Sweet Darling?
無事に会場を抜け出した私達―――私を抱えたのは次元だ―――は、ルパンと五右衛門が待機していた車に乗り込み、米花町を爆走中だ。一応、制限速度は守ってはいるみたいだけどそれでもスピードすごいよ。ビックリする。
そんなスピードで揺られながらも、私は1人下を向いたまま頭を抱えている。
「工藤ちゃ〜ん、もしかして落ち込んでんの?」
「む、正体を見破られたことでござるか。あれはお主のせいではなかろう」
「……あの人、なんっであんな犯罪的にカッコイイのかな……!」
「……は?」
バッと顔を上げ、つけていたウィッグを外し、それを乱暴に座席へと叩き付ける。原因は何か?そんなの決まっているじゃないか、スーツ姿の秀一がカッコ良すぎてだよこの野郎!!
「FBIも追ってる組織だし、もしかしたらいるかもなと思ってましたよ!それだけならまだしも、滅多に見れないスーツ姿とか!!普段かぶってるニット帽は当然ながらかぶってないし、前髪全部上げてのオールバックとか何なのもうっ…!」
「嬢ちゃん…お前さん、落ち込んでんじゃなかったのか」
「ええ?何を落ち込む、…ああ、変装を見破られたこと?まぁ、確かに少なからずショック受けましたけど今はさすがだなぁ、あの人って感じです」
「ものすごい惚気を聞かされたでござるなぁ…」
会場を出る瞬間に聞こえた声、見えた表情を思い出せばいまだに胸はぎゅうっと締め付けられるよう。けど、…それ以上にあの姿は魅力的で勝手に頬を緩ませる。FBIの捜査で何度かパーティーに潜入したこともあったけど、その時もカッコ良くて内心惚れ惚れしていたんだっけ…あの時は別れた後で、あの人が私のことをまだ想ってくれているとは知らなかった頃だから、こんな風に萌えられなかったけど。
いや、つき合っている今でもこんな風に萌えたり、悶えたりするのはマズいか。あれだ、世間体というか私のイメージが死ぬ。秀一に憧れている、というのは、私が所属するチームでは有名なことではあるけれど。
「しっかし工藤ちゃんがそんなメロメロだとは思わなかったね」
「そう?これでも一途な女なので」
「しかし、FBIが動いているとなると面倒なことになるでござるな」
「あ、さっきの爆発って君の仕業じゃないよね?!」
「あったりめーでしょーよ!何でむざむざ獲物を木っ端みじんにしなくちゃなんねーのよ」
ですよねぇ?頭を惚気モード(次元命名)から切り替えてふむ、と考える。慌てて会場から逃げてきてしまったけれど、主催者と取引相手は無事なのだろうか。まぁ、でも秀一もいたし…彼がいた、ということはボス・ジョディ・キャメルくんの誰かがあの場所にいたと考えるのが妥当だ。だとすれば、あの場は上手く収拾つけているだろう………いや、後処理は日本の警察に任せて、雲隠れしたって可能性もなくはないかな。
だって、私達は要請もせずに日本で勝手に捜査をしている身ですから?それにここでFBIのIDカードをかざしたって、何の効力もないだろうしね。
それよりも、だ。気になるのはあの爆弾を仕掛けた犯人だよね。ルパンは違う、主催者でもないだろう…会場となっていたホテルは彼が社長を務めている会社の経営だ、と聞いているし、何か危険が迫っていたとしても自らの商売場所を爆破したりはしないと思う。いくら何でも無謀すぎるもん。
となると、最有力なのは取引相手だろうけど…何の為に?爆破の騒ぎに乗じて、目的の物を奪おうとした―――とか?なくはないだろうけど、会場にそのまま仕掛けるかなぁ?ちょっと危ないよね、下手すれば自分だって死んじゃうくらいの爆発規模だったもの。
「もう一派、別の所が出てきたのかもな」
「…ま、次元の意見が至極有力かもしんねーな」
「それで、これからどうするつもりでござるか」
「ひとまず、もういっちょ情報を集めにかからねぇとなぁ…あちらさんの動きも掴む必要があるだろ?」
確かにルパンの言う通りだ。あの爆発のせいで確実に取引はお流れになったはず、だとすればまた、別の日程を組むとみて問題はないだろう。
それと並行して、爆弾を仕掛けた犯人を見つけ出しておいた方が良さそうね。さあ、どうやって探ってやりましょうか。
