恋人は一枚上手
「どうしてこうなった。」
胸の内だけで留めておこう、と思っていた言葉は、我慢が効かずにするりと外へと漏れ出していく。それを耳にした目の前の男は愉快そうに笑い、「んなおっかねぇ顔すんなよ〜」と言っているけれども。
君が言うおっかない顔にさせてるのは、どう考えても君だから!君以外に誰がいると思ってるのよ!!うがーっと捲し立てれば、これまた楽しそうな笑い声が上がる。
…ああ、ダメだ。この人には何を言っても無駄なんだ、何を言ってもさっきみたいに笑って流されて終わりなんだなこの野郎…!
「なぁ、工藤ちゃん。オメーにも悪い話じゃないと思わないかい?」
「……」
「俺達は目的の物が手に入る。オメーは犯罪を阻止できる…立派な同盟じゃないの〜」
ニヤニヤと笑う男―――ルパン三世。
ほら見ろ、嫌な予感はバッチリ当たってしまったじゃないか。
「潜入捜査?」
『そうなの。組織とは関係がないんだけど、本部が追っている麻薬組織がね…』
「成程?それで日本にいる我々に要請をしてきたわけか」
『そういうこと。円香は別件で動けないらしいから、私とペアになるけど』
少し申し訳なさそうに言われたが、仕事だろう?そのくらいのことで不機嫌になったりはしない。一体、ジョディは俺を何だと思っているんだか…。
詳しい内容は近々書類を持っていくからそこで、と言われ、電話は切れた。ふむ、本部からの要請とは珍しいこともあるものだな。
side:赤井
ジョディから電話で依頼された次の日。言っていた通り、彼女は書類を持って工藤邸へと姿を現した。もちろん、尾行されていないか細心の注意は払ってもらったがな。
公安には諸事情で生きていることを教えたが、沖矢昴=赤井秀一というのはまだ知られるわけにはいかん。かと言って、外でFBIの仲間と会うのは危険すぎる…それこそ安室くんにでも目撃されてみろ、即座に俺と沖矢を結び付けてしまうだろう。それは勘弁願いたい。
まぁ、工藤邸にジョディが訪ねてくるというのも大分危ない橋を渡っているのだが…外で会うよりまだマシなはずだ。盗聴器がないかどうかも調べてある。
リビングにジョディを通し、件の書類を預かった。すぐに確認をしてみれば、日本に来る前に聞いた覚えのある麻薬組織の名前がそこには書いてある。ホー…成程、コイツらがようやく動き出したのか。これは確かに本部も逃せないチャンスだな。
近々、組織の奴らが日本で大きな取引を行うらしい。その舞台のカモフラージュとして選ばれたのが、俺と彼女が潜入する予定のパーティーというわけだ。
「要請が来た理由はよくわかったよ。またとないチャンスだな」
「ええ、ジェイムズもそう言っていたわ。本当は円香とシュウに任せるつもりだったみたいだけど…」
「別件で動けない、と昨日は言っていたな。確かにアイツはここ数日帰ってきていないが」
「でも連絡を取っているジェイムズも、何を追っているか知らないみたいなの」
彼女の言葉に片眉が上がった。ジェイムズですら、円香が関わっている事件を知らない…?何か嫌な予感がした。だが、連絡を取れているという話を聞く限り囚われている、というわけではなさそうだが。
「けどまぁ、彼女が個人で動くことはよくあるでしょう?だから大丈夫だろう、とは言っていたけど」
「…その顔を見る限り、納得はいっていない―――ということか」
「その通り!納得いっていないのは私だけじゃないけど、…なぁんか秘密裏に事が動いているような気がしてならないのよね」
秘密裏に…か。それは俺も考えていなかったわけではない。円香はジョディの言う通り、個人で動くことがよくあることだ。だがそれは、どんな事件で・何をしているかを俺達も把握している上での単独行動。
稀に報告を忘れて突っ込んでいくこともあるが、そうした場合どうなるかは新人時代に調教済みだ。記憶に深く根付いているであろう出来事を忘れる程、アイツもバカではないはずなのだが。
報告できない理由があるのか、それともどうなるか覚悟の上での単独行動をしているのか…一体、どちらなのだろうな?円香。
(何を追っている?…それもたった1人で)
黒の組織か?いや、それであれば必ずジェイムズか俺に連絡が来るはず。しかし、奴らに関して情報を得たという話は聞いていないし、目の前にいるジョディもそんな話を一切してこない。ということは、つまりアイツが追っているのは組織ではないということになる。
だが、それ以外に何を追う…?日本で起きている事件などは基本、日本の警察の管轄だ。俺達が介入できるものではないし、元々要請もせずに好き勝手動いているのはこちらだ。派手に動けば面倒なことこの上ない。
あと考えられるのは―――国際手配されている組織や犯罪者相手だが。
「まさかあのバカ…」
「えっちょっと待ってよシュウ、…あの子、もしかして」
「ああ、アイツは単独でこの組織を追っている可能性が高い」
「でもこの情報は昨日、ジェイムズに入ったばかりよ?!最近、顔を出してないあの子が知り得るはずが…」
「ジェイムズは?」
「彼女には知らせてないって言っていたわ」
ジェイムズは伝えていない、そして本部が彼女個人に連絡するとは思えん。だとすれば、別の筋からその情報を手に入れた可能性が高いな。表か、裏か…円香の性格を考えれば表なんだろうが、誰にも知らせていないことを考えると裏の可能性の方が高そうだ。
全く、無茶をしているんじゃないだろうな?うちのバカな相棒は。
「それでどうするの?円香の足取り、追ってみましょうか?」
「いや、恐らく足取りを追えるような痕跡は残していないだろうさ。そんな甘い教育はしていないんでね」
「…円香も円香だけど、貴方も貴方よ。シュウ。何でそんなに楽しそうなのかしら?」
「クク、アイツがどこまでいくのか…見物じゃないか」
自然と口角が上がった俺を見て、ジョディは呆れた顔になっていた。だが、本心なのだから仕方がないだろう?
さて、アイツの目的が俺達と同じなら―――確実に鉢合わせするだろう、例のパーティーでな。