いつかの約束


極秘捜査として日本に来てからどれくらい経っただろう。毎日、黒の組織の尻尾を掴んでやろうと追ってはいるものの…まぁ、そう簡単に掴めるはずもないんだけどね。
それにしても―――


「君は本当に事件ホイホイの体質なのね…ボウヤ」
「う…そう言われると反論できねーけど。つーか、その呼び方止めてくんねぇ?円香さん」


ジト目で見上げてくるボウヤ―――新くんは、私の兄の息子。つまりは甥っ子というわけだ。彼は兄さんに似て推理小説が好きで、体が縮んでしまう前は高校生探偵として名を馳せていたと聞いている。
兄さんも昔は目暮警部に協力して事件を解決していたから、その辺りもバッチリ受け継がれているのねぇ…義姉さんは残念がっていたけれど。2人して推理に夢中だから。


「仕方ないじゃない。コナンくんって呼ぶのは違和感あるし、これが一番しっくりくるんだもの」


そう、彼は今、江戸川コナンと名乗り小学一年生を演じている。こうなってしまった原因は、黒の組織の奴らの取引現場を見てしまったから。目撃者は消す、というモットーがある奴らは、それが女子供であろうと容赦しないからね。こっそり覗いてしまっていた新くんだって例外ではなかったのだ。
まぁ、不幸中の幸いというか…彼の身に訪れたのは死ではなく幼児退行という稀有な結果なのだけれど。でも今では心の底から良かったって思うの、この子が命を落とさなくてって。


「で、何か進展は?」
「進展があればジョディから連絡がいってるでしょ?何もないわ」
「だよなぁ…そう簡単に尻尾掴ませてくれる奴らじゃねぇよな」
「そういうことよ。私達も日々、追い掛け回してはいるんだけどねぇ…」


黒の組織と関わりを持ってしまった甥っ子。解毒薬を手に入れる為、奴らに牙を向こうとしているもう1人の銀の弾丸―――なのだけれど、私がこの子と再会するまでに何度現場で顔を合わせたことか。
バスジャックを皮切りにボスが誘拐された事件にも関わっていたし…もう数えきれないくらいだわ。その好奇心の旺盛さ・事件が起きると居ても立っても居られない性格を考えると、仕方ないのかもしれないけど。

(…新くんと秀一って話というか、馬が合いそう)

頭が切れて、ホームズが好きで、推理力も抜群で―――同じ組織を追っている身。彼が私の上司であることは話していないけど、これだけ事件に首を突っ込むホイホイ気質の新くんなら近いうちにちゃんと顔を合わせることになりそうかな。すでにジョディとボスには会ってて、その推理力に驚いたって一目置いているみたいだしね。


「とりあえず、情報はなるだけ提供してあげるけど…あまり無茶はしないでちょうだい」
「俺が素直に言うことを聞くと思う?円香さん」
「いーえ、新くんは頑固者ですからね。…それに一度、乗ってしまった船を降りる気も毛頭ないでしょう?」
「あったり!さすがだよなー」
「全く…あんまり兄さんと義姉さんに心配かけないでよね」


定期的に連絡は取ってるみたいだし、2人も日本に来ることもあるみたいだから、あんまりにも無茶したら止めてくれるだろうけど…それでも心配なのよね、無茶を承知で事件に首を突っ込む甥っ子が。
まぁ私が何を言っても、兄さん達が何を言っても、やっぱり止まらないんだろうけどねー。…そういうとこ、兄さんにそっくりで好きなんだけどさ。


「じゃあ、そろそろ帰るよ。蘭も心配するだろうし」
「ああ…もう夕方だものね。送っていこうか?」
「大丈夫だって、そう遠くねーしよ」
「それはそうだけど…」
「円香さんは心配し過ぎ。ガキじゃねーんだし」


いや、見た目は立派ながきんちょよ。君。だから私はコナンの姿の君を、ボウヤって呼んでるでしょうが。多分、本人からしてみれば子供なのは見た目だけで、中身は大人なんだーって言いたいんだろうけど、私に言わせれば高校生も十分子供だっつーの。確かに推理力・洞察力は大人顔負けなのは認めるけど…中身はまだまだボウヤよ、新くん。
ニヤリ、と笑ってそう言えば、お決まりのジト目でこっちを見上げているボウヤの姿。ふふ、そうやってすぐ拗ねたような顔をするのもボウヤな証拠だってこと、いい加減気がついたらいいのにねぇ?


「いつまで経っても可愛いわね、君は」
「母さん以外にそう言うのアンタだけだよ、バーロー…」
「あら、親にとって子供はいつまでも子供であるように、甥っ子もそうなのよ?」
「んな理屈、初めて聞いたわ」
「私にとって君は、大きくなろうが何だろうが可愛い甥っ子なの!生まれた時から知ってるしね」


目線を合わせて頭を撫でると、想像していた反応とは違うものが返ってきた。この子、ちょっと照れちゃってるみたいなのよね?頬もほんのり赤くなってるし。
この姿になってからはよくあることのような気もするんだけど、やっぱり気恥ずかしいものなのかしら?でも滅多に照れる新くんの姿なんて見れないから、ちょっと貴重かも!やっぱり可愛いなぁ、この子は。


「…帰る!」
「はいはい、気を付けてね。またいらっしゃい」
「来るけど、今度はガキ扱いすんなよな」
「それは保証できないなぁ。……あ、そうだ。新くん」


まだ赤い頬をそのままに彼は、ん?と顔を上げた。
青い瞳を見つめ、顔を引き締めれば新くんも何かを察してくれたらしく、真剣な表情になる。


「お願いだから、何かあったら必ず連絡して。特に奴らに関することは…ね」
「…わかった。調べてほしいこととかも、頼んでいいか?」
「私にできることなら協力するよ。噛みつきたい相手は、君も私も同じだからね」


使えるものは存分に使わないと。もちろん、お互いに…ね。そう言った私に新くんは一瞬だけ目を見開いて、敵わないと笑った。そりゃあ君よりも長く生きている大人ですからね、そう簡単に出し抜かれて堪るもんですか!
…それに守りたいものの為に、手段を選んでいられる程、余裕があるわけでもないし。何が何でも組織の手から守らなくちゃいけないの…私の大切な人と、彼女の大切な人を。
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