叩きのめされたこころ


無事に制圧できた。けれど、あの時助けてくれたのは一体誰なんだ?一瞬だけ黒いハットが見えたような気がしたけど…ただそれだけでは誰か、なんてわかるはずもない。すぐにでも後を追いかけたかったが、そうもいかない。私は今、任務を遂行する為にこの場所へと来ていたのだから。
いくら片がついたからと言って、後処理を全て仲間に任せて離脱!というわけにはもちろんいかないわけで。逸る気持ちを何とか抑え込んで、本部へ戻るしか術は残されていなかったのです。

後処理にはそう時間がかからなかった。一般人を巻き込むことはなかったし、報告書を作成し、それを提出してしまえば私の仕事は終わり。それが済んでしまえば、私はもう用済みと言っても過言ではないだろう。
本来なら、任務が終わり次第、日本行きの航空券を取って帰るつもりでいた。ボスにもそう言ってあるんだけど…気になることをそのままにはできない。何より、FBIとしてのプライドだってある。狙撃・銃撃は苦手な部類とはいえ、あそこまで華麗に撃ち込まれてしまうと何とも言い難いものがあるのだ。
その相手が同じFBIの捜査官なら何ら問題はなかったの。もっと頑張ろう、と奮い立たせることができたから。だけど、あれは仲間が撃ったものではなかった。あの時、私達は犯人が複数いたことに虚をつかれてしまっていたんだから。


「一般人?…いや、一般人があんな正確な狙撃をできるはずもない」


ブツブツ言いながらも、私は昨日訪れた廃墟まで足を伸ばしていた。此処にいるかどうかなんてわからない、いや、いないと思う方が普通だろう。それでも当てがあるのはこの場所だけなのも確かで、いなくても構わない!の勢いでここまでやって来てしまったのだけれど。…うん、だぁれもいないよなぁ?やっぱり。いくら何でも暴走し過ぎでしょ、私…と溜息を1つ。
すると、奇妙な、というか特徴があり過ぎる笑い声が耳に届いた。


「こーんな所で何をやってるのかなぁ?可愛いお嬢さん」
「……ルパン、三世…?!」
「およ?俺のこと知ってんのか、有名になったもんだねぇ」
「国を跨いで盗みを働いておきながら、よくそんなセリフが言えるわね」


サッとホルスターに手をかけた所で、足元に銃弾が撃ち込まれた。
何っ…?!1人では、なかったの?!


「俺達はアンタに手を出すつもりはねぇよ、その手を引っ込めな」
「そーそー。手を引っ込めないと、…その綺麗な黒髪が真っ赤に染まっちゃうぜ?」
「次元大介…早撃ちを得意とするガンマン」


彼の黒いハットを見て、ようやく理解できた。昨日、あの2人を撃ったのは間違いなくこの男だ。ルパン一味のガンマン・次元大介。
詳しくは知らない、けれどとんでもない腕を持った奴だということだけは知っている。秀一とどちらが上なのだろう、と密かに思ったことだってあるくらいだ。…確かにこの男なら、あの状況で2人の男を即座に仕留めてしまうことができるでしょうね。でも1つ疑問が残る、どうして銃弾を撃ち込んだのか。


「昨日―――この場所にいたわよね?」
「…なんだ。気がついてやがったのか」
「仲間以外の誰かがいたことは、ね。それが君だったとは思わなかったけれど」
「……」
「どうしてあの時、あの2人を撃ったの?君には何も関係がなかったはずだ」


ふっと次元大介が顔を上げた。ハットに隠れて見えていなかった瞳が、一瞬だけ私を映す。それはまたすぐに見えなくなってしまったけれど。唯一見えたのは、おかしそうに歪む口元だけ。
何がおかしいというのか、と眉間にシワを寄せるけれど、それでも次元大介はくつくつと喉を震わせたままだ。お前のことで笑ってるんじゃない、と言われたけれど…そこまで笑われるとにわかには信じがたいってものなんですけど。
ひとしきり笑って満足したのか、はー…と息を吐いて、彼は煙草に手を伸ばした。紫煙にのって届く香りは、当然ながら秀一のものとは全く違う。そりゃそうよね、吸ってる銘柄が違うんだろうから。何で同じ香りがするはずだ、とか思っちゃったんだろう。私。今はあの人を恋しく思っている場合じゃないというのに。
無意識に出てしまった溜息は、どうやら早く言えよこんにゃろう、という意思表示に取られたらしく「説明してやっからそうカリカリすんな」と言われてしまったとさ。別にそういう意味での溜息じゃなかったんだけど、まぁいいか。別に困るわけでもないし。


