君と手を繋いで


もらったチケットを受付で見せ、半券となったそれを受け取って中に入る。内装を見た瞬間、無意識にうわぁ…と声が出た。外観を見た時もすごそうだな、と溜息を吐きそうになったけど、案の定。
リニューアルされたばかりだからか、とっても広くて、とっても綺麗だった。最新設備を入れた上映ルームだけがリニューアルされたと思いこんでいたんだけど、全体だったのね…ニュース見ていた時は気がつかなかったな。多分、その時も言っていたはずなんだけど。

駐車場が空いていたことに比例するように、中も人はまばらで展示を見て回るにはうってつけだと言える。人が多いと見れない場所も出てくるし、ゆっくりじっくり見ることもできないから、こういう所や美術館だとかは人が少ない方が有難いのです。
きっとお昼過ぎからは混んでくるのだろうけど、まだお昼まで2時間ある。きっとそれまでには大半の展示を楽しむことができるだろうから、さして問題はないかな。唯一の懸念と言えば、夕方から上映される回を見ることができるかーってことくらい?
整理券とかはないらしく、早い者勝ちらしい。上映30分前になると上映ルームが開場するらしいので、確実に見たいならその頃を見計らって行くのがコツだそうな。…って沖矢くんが言っていたんだけど、誰に聞いたんだ誰に。というか、まるで行ったことがあるような物言いだったよな。


「へー…誰と行ったんですか?彼女さんですか?」
「…わかりやすい嫉妬だな」
「嫉妬だなんてしてませんよーだ!」
「はは!本当に…可愛い人だ」


どきり。心臓がわかりやすく跳ねた。顔も熱い。
それもこれも全部沖矢くんが、…いや、秀一が悪い!珍しく破顔一笑して(沖矢くんの顔だけど)、恥ずかしいことを平気で口にして(沖矢くんの声だけど!)、そんなのドキッとしないわけがないじゃないか!!
もう…まるでつき合いたての頃みたいだ、彼の一挙一動にドキドキするなんて。頬が赤くなった状態でグッと唇を噛みしめるけれど、そんな私でも沖矢くんの目には『可愛い私』として映るらしい。解せぬ。絶対にぶさいくな顔をしていると思うんですけど、違うんですか沖矢くん。
空いている左手で頭を撫でられ、嫉妬とか気恥ずかしさとか、そういうものが一気に霧散していく。なんだ、単純脳なのか私は。…ええ、そうですよ単純ですよ!!だからいつもこうやってあしらわれるんじゃないか、チクショウ。


「此処に来るのは初めてですよ。蘭さんと園子さんに聞いたんです」
「蘭ちゃんと園子ちゃん?」
「ええ、この前街で偶然会いまして。リニューアル直後に行った、と」
「ああ…それでコツ?」
「その頃に比べれば落ち着いているとは思いますけど、覚えておいて損はないでしょう?」


まぁ、確かにね…。今回、役に立つかもしれないし。でもそれなら話をし始めた時に前置きしてくれれば良かったのに。そしたら私だって変に嫉妬せずに済んだんですけど。
繋いでいる右手をにぎにぎ握りながら文句を言えば、「どんな反応するかなぁと思いまして」とか言いやがりました。確信犯かこの野郎!ギッと睨むけれど、難なく交わされ「そういえば、」と話を逸らされる。


「…なによ」
「さっき、差し出した手を取らなかったのは何故です?」
「は?……ああ、右側に回ったこと言ってる?」
「ええ」
「だって、利き手じゃない」


そっち、と指さしながら告げる。


「…そうですか」
「というか、わかってて聞いてくるのも質が悪いし、私が左手を差し出されても掴まないってわかっていながらやるのも質が悪い!」
「ホー…気がついていたんですか」
「だって家を出る時は右手、差し出してきたでしょう?」


昔から左手で手を繋いだことはなかったし、つき合う前にさり気なく繋がれた時だって右だったから。それなのに急に左手を差し出されたらおかしい、って思うのが普通じゃないか。
だから気がつくことができたし、アタリをつけることだってできたのだ。意外だって顔してるけど、つき合い長いんだからそれだって予想済みなんじゃないのかなぁ、この人は。
全くもう、と全然怒ってないけど、怒っているフリをしてパンフレットを開く。中に書かれていたのはどんな展示があるのかと、簡単な館内マップ。やっぱり目玉は星の上映会なのね…他に何か面白そうな展示はーっと。
あ、これ何か面白そう!星空を歩く、ってやつ。沖矢くん見て見て、とパンフレットを見せれば、興味深そうにホーと呟いた。ふふん、やっぱりそんな反応になるよねぇ。


「これ見に行こう!どんな感じなのか気になる」
「最初がそこでいいんですか?」
「え?あとに回した方がいい?」
「というか、それがあるのは最上階のようなので…1階から回っていくのが無難かなぁ、と」


まぁ、上から順に降りていくのもアリですけど。
沖矢くんの言葉を聞いてふむ、と考える。たかが展示に考えすぎだって?でもこういうのって順路を考えていかないと、時間なくなっちゃうからね。一番いいルートを考えて進まないと!
遊びに本気、というのはこういうことを言うのかもしれないな。


