには聞かないのね。…って当たり前か、一応小学一年生だもんね。
それにしても、…初恋かぁ。忘れてるってわけではないし、ちゃんと覚えてるけど…何かすんなり答えるのも面白くない。


「兄さん、かなあ」


ボソリ、と呟いた言葉。破壊力は抜群だったらしく、一瞬しーんとした後―――蘭ちゃんと園子ちゃん、そしてその2人の声に混じってボウヤの驚く声も聞こえた。沖矢くんは何とか叫ばずに済んだらしい。でもあまりの爆弾発言に目は見開いてます。
おや、思っていた以上の反応だなぁ。それもそうか、初恋の人が実の兄って何だそれ!ってなるよね、私もなる。騒ぎが収まるまでズズーッと紅茶を飲んでいると、恐る恐るといった感じで蘭ちゃんがどういうことですか?と尋ねてきた。


「兄さん、って…新一のお父さんのことですよね?」
「ふふっちょっとした冗談よ、憧れていたのは本当だけど」


そう。私は幼い頃、兄さんに憧れていた。あの人なんでもできちゃうし、推理力も抜群だし、すごいなぁと目をキラキラさせていたのです。今でもその気持ちはあるけれど、それを凌駕する程の憧れを別の人に抱いてしまっているから幼い頃程ではないかな。
なら、本当の初恋の人は誰だって話にもちろんなるわけで…うーん、これ以上はからかうと本気で怒られちゃいそうだけど、あんまり言いたくないんだよなぁ。恥ずかしいから。


「…中学の頃に旅行先で助けてくれた、目つきの悪い男の子」


シフォンケーキを頬張りながら口にすれば、室内は「へ?」という空気。いや、何ですかこの空気…素直に初恋の人の特徴を挙げたのだけれど。
隣に座る沖矢くんは誰のことを言っているのかわかったみたいで、フッと笑みを浮かべて優雅に紅茶を飲んでいます。あとの3人はまたもや虚をつかれたみたい。さっきみたいに叫びはしなかったけど、呆気にとられたって顔をしている。
何でそんな顔をしてるの、と溜息と共に吐き出せば、蘭ちゃんと園子ちゃんは口を揃えてだって意外過ぎて…と。え?意外過ぎてってどういうこと?目つきの悪い男の子を好きになるのが、ってこと?そんなに変か?


「円香さんの好きなタイプって、沖矢さんみたいな優しい人だと思ってたから…」
「だからちょっと意外だったっていうか…」
「…ねぇ、昴さんの初恋の人ってどんな人?」
「え?」


ボウヤの爆弾発言に蘭ちゃんと園子ちゃんも動きを止め、私から彼へと視線を移す。そういえば、沖矢くん―――というか、秀一の初恋の人の話って聞いたことないかも。
彼と所謂、恋バナというものは今までだって一度もしたことがない。過去の彼女とか、興味はあったけど外人さんであろう可能性を考えると聞きたくなかったし。…ジョディもそうだけど、私の知り合いの外人の女性って皆プロポーション抜群なんだもん。だから何となく、聞きたくなかった。比べられたくない、とも思っていたし。
秀一はきっと、誰かと比べるなんてことしないだろうけど…それでも私は嫌だと感じていたから。


「家族とはぐれて、不安そうにしていた女の子―――ですね」


薄らと浮かべられた笑み。一瞬だけこっちを見た翡翠の瞳。
ただそれだけなのに、心臓はうるさいくらいに鼓動を刻んでいた。
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