「悪い顔しちゃってまぁ…」
「案外、ノリノリじゃねーか。お前さん」
「やだなぁ。これでも罪悪感バリバリありますよ?」
「…顔はそう言ってないでござるよ」
「五右衛門までそんなこと言いますか…」
罪悪感はある。それは本当だ。だから秀一のあんな顔見てしまったら、即座に謝りたくなったし胸だって痛む。
その反面、あの人にあんな顔させているのは自分なんだって思うとちょっとゾクゾクするんだよね。滅多に表情を崩さない人だから、余計にそう思っちゃうのかもしれないけどさ。
「追ってくるかな、…あの人」
「来るだろ、絶対。シルバーブレットをあそこまで手懐けてるたぁ、見事なもんだね」
「手懐けてるって…秀一は私のペットじゃないっつーの」
「けど、獰猛な番犬…いや、狼か?」
どっちにしろ動物じゃないか。なんだ、次元の目にはそんな風に秀一は映っているわけ?否定しきれないけど、肯定もしたくないなー…大事な相棒で恋人である彼を、そんな風に言ってほしくないという複雑な乙女心をわかってほしいもんだ。わかってもらった所でどうするの、って気はしてるけど。
ふるり、と頭を振って、荷物の中からパソコンを引っ張り出す。もちろん、私のモノではない。ルパンにボソッとパソコンあると便利、と漏らしたら、どこからか用意したらしいコレを渡されたのである。
買ったのか、と一瞬思ったけど、新品であるようには見えない…でもパソコンの中身は真っ新で何の情報も入っていなかった。中古ではあるけれど、バッチリ初期化されてるってことなんでしょうね。それを知った時は本気で残念、と思ったわ。
「お主、何をするつもりでござるか?」
「撮っていた映像でも解析してみようかな、と…ほら、爆弾魔が映っているかもしれないでしょ?」
「ルパン、俺と嬢ちゃんの小型カメラで撮ってた映像見てたんだよな?」
「ん〜?見てたぜ、でも怪しい奴は見かけなかったけどな」
「私達だって取りこぼしなく撮れていたわけじゃないと思うわよ…」
特に私は正面に立たれてレンズを遮られたこともあったし?それに解析してみないと見えないことって、結構潜んでいるものなんですよね〜。
小型カメラとパソコンをUSBケーブルで繋ぎ、まずは映像自体を読み込む。2人分の映像を取り込んだら、今度は解析を……お、さっすがルパンの持つ高性能カメラだね!映像が割とクリアじゃないか、これだったら解析しないでも情報を得ることができるかも。
カチカチ、とマウスを操りながら、不審な人物がいないかどうか画面の隅々まで視線を走らせる。ルパンは見かけなかった、と言っていたけれど…本当に?爆弾はあの会場内で爆発していた。ということは、部屋の中に仕掛けられていたということになる。それがパーティー中だと仮定すれば、私達が撮っていた映像に入り込んでいるはずなんだけどなぁ…。
「よーっく考えてみなよ、工藤ちゃん。あれだけの人数がいた会場でよ?誰にも怪しまれずに爆弾を仕掛けられると思う?」
「人数がいた方が紛れ込めるじゃない」
「うん、確かにそれは正論だ。…でもよ、工藤ちゃんが爆弾魔だとして―――そんな危険、冒すか?」
ミラー越しに交差している視線。先に逸らしたのは私で、見えないようにグッと唇を噛んだ。
「…冒さない、と思う」
「だろ〜?俺もそう思うわけよ!恐らく、パーティーが始まる前に仕掛けたんだろ」
うーん、やっぱりかぁ。そうなるとこの映像から得られるものは一切ナシ、ということになってしまう。
仕方ないか、と映像を止めようとした時―――視界の端に、何か映り込んだような気がした。
「どうかしたのでござるか?」
「…ルパン、ちょっと車停めて!」
「おおっとぉ?!」
「ちょっあぶねーだろ嬢ちゃん!!」
「これ見なさいよ君達っ!」
一時停止した画面を2人に見せれば、わかりやすく表情が歪んだ。唯一、その画面を見ていない五右衛門も2人の表情を見て何かを察したらしい。殊更、硬い表情へと変わったから。
そう、画面の端に映っていたのは…私がルパンと同盟を結ぶ羽目になったきっかけを作った男―――。