見知らぬ助太刀


本部について数時間。今回、私が加わるチームの人達へ簡単な挨拶を済ませた後、私は資料室へ引き籠っていた。任務の資料はもらったけれど、それはあくまで犯人の簡単な経歴や作戦内容だけで…今までの犯罪経歴は詳しく書かれていない。
簡単な経歴がわかれば十分だろう、とチームメイトに言われたけれど、それだけではきっとダメだと思ってしまったんだ。私は少し慎重すぎるのよ、と笑って告げ、現在に至る。幸い、私の行動を咎める人も、怒る人もいなくて安心したわ。だってそうでしょう?念には念を入れよ、とはよく言うけれど、今の状況では本部が用意した資料を信用できないって言っているようなものだもの。

(ふぅん…この犯人は遠くからの狙撃、というより、早撃ちが得意なのかな)

どの犯罪経歴を見てみても、秀一のようにビルの上から狙撃したものはない。あっても片手で事足りる程で、そのほとんどは至近距離での乱射―――と言っても、かなりの的確さだけど―――ばかりだ。読めば読むほど、やっぱり秀一の力が必要だったのでは、と思ってしまう。バカだなぁ、やってやりますよなんて大見得切ったくせに。
またむくむくと不安が膨れ上がっていく感覚がする。私にできるのだろうか、と。そっと目を閉じれば、瞼の裏に秀一の姿が映った…私を信じて推薦してくれた、尊敬する先輩で、私の愛しい人。

(―――大丈夫…きっと、できるから)

とにかく今は資料を読みこんで、再度作戦を確認して…それからゆっくり休もう。実行は明日だ、それまでに体調を万全にしておかなくちゃいけないんだから。パンッと自らの頬を叩き、読みかけの資料へ視線を落とした。





「円香、準備はできているか?」
「問題ないです。いつでもいけますよ」
「ははっ!秀一に聞いていた通りだな!男前な奴だ」
「…あの人、どんな説明してるんだ」


適度な世間話で凝り固まりそうな体や神経を解す。緊張感は大事なものだと思うけれど、し過ぎも体を動けなくさせてしまう。こうして時折、息抜きをすることだって必要になる。任務を前にして、って言われちゃいそうだけれどね。
ふ、と短く息を吐いて、支給されているグロック22を握る。今回、私は援護射撃ではなく特攻する前線へ配置されていた。正直、遠距離射撃も至近距離射撃もどっちもそこまで得意なわけじゃないんですけどね?!だけど、昨日射撃の腕を見せろと言われて撃ってみれば、褒められてしまった。そしてお前は前線決定だな、と言われてしまった。…解せぬ、と咄嗟に思ってしまったのは仕方ないと思う。
今更、配置を変えろなんて言えるわけもない。だってもうすでに、犯人が潜伏しているというアジトに着いてしまっているんだから。

息を殺し、存在を出来る限り薄めて、そっとアジト内に潜入する。そっと視線を巡らせれば奥の方に人影が見えた―――構えなければ、と思った瞬間には、銃弾が壁にめり込む音が聞こえて目を見開くしかできない。
それは誰にも当たらなかったが、確実に私達を狙っている…つまり、潜入しているのがバレているということだ。そこから銃撃戦になるのは、早かった。静かだった廃墟の中は発砲音でうるさくなり、そこらじゅうに銃弾が飛び交っている。少しでも気を抜けば、すぐにでもお陀仏になるだろう。


「チッ…思っていた通り、手練れな奴ね!」


銃弾を入れ替える間も、様々な所から被弾する音が聞こえてきて一気に緊張感が増していく。仲間に撃ち込まれてしまう前に、相手を制圧しなければならない。グリップを殊更強く握り、照準を合わせる。
狙うは、犯人の肩と足…そして手首だ。そうすることで持っている銃を叩き落とし、他の仲間達に捕まえてもらう算段。大きく息を吸い、吐いてから引き金を引いた。放った銃弾は3発、それは狙い通り、肩と足と手首を撃ち抜く。ぐあ、と短い悲鳴が聞こえた後、捕えろ!と響く仲間たちの声にそっと息を吐いた。終わった、かな…?
ああ、やっぱり銃の扱いには神経を使う。肉弾戦の方が私の好みだな、と痛感していると、収まったはずの発砲音が聞こえてきた。何故?!犯人はたった今、捕えたはずなのに―――まさか、仲間がいたというの?!そんな情報、こっちには…!


「ひひっFBIもマヌケだよなぁ?犯人が単数だと決めつけるなんて…」
「……ッ」


ジャリ、と足音を鳴らして現れたのは、2人。これは完全にこっちの落ち度だ…敵の人数を把握しきれていなかったんだから。だけど、今はそれを嘆いている暇なんてない!悩むよりも、落ち込むよりも早く銃を構えてもう一度、引き金を引く。

―――ダンッダンッダンッ!

犯人は確かに、呻き声を上げて倒れた。その事実に仲間達もそっと息を吐き、よくやったな!と肩を叩かれたり、頭をぐしゃぐしゃに撫でられたけれど…私には違和感が残っている。だって、だって私が撃ったあの銃弾は…犯人に当たっていない。私は2発しか撃てていない。シリンダーには、2発分の弾しか入っていなかったんだから。
それなのに聞こえたのは、3発分の発砲音。慌てて視線を巡らせた先に、黒いハットが見えたような気がした。
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