Second contact.
何で私は、こんな煌びやかなホテルの一室にいるのでしょう。というか、窓から見える景色は絶対にワシントンじゃない!
誰がどう見たって口を揃えてこう言うよ、ここはラスベガスだって!!
「はぁい!FBIの子猫ちゃん?」
「うわっ峰、不二子…?!」
「なーによぉ、うわっはないんじゃない?」
いや、うん、すみません…!別に貴方の顔が、とかそういうので奇声を上げたのではなく、急に美人さんの顔がドアップで現れたら驚きもするでしょう?!そういう意味合いでの奇声ですのであしからず!!何か自分で上げた声を奇声って言っちゃうのも悲しくなるけどさ!
…まぁ、それはさておき。本当に何で私はこんな所にいるんでしょうねぇ…いやね?別に気を失わされたとかじゃないんだよ。仕事と特訓を終えて本部を出た所で、何故か拉致られたんだよ。FBI捜査官が何してるんだ、って?うん、私も全力でそう思う!!
(あー…これ秀一に知られたら、めっちゃ怒られるやつ)
スイートルームであろう部屋に感動する暇もなく、日本にいる恋人のことを思い頭を抱える。この場合、怒るのは恋人としての彼ではなく、相棒としての彼なんだと思いますけどね。あ〜…それを思うと気が重くて嫌になるし、絶対にバレたくない!と願ってしまう。どっちの立場の彼に怒られようと、精神を大きく削られるのは間違いないんだもの。まぁ、仕事中に拉致られたわけでもないし、その瞬間を誰かに見られていたわけでもないはずだから(近道に、と通っていた裏路地での出来事だったし)、本部からボスや秀一に連絡がいくことはまずないと思っていいかな。
―――バターンッ
「ふっじこちゃーん!」
「のぅわ!ルパン三世?!」
「お、工藤ちゃんじゃねーの!この前ぶりだなぁ」
「えええ…何で犯罪者大集結……?!」
「もうすぐ次元も来るぜー」
「…この際だから石川五右衛門も連れて来いよ、この野郎」
溜息交じりに呟いた低い声は、きちんとルパン三世の耳に届いていたらしく、カラカラと笑いながら「五右衛門は残念ながら来てねぇのよぉ〜」と返された。ああそうかい、一緒じゃないんかい。というか、次元大介は来るのか。
ということは、私の拉致はルパン一味の仕業?いやでも、さっきのルパン三世の言い方から察するにこの部屋にいると思っていたのは峰不二子だけって感じだった…演技をしている、とも考えられるけど、する必要性を感じられないかな。それに車に連れ込まれた時、複数いるような気配はなかったものね。まさか、峰不二子が誘拐犯だとは思わなかったけれども!
そしてルパン三世の言う通り、彼が来てから10分後に次元大介が訪ねてきましたよ。私を見るなり何でいるんだよ!って顔をされたけど、いいか?よく聞け。それを聞きたいのは私の方だ!!わけもわからないまま拉致られて来たんだよ!それなのに事情を知っているわけがなかろうが!
うがーっと怒り出したいのを必死に抑え、グッと唇を噛んで耐える。
「工藤ちゃん、シャンパン飲む?」
「飲みますけど、…何でこんな和やかムード?捕まえますよ?」
「え〜?嬢ちゃんみたいな美人に捕まるのは嬉しいけど、なぁんも悪さしてねぇぜ?」
この国じゃあ、な。
シャンパングラスにとくとくとシャンパンを注ぎながら、さりげなくウインク。うん、まぁときめきはしないけど…カッコ悪いわけでもないかな。
確かにルパン三世の言う通り、アメリカで悪さをしたって話は聞いていないけど元々は国際手配されているんじゃなかったっけ?そのうち、ICPOの銭形さんが追いかけてくるのではないだろうか。
「んで?何でお前が此処にいるんだよ」
「私が聞きたいっつーの。拉致られたんですよ、峰不二子に」
「…FBIが何してんだ」
「それ言わないでくれます?!」
次元大介のシラーッとした目に、涙目で言い返した。それ!一番言っちゃダメなやつですから!!
「フルネームで呼ばれるのは味気ないわね…『不二子ちゃん』って呼んでくれない?」
「何故に敵であるはずの貴方をちゃん付け…」
「だって今は泥棒と捜査官という立場で会ってるわけじゃないでしょ?そ・れ・に!」
「?」
―――むぎゅっ
「私、ずぅーっと貴方に会ってみたかったのよ〜!」
「ふぎゃ?!ちょ、むっ…胸当たってますけど不二子さん?!」
私に会ってみたかった、ってどういう意味ですか!というか、胸でっか…!!