「ふふ、そう悩まずとも時間はありますから」
「え、あ、うん。…じゃあ1階から見ていこっか」
「わかりました」


離していた手を再び握られ、そっと相好を崩した。だってやっぱり、嬉しい。





「ねぇ、宇宙の歴史だって」
「なかなか興味深いですよね。確か137億年前に宇宙が誕生したと言われていたはず…」
「あ、ほんとだ。へぇ…そんなに前からあるんだ」
「でないと地球は生まれていないのでは?」
「…成程」
「宇宙には星や恒星がありますが、110億光年くらい向こうにはそれすら存在しない『暗い銀河』が存在するそうです。実際に観測もされているらしい」


えっそうなの?!というか、沖矢くん詳しいね?!元々、博識だなぁとは思ってたけど…もうここまでくると一般常識を逸脱していると思うんです。聞いていて勉強にはなりますけれども。面白いし。
その反面、どこで勉強してきたんだろう…と、ちょっと遠い目になる。だってこの人、実際はFBIだよ?変装している間は大学院生だけど、専門は工学だって聞いてるよ?どっちにも宇宙の知識はいらんだろ!!その証拠にFBIである私は、宇宙に関する知識はゼロです。
星の光が届くまでものすっごく時間がかかる、っていうのは知っているし、私達が目にしている星は今から何億光年も前の光だってことくらいは…うん、一般常識として持ってはいるけど。でも普通はそこまで、だよね?興味があったり、専門の学者さんだったら話は別だろうけれども。

その後も色んな話を聞きながら展示ブースをゆっくり回る。大きな所なだけあって、展示ブースはかなりの数が揃っている。もうかなりの数を見て回った、と思っていたのだけれど、パンフレットを見てみるとまだ半分くらいでした。…本当にすごい数あるんだね。
1日過ごすことができる、と聞いてはいたけど、本当でした。すげぇ、このプラネタリウム。


「少し休憩しましょうか」
「うん」
「しかし、これでまだ半分…すごいな」
「リニューアルして数を増やしたみたいよ?さっき他のお客さんが言ってたわ」
「ホー…」


家から持ってきたお茶を飲んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
はしゃぐ声に、それを制する声、慌てて注意する声、呆れたような声…うん、これは顔を見ないでもわかる。探偵団の皆と博士だろう。


「あっ昴さんと円香お姉さんだ!!」
「本当だ!お2人共、来れたんですね」
「やっぱり君達か、こんにちは」


にっこり笑って挨拶すれば、元気な声でこんにちはー!と帰ってきた。ボウヤと哀ちゃんは呆れた顔になってるけど。


「てっきり仕事かと思ってたわ」
「今日はお休み。沖矢くんがコナンくんに連絡していたはずだけど…」
「…あ、伝えてなかったっけ?」
「聞いてないわよ。吉田さん達だって驚いてたじゃない」
「すっかり忘れてた…」


やっべ、と顔を歪ませたボウヤを見て、沖矢くんと一緒にクスクス笑う。それを見た哀ちゃんは少しだけ驚いた声であら、と言った。
何だろう?と首を傾げると、いつの間にそんなに仲良くなったの?と問いかけられてびっくりしちゃったよ。そんなこと、哀ちゃんに聞かれるとは思ってないからね。特に沖矢くんには警戒心丸出しだったし…最近は大分、緩和されているみたいだけれど。


「まぁ、一緒に住んでますのでそれなりには親しいと思いますよ?」
「…そう、つき合ってるのね」
「ぶっ!」
「うわっきったねぇな円香さん!!」
「なんだなんだ?何でお茶吹き出してんだ?姉ちゃん」
「いや、ちょっとね…ゲホッ」
「これで口の周り拭いてください。派手にいきましたねぇ…」


それだけ衝撃的だったんですよ、哀ちゃんの言葉が。…なんて、口に出すわけにはいかないけど。
借りたハンカチで拭きながら苦笑い。しっかしまぁ…哀ちゃんの口から驚きの発言が飛び出すなぁ、今日は。


「ンだよ、気がついてたのか?灰原」
「今気がついたわ。雰囲気が甘いもの」
「えっ嘘」
「ああ…確かに雰囲気は柔らかくなったよなぁ、昴さんと円香さん」


でしょう?と顔を見合わせてる、そこの元・高校生コンビ!これ以上は私がダメージ受けるからその辺で勘弁してください!!
思わず土下座したくなる気分になって溜息を吐けば、ニヤニヤと楽しそうに笑っているボウヤの顔が視界に入った。こんにゃろ、完全他人事だから楽しんでやがる。あんまり大人をからかうと、蘭ちゃんにコナンの正体は新一ですーって言うぞ。…彼女を泣かせちゃいそうだから言わないけど!


「ああああ…もう穴に入りたい…!」
「そんなに落ち込むなって!普通は気がつかねぇくらいだからよ」
「コナンくんと彼女は聡いですからね、そのせいでしょう」
「何でそんなに落ち着いてんのよ沖矢くん…」


どっと疲れました。もう帰ってもいいや、と思うくらい。いや、帰りませんけど。


「昴くん、円香くん。良ければ一緒に昼食を食べに行かんかの?」
「子供達にお誘いを受けていたので、お供します」
「ぃやったー!メシだ、メシ!!」
「あっちょっと元太くん!勝手に行ったらダメですよー!」


走っていく元太くん、それを追いかける光彦くんと歩美ちゃん。慌てて3人の後を追う博士と…元気だなぁ、子供って。と背中を見送るボウヤと哀ちゃんと私と沖矢くん。
本当なら私達も追いかけるべきなんだけど、行く場所は館内唯一のレストランなので慌てる必要もないんだよね。4人で顔を見合わせて、仕方ない行くか…という雰囲気の中、私達は歩き出した。
- 46 -
prevbacknext
TOP