泡になって消えていく
―――ガゥンッガゥンッガゥンッ!
静かな、静かすぎる港に3発の銃声が響き渡った。近くに誰かがいればきっと、銃声が聞こえたと警察に通報してくれるのだろうが…恐らく、それは見込めないだろうな。
私をこの場所に呼び出したのはジンだ。近くに誰かがいないかどうかなんて、当然の如く確認をしているだろうし、いようものなら間違いなく彼愛用の銃で殺しているに違いない。ま、死体は見当たらなかったから大丈夫だろうけど。
「く、ぅ…は、はぁっ……!」
「いい眺めだな、シェリーの右腕」
「知っていた、けど、悪趣味、よねアンタって…!」
「お前のような強気の女の顔が苦痛に歪むのは、堪らねぇ」
本当に悪趣味だ。銃を撃つことも、人を殺すことも、一切の躊躇いをもたない男…その手を真っ赤に染めることすら、快感だと思っているのだろうか?発砲の瞬間に笑みを浮かべる奴なんて、私はこの男しかしらない。
ああ、キャンティもその部類かな。ジンとは少し違うような気もするけれど、系統は似ていると思って間違いはないと思う。
それにしても、…手錠で拘束されるとは思わなかったな。対峙することは避けられないから、撃たれることも怪我することも覚悟していたけれど、まさか手も足も出ない状況にされて撃たれるのは予想していなかったわ。
今考えれば、ジンだったらこのくらいのことをしてもおかしくない、とわかるけれど。あの時は一切、頭になかった…こんなこと。完全に私の落ち度だから、誰を責めるわけでもないんだけどね。
じわり、じわりと痛みが浸食していく。肩に1発と足に2発、それも両足の太腿を的確に撃たれたもんだから動くのは難しそうだ…現に立っていられなくって座り込んでいる状態だし。
せめて片手だけでも使えれば、まだ応戦できたかもしれないけどがっちり手錠をかけられているからそれもできない。下手に手錠を外そうと動けば、その瞬間に私の命は終わりを迎えるだろう。…ジンのことだ、生かしておくつもりなんて毛頭ないんだろうけれど。
「シェリーを逃がしたのは、お前だな?」
「…何のこと?」
「それから組織の中枢へのハッキング―――それもお前の仕業だ」
「ッ」
「ククッ素直な女は嫌いじゃねぇ…さあ、ここで取引といこうじゃねぇか」
取引…?何を生温いことを言っているのだろう、と正直思った。何が目的かは知らないけれど、私とジンが取引をする理由がない。一体何を考えているんだろうか。
「アンタ、何を言っている…?」
「確かにお前はFBIの狗だ。…だが、あの方がお前の能力を買っている」
ハッカーとしての技術―――それを組織の為に使え。
大人しく組織に入ればこの命は助かる、そういう条件らしい。成程、確かにそれは立派な取引ね…普通だったら死にたくないもの、簡単に成立するものかもしれないわ。
だけど、私がそう簡単にアンタ達に降ると思ったら大間違いよ?アンタ達の仲間になって、彼らを裏切るくらいなら…
「今この場で、舌噛んで死んでやる」
「自分の命はいらねぇってか…見事な自己犠牲精神だな?―――反吐が出る」
「どう思われようと結構よ、…好かれようなんて、思っちゃいないもの」
―――ガゥンッ!
もう1発、銃声が響き渡る。それは私のお腹に命中し、床に倒れ込んだ。ああ、これは…そろそろ殺されてしまうかもしれない。
「もったいねぇな、…お前ほどの能力がありゃあ、イイ思いができただろうに」
ジンの唇がニヤリと弧を描く。そんな思いしたくもないわ、と口を開こうとした時、グイッと髪を引っ張られて無理矢理に上を向かされた。ここまでか、と悟ったのに、いきなり唇を塞がれる。予想だにしていないジンの行動に何も反応ができない、ようやく我に返ったのは口内にぬるりとした感触が広がったから。
ソレを思いっきり噛んでやれば、私が抵抗できるとは思っていなかったのだろう…奴は目を見開いて髪を掴んでいた手を離した。ジンの口からは血が一筋流れている、恐らく私が奴の舌を噛んだからだろうね。…ざまーみろ。
…全く、私はなに諦めようとしてんだろうね。さっきまでの自分を思い返して、自嘲的な笑みが浮かぶ。
殺される結果が変わらなくても、組織に楔を喰い込ませる手は残ってる。ただ殺されるのを待っているなんてそんなこと、してやれるかっての!
「―――くたばれ、ジン。」
そう一言呟いて、隠し持っていた爆弾のスイッチを押した。
最後に見たのは、驚きと怒りで表情を歪ませたジンの姿だ―――。