じわじわと熱くなる顔、だけど不二子さんは離してくれる気は更々ないらしくいまだにむぎゅーっと抱きついたままだ。…あ、この人がつけてる香水、いい匂いがする。
何かもう真面目に考えて、それでツッコむのが面倒になってきたなーこの際、流れに任せてしまう方が楽なんじゃないだろうか、と思ってしまうくらいだ。あれだ、不二子さんの腕の中で無我の境地に入りそうです、私。
「不二子ちゃんが工藤ちゃんに興味ある理由、教えてやろっか」
「え?」
「むふふ。それは、お前さんの恋人が関係してんだな〜」
「こい、びと…?私の?」
頭に浮かんだのは、当然ながら秀一の姿。あの人が私の恋人だけれど、どうして不二子さんやルパン三世が彼と私の関係を知っているんだ…?!
「あのシルバーブレットがお前の、ねぇ」
「それもかなりのイケメン!!…ちょっとどうやって仕留めたのよっ」
「し、仕留めたって私はハンターですか…!」
「だって気になるじゃなぁい!でもまぁ、…私には負けるけど、貴方スタイル抜群だし男が落ちるのも無理はないわよねぇ」
そりゃあ貴方のスタイルに勝てる女性は、この世にそうそういないでしょうよ…!半ばヤケでグイッとシャンパンを煽れば、すぐさま並々と注がれた。何だこの野郎、私を酔わせる気なのか?秀一程、お酒に強いわけじゃあないけど弱いわけでもない。このくらいの度数だったらまだまだイケるっつーの。
(酒は呑んでも呑まれるな、だっけ。確か)
ルパン三世は不二子さんが私に興味を持った理由は秀一だ、と言った。言ったけれど、…果たして本当にそれだけの理由でこんな場所へ拉致するだろうか?それに彼女だけならまだ信憑性は高いけれど、そこにルパン三世と次元大介を呼んでいる所がまた怪しいのよねぇ。
何かよからぬことを考えているか、それとも私が持っている情報を得ようとしている、とかね。泥棒である彼らに提供するような情報は、残念ながら持っていないからムダ足になるでしょうけど。
「それでよ、工藤ちゃん。物は相談なんだが…」
「何の情報をお求めかは知らないけれど、横流しはしないわよ」
「あ〜らら。全てお見通し?さっすが切れ者スナイパーの相棒だねぇ」
「茶化さないで頂ける?」
グラスを傾け、残っていたシャンパンを一気に飲み干した。いい飲みっぷりだな、と次元大介は感嘆の意を示していたけど、それで気を良くするわけでもないんだからね!
そしてまたいつの間にか注ぎ足されていたシャンパンを、今度はちびちび飲みながらルパン三世・次元大介・峰不二子の様子を観察する。
んー…何か企んでるっぽいんだけど、でもそれを簡単に悟らせてくれそうにはないなぁ。アメリカで何か事を起こそうとしている?けど、泥棒が狙うような宝石がどこかにあっただろうか…。
(…なーんて。そんなの捜査官が把握してるわけないじゃないねぇ?)
考えても無駄ね、ルパン一味が狙いそうな宝石があるかどうか、なんて。考えてわかるんだったら苦労しないわ。この世界にどれだけの宝石があると思っているんだ私は。変に気にするのは止めておこう。
目の前で犯罪を起こされたら追いかける気満々だけど、そうでない今は別に放っておいても問題はないかな。というか、ルパン一味には専属の人がいるわけですから。その人の悲願を奪うわけにはいかないわよねぇ。
「…にしても、お前さんがまだアメリカに残ってたとは思わなかったな」
「誰かさんに火ィつけられてしまったもので。もう少ししたら帰りますけどね」
「あら?でも貴方ってアメリカ在住なんでしょう?」
「ワケあって今は日本にいるんです。貴方達だって世界中飛び回って悪さしてんじゃないですか…」
というか、そんな話してたっけ?
「工藤ちゃんって冷静沈着に見えるけど、案外負けず嫌いな質か?」
「さあ?どうでしょうね」
「その口ぶりは図星ってやつだな。なんだ、思っていたよりわかりやすいじゃねーのお前さんって」
黙ってりゃ好き勝手言いやがって、こいつら…!確かに負けず嫌いな性格してるし、顔に出やすいって言われることも多々ありますよ!悪いか、この野郎!!
もう反論するのも面倒で、不機嫌なのを隠すこともなくそっぽを向いてただグラスを傾ける。今更だけど、私、何してんだろ。何か段々とこの空間に慣れつつある気がして、ものすごく嫌だ。
(別に、完全な悪だとは思わないけど…だけど、義賊でもないのは確かよね)
噂のみで全てを理解するのも、この人達の人柄を鵜呑みにするのはよろしくないけれど…でも判断材料がそれしかないのも本当だと思うから。とはいえ、彼らを理解しようと思っているわけでもないんだけどね。友人になろうとか、そんなことを考えているわけでもないし。
でもまぁ…少し面白いな、と思い始めてる部分はあるけど。
「ルパン三世…ね」
グラス越しに見た彼らは、どこかキラキラと輝いているような気がした。