「アンタらが追ってた奴らな、ルパンが盗んだ宝石を横取りしやがったんだ」
「泥棒のもんを盗むとか度胸あるよなぁ?そんで盗られたままじゃいられねぇってんで、次元と一緒に追って来たわけよ」
「…もしかして、それで?」
「ま、アンタらがいたせいで宝石は取り返せなかったけどな」


それは…ごめんなさいと言うべき?


「確かに押収したものの中に宝石はあったわね…」
「それともう1つ!…アンタの銃捌きに興味を持ってな」
「は?」
「お嬢ちゃんが知っての通り、凄腕のガンマンなわけよ。次元ちゃんって」


それは知ってるけど、…それが次元大介の言葉と何の関係があるというのか。ワケがわからない、という気持ちを前面に押し出してみれば、それが面白おかしかったのはルパン三世は特徴的な笑い声を上げる。
次元大介もその隣でさっきと同じようにくつくつと笑っているもんだから、正直気分が悪い。何でこんなにも笑われなければいかんのだ、それも初対面の犯罪者に!!


「もったいねぇな、と思ったんだよ。まだまだ上手くなれそうな腕してんのに」
「…私、銃の扱いは得意ではないのだけれど」
「その思い込みが腕前を下げちまってる。それさえなけりゃあ、昨日だって俺の助太刀はいらなかったはずだ」


グッと言葉に詰まり、唇を噛んだ。この男の言う通りだ、もっと私に狙撃の腕があれば…自分で対処できたはずだったのに。
怪我人はいたが、誰も失いはしなかった。そのことに安堵したのも事実だったが、いつか仲間を死なせてしまうことだってないとは言い切れない。
何か反論しなければ、と思った瞬間、辺りの空気が変わった。殺気のような…肌にまとわりつくようなコレは何とも気持ちが悪い。


「こんな所にイイ格好した兄ちゃんと姉ちゃんが迷い込んでくるとはなぁ…へへ、今日はツイてるぜ」
「おーおー、あっぶない目しちゃってまぁ…」
「こいつら…」
「なんだ、知ってんのか?」
「…ええ。指名手配されている奴らだわ」


こんな所に潜んでいたのか。それとも逃げた末に、此処へ流れ着いたのか…それは定かではないけれど、でもこれはチャンスだ。FBIも州警察も追っている犯罪組織の一味なんだもの。逃がすわけには、いかないわよね!
あっちが刃物を取り出すのと同時に、私は地を蹴った。この距離だったら銃を撃つよりも、さっさと取り押さえてしまった方が早い。そう判断した末の行動だったのに、それが大きな間違いだと気がついたのは―――動いたすぐ後だった。
発砲音と共に、足元へ銃弾が撃ち込まれたのだ。何とか避けることができたが、それはかなり的確な狙撃。だが、前にいる奴らは銃を持っていないのに、何故?奴らの手に握られているのは鈍く光る刃物のみ。


「上だよ!」


―――ガゥンッガゥンッガゥンッ!

声と共に響き渡ったのはあの時と同じ、3発の銃声。その余韻の音が響く中、ドサリと何かが倒れた音が聞こえる。きっと次元大介が撃った銃弾が当たって犯人が倒れたのだろう…死んでしまったかどうかまでは、ここからではわからないけれど。
私が呆然としている間に、襲おうとしてきた奴らまでも動けなくしてしまっていて、もう目を見開くことしかできなくなっていた。本当に、…早い……!


「後始末は任せるとしようぜ、ルパン」
「ああ、そうだな。…んじゃーね、FBI捜査官の工藤円香ちゃん?」
「?!」


正体を、知られていた…?


「いつの間に、調べ上げられていたんだ」


…とにかく、この男達をこのままにはしておけない。本部に連絡を取り、応援に来てもらえるよう要請した。
はぁ、と息を吐いて、壁に寄り掛かる。初めて、銃の扱いに長けていないことを悔しいと思った。こんなにももっと、…強くなりたいと思ったのは、初めてだ。
それはいつか感じた感情と、ひどく似ているような気がする。
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