アイしてる痕を
幾分か落ち着いた私達―――というか、私?―――は、ベッドの上に座ってまったり中。…おい、さっきまでのシリアスな雰囲気どこいった。
「…聞いてもいいですか?」
「ん?」
「この計画って、水無怜奈を組織に奪わせた時にはすでに始まっていたんですよね?」
「ああ。全く…あのボウヤには驚かされる」
秀一が生きているトリックは私が推理したのと、全く同じらしい。
携帯についていた指紋が右手だったのは、最後に触った楠田陸道のものだったから。秀一が右手で携帯を取ったのもそれが理由。肝心の秀一自身の指紋がついていなかったのは、両手の指先にコーティングをしていたからだ。
楠田陸道は組織の一員だ、とバレた日に自らの頭を撃ち抜いて自殺している、それを彼は身代わりにして逃げ延びた―――ということ。つまり、来葉峠で頭を撃たれ車ごと焼かれた遺体は楠田陸道だったのですよ。
まさかな、と考えていたものが当たっていたなんて…本当にびっくりだわ。
「…本当なら、ずっと隠し通すつもりでいたんだがな」
「ならどうして、明かす気になったんです?私が泣いて迫ったから?」
「それもある。…だが一番の理由は、円香を『沖矢昴』にすら渡したくないと思ってしまったから、だろう」
「………あの、沖矢くんも貴方ですよね?」
「それでもお前の目に映るのが俺ではないのは、気分が悪かったんだよ」
うーん、複雑な男心ってやつなんですかねぇ?これ。とはいえ、私も秀一の変装だと知った後でも沖矢くんとつき合うっていうのはちょっと…と思ってしまったから、私達は同じ思考回路を持っているのかもしれません。浮気ではないけど、浮気をしている気分になっちゃう。
そんなことを考えていたらはた、と気がついた。あれだけのキスをしたのに私はまだ、秀一に自分の気持ちを告げていない。あの日の返事をしていないんだ。何か色々驚きすぎてすっかり忘れ去ってたよ…だけど、彼自身も気にしている素振りがないんだよね。戻ってきたら返事を、と言っていたクセに催促はしないのか。
それともキスに応じていたから聞くまでもない、って解釈?それはそれでいいんだけど………ち、がう、秀一には言っていないけど、でも彼には、沖矢くんには言ってしまった記憶がある。別れた後も好きで、って!
(何も聞いてこないのも、それがあるから…?)
それとも私から言い出すのを待っている、とかかな。あ、それも可能性としては十分にあり得る気がして顔が引きつった。この人、案外Sっ気があるからなぁ…わかっていながら内心ニヤニヤして待ってそう。口にしたら絶対に怒られるから、死んでも言わないけど。
きっと私の気持ちはわかっているだろうけど、でも…やっぱりちゃんと言葉にして伝えよう。この人が伝えてくれたように、私も気持ちを届けたい。
―――ギュ、
「円香?」
「…好き。ずっと、貴方が好きでした―――先輩」
「!…フ、懐かしいセリフだな?工藤」
どうしてあの時と同じ告白をしてしまったのかは、自分でもわからない。でも不思議とすんなり出てきた言葉は、どうやら秀一にもしっかりと届いていたらしい。久しぶりに聞く名字呼びに少しだけ、ときめいてしまった。
やっぱり名前の方が嬉しいけど、でも、懐かしくて…うん、あの時に戻ったようでときめきます。
「傷つけて、ごめんなさい…でも好き、それでも好きなの…!」
「泣くな、…お前に泣かれるとどうすればいいのかわからなくなる」
「ふ、しゅう、秀一……っ!」
ごめんなさい、という言葉。好き、という言葉。私はまるで壊れた人形のようにその2つの言葉を、ひたすら繰り返した。再び溢れ出した涙はきっと、別れを告げた罪悪感と彼への愛しさ故。色んな気持ちが混ざり込んだソレは、止まる気配を見せなかった。
困ったような顔で涙を拭ってくれる秀一を見て、一層愛しさが溢れて胸の奥がキュッと締め付けられたような感じ。ああ…やっぱり好き、大好きだ。
都合がいいかもしれないけど、この人は私の―――唯一の人。
乱暴に涙を拭って彼の頬に唇を寄せれば、そっちじゃない、と唇を塞がれた。最初は触れるだけ、次第に食むようなキスに変わり最終的には、さっきされたような水音が響き渡る濃厚なキスになる。散々したくせに、とか、恥ずかしい、とか色々浮かんでくるけれど、でも繰り返されるキスが気持ち良くてどうでもよくなってきた。今はただ、この快楽にひたすら溺れていたい。
一瞬だけ離れた唇。名残惜しいな、と思ったのも束の間…次の瞬間にはドサリ、とベッドに押し倒されていました。視界に映るのは天井と、余裕を失くしている秀一の姿。滅多に見ることのない、むしろ初めて見る気もする表情に心臓がドクンッと高鳴った。
わ、この顔は、ちょっとマズイ…!心臓がドキドキして、まともに見れ、ない。見れないはず、なのに、じっと見下ろしてくる緑の瞳から視線を逸らすことができなくて。それに吸い寄せられるかのように、初めて私からキスをした。
触れたのはほんの数秒。彼がしてくれたような濃厚なキス、は、…きっといくら回数を重ねても私から、というのはできない気がする。いつか主導権を握ってみたいな、とは思うけど、どう頑張ったってこの人には敵いっこないよなぁ。
「好きだ。この手を取るのなら、離してなんかやれんぞ」
「いいですよ、…そんなの本望だ」
そう答えれば秀一はニヤリ、と笑みを浮かべて、首筋に顔を埋めた。わ、髪が当たってくすぐったい…!クスクス笑っていると、チクリと痛みが走る。それが何を意味するかわからないほど、私は鈍くない。鈍くないけど自覚してしまうと、途端に羞恥心に襲われるから困ったものだ。
それが一度で済めば良かったけど、そうもいきませんでした…首筋だけでも2回、その後は鎖骨、胸元…と段々、下に下がっていっている。太腿にまで到達したかと思えば、そのままくるっとうつ伏せにされて項にがぶりと噛みつかれたんですけど。さすがに「いたっ!」って声が出たけど、聞く耳持たず。いや、そうだろうなとは思ってたけど!!
「んっ〜〜〜ゃぁ、秀一……!」
「心配するな。今日は最後まではしない」
「そ、ゆこと言ってるんじゃなくって、…っあ!」
翌日、鏡の前で大絶叫したのは言う間でもありません。