目を引く招待客


インカムを耳に装着し、バレないように髪で隠した。メイクも普段とは違うもの、髪も違う色のウィッグをつけているからパッと見、私だとはわからないはず!
こういうことに使う予定で義姉さんに教わっていたわけじゃなかったんだけど、…まぁ、目的達成の為に手段を選んでいる場合でもないしね。色々と目を瞑ってもらうことにしよう、義姉さんに話すつもりもないけど。

(…それにしてもずいぶんと派手なパーティーだこと)

辺りを見回すとテレビや雑誌で見たことがある顔が、それこそいくつあるんだって言いたくなるくらい。こんなにも著名人を集めたパーティーの裏で、まさか取引が行われるなんて…普通は誰も予想しないでしょうね。
だけど、表でここまで派手にやっていれば裏はそこまで目立つことはない。いいカモフラージュになるのは確かか。それでもどこからか情報が漏れる、というのはお決まりだけれどね。
クスリ、と笑みを零して、ウェイターから受け取ったシャンパングラスに口をつける。この後のことを考えると、アルコールは摂取しない方が身の為なのはわかってる。でもなー…こういうパーティーのお酒って、大体が上等なものって決まってるのよ。主催者が一流なら尚更ね!それに今回のは著名人が多く招待されてるし、上等なものを出さないわけにもいかないでしょう?


『お〜い工藤ちゃぁん。酒飲んで酔っ払いました、とかやめてくれよ〜?』
「そんなヘマ、するわけないでしょ」
『まぁ、俺としてはその方が嬉しいけど?』
「バカ言うな」


通信を切って、残っていたシャンパンを飲み干した。これがただパーティーに参加しているだけ、だったらおかわりしているんだけど…さすがにこれ以上はマズイわよね。シャンパン2杯で酔う程、お酒に弱くはないけれど。不本意ながら仕事で来ているわけですし、真面目にやらなくちゃ。
…全く、まさか捜査官である私が国際手配されている大泥棒・ルパン三世と手を組むことになるとはねぇ。世の中、どう転ぶかわかったもんじゃない。
あー…これ、絶対秀一にバレたらお説教されるやつだ。お説教だけで済めばいい、お仕置きとかされたらもう堪ったもんじゃない。新人の頃を思い出してふるり、と体が震えた。私が悪かったわけだから文句なんてひとつも言えやしないんだけど、それでも可愛い後輩にあの仕打ちはないと思うんですよね…!
とはいえ、今回していることもその仕打ちをされるであろう事項ではあるのよね。バレないといいなぁ、と願ってみるものの、この案件はFBIも追っているだろうし…時間の問題かな。

さて、考えても仕方がない。頭を切り替えて仕事をするとしようか。
ルパンから頼まれたのは、同じように会場へ紛れ込んでいる次元と一緒に奴らをマークすることだ。私がつけているネックレスには小型カメラが仕込んであるから、奴らの行動は全てルパンへと届く仕組みとなっている。今の所、会場を抜け出してはいないみたいね。ルパンも、次元も慌てていないし、何の通信も入ってきていないもの。
ノンアルコールのカクテルが注がれたグラスを手に、そっと壁へと寄り掛かる。きちんとカメラに奴らの動きが映り込むよう、計算をして。


「(いい加減、何かしらアクションが起きてもおかしくはないはずなんだけど…)」


じっと待つことは苦手ではない。職業柄、張り込みとか狙撃待機とか経験してきているし。それに比べれば、このくらいの時間を待つことは苦ではない―――が、壁に寄り掛かる女1人というのは思っていた以上に目立つらしい。
さっきから幾度となく声を掛けられて、その度にカメラが遮られてしまったり、私の視線が奴らから離れてしまうことが多々あるもんだからだんだんとイライラしてきましたよ。私。ああもう!一緒に行動すると、何かあった時に不便だから別々にマークしていたけれど、こんな面倒なことになるくらいなら次元の隣にいれば良かったわ。


「失礼、お隣よろしいですか?」
「あ…いえ、私友人と一緒、で……」


またかよ!と顔を上げて、息が詰まった。だってそこにいたのは、スーツに身を包んだ秀一だったから。内心、冷や汗ダラダラなんだけど変装しているし、バレることはないだろうとそっと深呼吸。
今ここで彼に正体を見破られてしまったら、それはもうとんでもなく大変なことになる…!マズイことをしている、と自覚があるから尚更だ。どうか言葉が詰まったことにツッコミをいれないで、と願いながら笑みを浮かべる。
ここはそつなく相手をし、それとなく一緒にいることを断って、他の招待客に紛れて姿をくらますのが一番いい方法かな!…大丈夫、焦らなければちゃんとできるはずだ。


「貴方程のイケメンなら、お一人ではないのでは?」
「ホー…君程の美人にそう言って頂けるとは。光栄ですね」


うっわぁ…顔、赤くなっちゃいそう。条件反射で。というか、秀一ってこんな風に女性を口説くんだなぁ…それに彼の敬語って何だか聞き慣れない。ボスと話している時はもちろん敬語だし、沖矢くんに変装している時も敬語だけど、滅多に聞くものではないから。新鮮だ、と胸が躍る一方で、やっぱりどこか納得できなくてモヤモヤする。
多分、捜査の一環なのだろうけれども…どう考えたって取引に関係なさそうな女性(中身は私)に声をかけるなんて、ナンパと変わらないんだもの。くそう、私という者がありながら…!心境としては、マンガでよく見る『ハンカチギリィ…!』です。よくわからない?うん、私もわからない。色々と気が動転してるんだよ、放っておいて下さい。

変に勘繰られないうちに秀一の傍から離れないと、と機会を窺いながらノンアルコールカクテルを口にしていると、グイッと腕を引っ張られた。その先にいるのは秀一以外の何者でもなくって、うっかり変装していることを忘れて何をするんですか秀一!と叫びそうになる。
何とか飲み込んで、女性が上げるであろうっぽい声を上げたけど。


「君―――…円香だろう。何をしている」
「ッ?!」


耳元で囁かれた言葉に、驚きを隠せない。メイクやウィッグで普段の私とはかけ離れた姿になっているはずなのに、それなのにこの人は…この僅かな間に見抜いた?!しかも疑問形ではなく、完全な確信を持った言葉。
マズイ、これは本当にマズイ…!どう切り抜けようか、と思った時、爆発音が会場全体に響き渡った。今度は何事ですかコンチクショウ!!あれか?ルパンが爆弾でも仕掛けやがったのか?!そんな作戦、これっぽっちも聞いていないんですけれども!
でもこれはチャンスだ、今の音で秀一も意識を逸らされたらしく掴まれていた腕が解放されている。今のうちに逃げるしかないっ!


「嬢ちゃん、一旦引くぞ!」
「っわ…?!」
「しまった、…円香!!」


逃げ惑う招待客の声に混じり、愛しい人の声が聞こえた。垣間見えた表情は、滅多に見せない焦りの表情で思わず息を飲む。
目に映る光景に胸が締め付けられるけれど、それでもこれは…私自身が選んだ道だ。
- 79 -
prevbacknext
TOP