愛を囁く


お昼を食べた後は皆と別れ、再び沖矢くんと一緒に展示ブースを見て回る。来た頃よりは大分人が増えてきているけれど、動きにくい程ではない。今はちょうどお昼時だし、目玉の上映会の真っ最中でもあるのでね。
もしかしたら13時を過ぎた辺りから、どっと増えるかもしれないけど…粗方見終わっているから、動き辛くなったらベンチに座って休憩すればいいかな。
パンフレット片手にてくてく歩く。もう片方の手は言わずもがな、沖矢くんと繋いでいる。外出る時は手を繋ぐ、っていうのが当たり前になってきた気がするなぁ…いいけど。

(若干、子供扱いされているような気もしてたけど…今はそんなことなさそう)

だって子供扱いしている相手と、恋人繋ぎなんてしないでしょ。普通に考えて。
ふふ、と口角を上げて沖矢くんを見上げる。ついさっきまで私が持っていたパンフレットは今、沖矢くんが持っていて次に見に行く場所を確認中。その横顔は少しだけ真剣で、少しだけ秀一の面影を残していて、カッコイイなぁと素直に思う。
似ても似つかないし、いまだに別人だって感覚は拭えていないけど…ふとした時に見せる赤井秀一の片鱗は、確かに私の心を揺さぶってくれるのだ。


「どうしました?円香さん」
「んーん、何でもないよ」
「何でもないのに人の顔をじーっと見つめるんですか?貴方は」
「あれ、気がついてた?」
「あんなに熱い視線を向けられれば、ね」
「本当に何でもないの。…ちょっと見惚れてただけ」


ビシッと沖矢くんが固まったのがわかったけど、敢えて知らないフリです。





「う…っわぁ……!!」
「円香さん、せめて口を閉じなさい。口を」
「だって、…うわぁ…!」
「いや、変わってないだろ」


いやいやいや…!これは口を開けたくもなるってば!だってすっごいよ?部屋中、どこもかしこも星だらけだよ?!足元には銀河とか天の川が流れてるんですよ?!そりゃあもう、口を盛大に開けて感動するってものです。
私を見て沖矢くんは苦笑してますけど、こっちじゃなくて周り見ようよ。これは隅々まで見ておかないと損だと思う、絶対に。面白そうだ、という理由で来てみたけど、これは当たり。ドストライクだなぁ、本当。今までの展示の中で一番、好みだと思う。これは上映会も期待して良さそう…!


「あ、こら、手を離すな」
「ッ…!」
「どうした?円香」
「いや、あの、口調戻ってます…!」
「ああ…すまん、つい」


ついじゃないよ!変装してるし、変声機のスイッチも切っていないからまだセーフだと思うけど!!でもどこで誰が聞いてるかわかんないんだから、もう少し気を付けてください…!
そしてつい、って言ってたけど、絶対確信犯。あの口調だと私が一瞬だけ、動きを止めるのを知っててやってるんだと思う。たかが手を少し離したくらいで弱点つかないでよ…心臓に悪いんだってば。秀一の声じゃなかっただけ、まだマシだと思うけれども。

きゅっと手を繋ぎ直され、指を絡められる。それが何というか、…あの、エロいといいますか!ただ絡めてくるだけならいいんだよ?それだけで済めばね。だけどこの人、絡めた指をそっと撫でるようにして触れてくるんだもん。
そういうつもりがなくても、心臓は跳ねるでしょ絶対跳ねるでしょ!!現に今、私の心臓はバックバクです。威張れるようなことではないけれど。


「沖矢くんもドSだ」
「心外ですね」
「うー……でも好き、かも」
「!…こういう所で煽るのやめません?」


はー…と大きな溜息をついたのが、空気に乗って伝わってきた。暗いからよく見えないけど、シルエットから察するに顔を手で覆っているような気がするかな。
うん、どうやら相手の意表をつくことには成功したらしい。少しくらい仕返ししないと、悔しくて仕方ないのです。見えないことをいいことにふふん、と得意げな顔を作る。見えていたらきっと、鼻を摘ままれるか頬を引っ張られるかのどっちか。

何も発しなくなった沖矢くん。私はというと、仕返しに成功してルンルン気分でまた星空や銀河を眺めていた。
うん、何度見ても綺麗…これは時間が許す限り、見ていられるかもしれない。こういう風にはならないだろうけど、確かお風呂場とか部屋をプラネタリウムにするヤツあったよね。結構するけど。
前からちょっと欲しいなぁ、と思ってたんだけど、いい機会だし買ってみるのもいいかも。それで寝る時につけて、星空見ながら寝てみたい。絶対によく眠れると思うんだ。

そんなことを考えていると、グイッと引っ張られて人の少ない所まで連れて来られた。少ない、って言っても、ただ端っこに移動しただけだからそこら中にいらっしゃいますけれども。
何か大事な話でもあるのか、と思っていたんだけど、ピッと何かを押す音が聞こえてサァッと血の気が引いた。だって今の絶対、変声機のスイッチを切った音…!何をしているんだバカ、と口を開こうとした瞬間、ぎゅうっと正面から抱きしめられた。
……え?抱きしめられた?!
ちょ、こんな場所で何考えてんの本当に!!もぞり、と身を捩ろうとすれば更に強く抱きしめられて、大人しくしている他になさそうだと悟る。


「本当に、…煽るんじゃない」
「煽ったつもりないんですけど…ってか、声…!」
「少しの間だけだ、問題ないさ」


小声で話しているから、聞こえはしないと思うけど…!


「今すぐキスしたくなるから、本当に止めてくれ」
「ッ!」
「帰ったら相手になってもらうぞ。…覚悟しておけ」


ちゅ、と額に触れた温かいもの。それを合図に秀一は沖矢くんへと戻ったけれど、私はいつまで経っても熱が引いてくれなかった。
楽しみにしていた上映会はほとんど頭に入ってこなかったし、家に帰った後どうなったかは…神のみぞ知る、ってやつです。
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