からくりを解いて
「採取された指紋は右…死因は脳天への弾丸…遺体は丸焦げで顔はわからない…」
手を出さずに捨ててしまおうと思っていたデータに私は、手を伸ばしてしまっている。死因や現場の状況など、かなり事細かに記されているソレに思わず感嘆の息が零れた。すぐに眉間にシワが寄ったけど。
何でFBIで、奴らを捕まえる側の私が組織の情報能力に感心しなければならない、それに手を伸ばしてしまった自分にも嫌気が差す…全く情けないな。
(完全に、バーボンの策にハマってしまっている気がする…)
冷静に考えてみれば、バーボンが言っていたようなことには本当になり得ないと思うんだ。きっとあの男もそれをわかって口にしていたはず…つまり、本当の狙いは揺さぶられた私が真実に近づくこと―――ではないか、と思っています。
バーボンは秀一の死を疑っているというより、確実に生きていると考えているんだと思うのよね…恐らく、彼を殺せるのは自分だけだ、とでも思っているんでしょう。
自分だけではなく、別の誰かも同じ結論に辿り着いたとすれば…その推測は信憑性も出るし、自信もつく。それを狙っているというのもあるんだろうな。ただ、私を引っ張り込もうとしている理由は定かではないけれど。
…いや、秀一をおびき出す餌ってことになるのかな?私なんかでおびき出すことなんて、無理だと思うけれどね。
「策にハマってしまっているのは重々承知しているんだけど、」
詳細を読めば読むほど、少しずつ疑問が浮かび上がってきているのがわかる。そして先日の件も含めて考えると、とても恐ろしい仮説が出来上がってしまうのだ。あの時も感じていた、疑念が確信に変わろうとしている不思議な感覚。背中がゾクリとする、恐怖にも近い感覚だ。そうであってほしいと思う自分と、そんなはずがないと思う自分が真っ向からやり合ってる感じがするなぁ…これ。
有り得ないとわかっているのに、どうして。溜息を吐きたくなるけれど、あれもこれも全てはバーボンが悪い!あの男が揺さぶりなんてかけてくるから…!いや、本当に悪いのはバーボンの策にハマってしまった私なんだけどさ。
(秀一…貴方は生きているの?生きて、私の傍に―――)
バサリ、と資料をデスクの上に投げ捨てる。このまま調べ続けるか、それとも生きているはずがないと改めて認めるか…だけど、認めるまでには疑問が多すぎるんだ。
一度、疑いを持ってしまったらもう後戻りができない、いや、したくないのが私という人間。だとすれば、最後まで調べて納得のいく答えを見つけるしかない、わよね?
「……あの、工藤さん?」
「んー?」
「さっきから熱烈な視線を感じるんですが、何か?」
「ああ…ごめん、ちょっとボーッとしてたわ」
うーん……背丈と骨格は似ているような気がするけど、本当にそうなのか?って問われると自信がなくなってしまう。やっぱりあれは私の勘違いなのかなぁ…?
考え事をしながら歩いていたのがいけなかった、完全に気が逸れていた私はバイクが近づいてきていることにも気がつかない。沖矢くんの焦ったような声でようやく我に返り、バイクを認識した瞬間には思いっきり引っ張られて地面に転がっていました。
一瞬、何が自分の身に起きたのかがわからなかった。目をパチクリとさせて、誰かの温もりに包まれていることに気がついて、バイクに轢かれかけたことを思い出す。…ん?ってことは、もしかして―――上げた視線の先には、案の定沖矢くんの顔。というか、胸板がありました。あ、この人意外と鍛えてる。
「っじゃない!ごめん沖矢くんっだ、大丈夫…?」
「ええ、問題ありません。むしろすみません、転ばせてしまいましたね」
「いや、私は君のおかげで怪我ひとつないから平気だよ」
バイクを運転していた人と、お互いにすみませんでしたと謝って、その場を離れた。
「ダメですよ、ボーッとしながら歩いては」
「反省してます…。あれ?沖矢くん、…右手怪我してるじゃない!」
「え?…ああ、擦り剥いただけです」
「それでも手当てしなくちゃ!早く家に帰ろう」
彼の返答を聞く間もなく、工藤邸への家路を急ぐ。
家に着くとすぐに引きずるようにして洗面所へと連れて行き、傷口を水で洗い流した。よし、粗方汚れは落ちたかな…あとは消毒して、念の為に絆創膏も貼っておいた方が良さそうだ。
「ほんとごめんね、怪我させちゃって…」
「こんなのは怪我に入りません。すぐに治りますから」
「だけど、」
「…そんな顔をするな。本当に大丈夫だから」
「!」
え…?今の言い方、言葉…まるで、まるで秀一みたいだった。
ドクリ、ドクリ、と鼓動が早くなっていくのがわかる。待って、私の推測は本当に当たっている?彼は生きていて、義姉さんの手で『沖矢昴』として生活をしている?―――私達を、騙して?
「秀一……?」
ピンポーン、とチャイムが鳴った。それに反応をした沖矢くんが玄関に向かおうとするけれど、私は彼の服を掴んでそれを阻止する。
ゆっくりと確信へ変わりつつあるこの推測を、確かめなくちゃいけない…ねぇ、お願い、お願いだから教えて―――。