強気に刃向かえ
「ハッキングされていた?」
『へい。僅かに痕跡が見つかったそうです…それと、』
「…成程、それは興味深い情報だなァ」
『どうしやすか、兄貴。すぐにでもハッキングしていた野郎を捜し出して殺しますか?』
「いや、俺が動く。いいかウォッカ、今から言うものをすぐに調べろ―――」
水無怜奈―――キールというコードネームを与えられている、人気アナウンサー。でもそれも裏の顔の1つで、彼女の本来の姿はカンパニーの一員…つまり、CIAの諜報員だった。それを知った秀一は、わざと彼女を組織に奪還させてもう一度潜り込むように頼んだみたい。当然、それに釣り合うだけの条件は提示されているけれど…組織を一網打尽にする釣り糸となってもらえるのなら、受け入れないわけにはいかないわよね。
けれど、わざと組織に奪還させる作戦は秀一とボウヤ、それから水無怜奈を乗せた車の運転手であるキャメルくんしか知らなかったもんだから、ボスもジョディも私も他の捜査官達も、彼女を奪われた!と本気でショックを受けて項垂れました。ひどいじゃないと訴えても、彼はそのリアリティが狙いだったんだってあっけらかんと言い返してきたけどね。確かにFBIの無線を傍受されている可能性は捨てきれなかったし、私達が本気で落胆していなければ怪しまれる。そうすれば危険なのは水無怜奈、彼女だから。
「わかってはいたけど、無茶苦茶なことをするわよねぇ…」
「円香の言うことも一理あるけど、でも上手くいったからね。何も言えないわ」
「そうなんだけど…」
作戦は上手くいった。組織に改めて釣り糸を垂らし、奴らを一網打尽にできる可能性もまた上がった…けれど、本当に奴らは全く疑っていないのだろうか?恐らくだけど、秀一があの策に絡んでいることは薄々勘付いていたはずだ…他の奴らはともかく、ジンは―――秀一と同じくらいに頭の切れるアイツが、今回のことに疑いの目を向けていたとしてもおかしくはないと思うのよね。秀一がこんなにも易々と奪い返される策を考えるとは、と思っている可能性が高い気がするの。もし、まだ何か裏があると考えているとすれば、何かしら仕掛けてくることだって考えられる。それをも見越しているのだろうか?我が上司は。
「円香さん?何か気になることでも?」
「…いいえ、何もないわ」
私の思い過ごしだといいんだけど、何だかこのまま終わるとは思えないなぁ。うーんと思い悩んでいると、デスクに置いていた携帯が震えていることに気がついた。誰からだろう、と視線を移すとそこには非通知の文字。
グッと眉間にシワが寄ったのがわかる、だって非通知で電話してくる相手なんて疑ってナンボでしょ?私が一般人だったら気味が悪いと思いつつも、多分出ちゃうと思うんだけど…FBIという職業に就いている以上、そう簡単に怪しそうな電話に出るわけにはいかないわよ。
すぐさま応答拒否のボタンを押す。ただの間違い電話ならいいんだけど…とりあえず仕事をしよう。やることはまだまだいっぱいあるんだし、出来る時にしておかないとまーた山のように書類が溜まっていってしまうしね。頭を切り替えて書類に手を伸ばした瞬間―――また、携帯が震えた。
もしかしてさっきの…?画面に映し出されていたのは予想通り、非通知の文字で溜息をつきたくなる。だから用事があるんなら非通知ではなく、番号を通知してこいよこの野郎…!
「ねぇ、電話出ないの?鳴ってるの円香のでしょう?」
「…うん、出る」
いまだ震え続ける携帯を片手に、廊下に出た。人通りのない場所まで来た所で、私はようやく通話のボタンを押す。そして聞こえてきた声に、息を飲んだ。
『…よう、シェリーの右腕』
ドクリ、ドクリ、と心臓が鼓動を打つ。
こ、れは、この声は―――ジン…!どうして私の携帯の番号を?!
「誰かと間違えていらっしゃいませんか?私にはシェリーなんて名前の知り合いは…」
『しらばっくれようとしても無駄だ…もう調べがついてんだよ…お前が組織に潜り込んだネズミだってことはな』
そうだろう?赤井秀一直属の部下、工藤円香…。
しまった、どこから私の情報を手に入れたんだ?組織に潜入していた頃、私はコードネームを与えられていなかったし、シェリーちゃんを連れて逃げ出す時も誰にも見られていないはずだった。それに監視カメラに映らないルートを通って研究所を出たはずなのに、それなのにどうして…?!
ゴクリ、と無意識に喉が鳴る。ダメだ、焦るな…焦ったら必ずボロが出る。落ち着いて最善の策を、方法を考えろ。…そうしないと、マズイことになりかねない。
『答えらんねぇのは、肯定の意味と取るぜ?』
「…私がその工藤円香だったとして、何を望むのかしら?」
『―――今夜20時、港の廃工場に1人で来い。来なければわかってるだろう?』
時間と場所を告げるのと同時に、プツッと電話は切れた。非通知でも発信元は辿れたはず…けれど、相手はジン。探知されるようなヘマはしない。もしくは一般人である誰かの携帯を奪ってかけてきた、ってことも有り得るか…そうなってしまうと特定できても、ジン本人に辿り着くことは難しいといえるかな。
さあ、どうする…?本当ならボスと秀一に報告をして、相談をすべきだと思う。呼び出された時間と場所もわかっているのだから、上手くいけば奴を捕えることもできるはずだけど―――
(でもきっと、それをジンは予想しているはず…)
私が考えつくことをあっちが考えつかない、なんてバカなことは有り得ないと思う。予想しているうえで敢えて、1人で来いと言ったはずなんだから。最後の脅しも予想しているからこそ、なんでしょうね。
だとすれば、やっぱり誰にも言うわけにはいかないか。怒られることも予想しているし、私1人でどうにかできるとも思っていない…FBIの捜査官達なら自身を守る術を身につけているけれど、仲間以外を標的にしているとしたら。というか、そっちの方が可能性としては高いわね。私の名前と職業を特定したのであれば、家族構成まで調べをつけているはずだもの。私が1人で行かなかった場合、私の家族や知り合いに手を出すのは間違いないわ。
「のるしかないってことね、彼奴の罠に」
自分で呟いた言葉に、自然と口角が上がっていくのを抑えられなかった。やってやろうじゃないか、女だからってナメるなよ。