紐解かれていく
絶対に余計なことはするなよ、と新くんに釘を刺され、兄さんにもなるべく黙っているようにね、と諭され…バーボン―――安室さんが訪ねてくる頃には不機嫌な私が出来上がっていた。
確かに秀一に憎悪を向けている彼には、牙を向いていると話はしたけれど、別にそこまで釘刺したり念押ししなくたっていきなり噛みつきはしないわよ。本当に失礼な2人だなぁ。
私の性格を知っているからこその言葉なんだろうけど、最初に言った通り、大切な計画をおじゃんにするような真似はしないってば。そのくらいのことはわきまえてるつもりなんだから。
―――ピンポーン
「…来たわね。私が出るわ」
「ああ、お願いするよ。くれぐれも粗相のないように…ね」
「わかってるわよ―――『沖矢』くん」
リビングを出て、一度深呼吸。それからインターホンモニターで応対し、玄関のドアを開けた。
きっと彼は沖矢昴が出てくると思っている、どんな顔をしてくれるのか…見ものね?バーボン
「!貴方は…」
「どうも、こんばんは。安室さん?…宅配便だなんて嘘つくなんて、悪い人ね」
「…少々予定外ではありますが、貴方もいるのなら都合がいい…こちらに居候している沖矢さんに話があるのですが、中に入っても構いませんか?」
ふっと向けた視線の先は、門扉。暗くてハッキリとは確認できないけれど、彼の本当の仲間が数人待ち構えているように見える。何かあれば突入するつもりでいるのか、それとも元々入ってくるつもりなのかは判断しかねるけど、今は気にしなくても良さそうかしら?念の為、中に招き入れるのは貴方1人です、と牽制しておくとしましょう。…ま、この男にはそんな牽制も無意味でしょうけれど。
リビングに案内し、紅茶を淹れるのを口実に再び廊下へ出る。インカムのスイッチを入れれば、すぐに新くんから通信が入った。作戦開始の旨と、気を付けろと私の安否を気遣う旨を告げてさっさと切られちゃったけどね。
でもまぁ、私がすることなんてほとんどない。ただ、沖矢くんの隣で彼の話…というより、推理に耳を傾ければいいだけ。何か質問されても、上手くはぐらかしてくれりゃあ大丈夫って言われてるしね。私が秀一の部下っていうことはもう知られていることだから、そこまで突っ掛かってくることはないと踏んでいるけれど。
(でも新くんの読みだと、更なる確証を得る為に揺さぶってくるかもーとか言ってたけど…)
私から何か証言を得なくても、アイツならすでに逃げ場がない程の証拠を手に入れていると思うんだけどね。これ以上、何を欲するというのだろうか。わからないな、と溜息を吐いて、兄さんの服に仕掛けている盗聴器のスイッチを入れれば、ガガッとノイズ音がした後に2人の会話が聞こえてきた。
私がリビングから退散してからすぐ、バーボンの推理ショーは幕を開けていたらしい。イヤホンから聞こえるのは死体スリ替えトリック…つまり、秀一がどうやって死を逃れたのかというものだ。うん、悔しいけどやっぱりバーボンの情報収集能力はすごいわね。少ない状況証拠から彼が生きている、という証拠を掻き集めてきたんだから。
『まさかここまで…読んでいたとはな…そう、この計画を企てたある少年を…賞賛する言葉だったというわけですよ』
「!へぇ…そこまで辿り着いたんだ?」
ああでも、逆なのかな?そこに気がついたから、秀一の死は偽装されたものだ―――そう考えたという方が正しいかもしれない。
もしくは、その言葉で確証を得たとかね。
『おい、円香さん!いつまで油売ってんだよ!』
「ああ…ごめん、ごめん。すっかりバーボンの推理に聞き入っちゃってさ」
『おいおい、勘弁してくれよ…』
「今から戻るわ、じゃあね?ボウヤ」
インカム、盗聴器両方のイヤホンを外してポケットに無造作に突っ込んだ。髪を下ろしているから上手隠せるとは思うけど、目ざとい奴が目の前にいるんだし、用心した方がいいでしょう?恐らく、そこら中に仕掛けてある隠しカメラにも気がついているんでしょうし。
紅茶を淹れてリビングに戻った時は、もう彼の推理ショーは終盤に差し掛かっているようで…私を捉えたバーボンの瞳が、怪しく光ったような気がした。わー、これはもう勝利を確信している顔ね。
「遅かったですね?…工藤円香さん」
「お湯を沸かしていたの、急にお客様が来たんだもの。仕方ないでしょう?」
「まぁ、いいですよ。貴方にも聞きたいことがあるんです」
カップを配り終えて沖矢くんの隣へ腰を下ろせば、バーボンはゆっくりと口を開いた。
「まず、貴方と沖矢昴の関係ですが―――どれだけ調べても、全く接点が見つからないんですよ…何処でどう知り合ったんです?」
「あら、聡い貴方のことだもの。わかってるんじゃないのかしら」
「それでも貴方の口からお聞きしようと思いまして」
「全く…彼が住んでいたアパートが火事に遭って、その時に出会ったの。同居し始めたのもその頃よ」
「おかしな話ですね。いくら元の家主である工藤優作の許可をもらったとはいえ…赤の他人である人といまだに同居しているなんて」
語られる推理。それを私は黙って聞いていた、頬杖で隠れた口元を僅かに上げて…ね。傍から見れば神妙な顔に見えるだろうことは計算済み、現に目の前に座っているバーボンも私の姿を見て笑っているもの。核心をついた、と勘違いをして。
そう。恐らく、私と沖矢くんの関係を注視してくるだろうというのは、新くんも私も予想済みってわけ。赤の他人を受け入れ、いまだに同居を続けているのは沖矢昴が赤井秀一の変装だからだ、とバーボンは確信していると思っていたからね。
そうじゃなきゃ乗り込んでくるなんてこと、しないはずだもの。つまり、彼にとって私自身が一番確かな証拠だってこと。
「ふふ、そんなにおかしなこと?だって…私と沖矢くんは恋人なんだもの。一緒に住んでいたっておかしくはないでしょう?」
「―――残念ながら、それはフェイク。沖矢昴の正体を知っていたからこそ、貴方は警戒ひとつせずに彼を受け入れた…違いますか?」
連絡待ちだ、とテーブルに携帯を置いて、バーボンは不敵に笑う。
「そのマスクを取ってくれませんかねぇ…沖矢昴さん―――いや、FBI捜査官…赤井秀一!!」