大泥棒と捜査官
不二子さんからの差し入れ、という名目で渡されたUSBはとんでもない代物だった。ルパンにはそれはやるよ、と言われたけど…いや、これ持っててもどうしようもなくない?私。
きっとあの男はあとで楽しめば?って意味合いで渡してきたんだろうけれど、楽しむ方法がわかりません。そりゃあ、意外なものを見れたとは思うけどさ…でもあんまり気分のいいものではないでしょ?中身を知ってしまった今では。
(かと言って、このまま捨てるわけにもいかないし…)
どうしようもないので、ひとまずこの案件が片付くまでは持っておくことにしました。あとでデータを綺麗サッパリ消して捨てればいいもんね。…でも元データは不二子さんの手元にあるのかなぁ…変なことに使わないでほしい、と切に願うけど、あの人も泥棒だしなー。願うだけ無駄かも、なんて思うのだ。
とはいえ、あの映像には彼女自身も映ってしまっているから多分消してしまうか、もしくはそのまま封印してくれる可能性の方が高いと思うけどね。
「おーい工藤ちゃ〜ん、聞いてっか?」
「…あ、ごめん。全く聞いてなかった」
「嬢ちゃん、お前なぁ…」
しまった。今はこれからの打ち合わせをしてたんだっけ。
「ちょっとトリップしてました。でも作戦は変わってないんでしょ?」
「基本はな。…けど、ちょーっと厄介な輩がいんだわ」
「厄介?FBIのことじゃなくて?」
元々、取引相手になっているのはアメリカの麻薬組織だ。もちろん、その組織が日本に来ていることを知っているのも、追っているのもFBIだけのはず。だけど、ルパンはFBIのことじゃないと首を横に振った。
…え?FBI以外にもこの麻薬組織に目をつけている奴らがいるってこと?嫌な予感しかしない、と眉間にシワを寄せると、ルパンに紙束を渡された。ホチキスで綺麗に止められているそれは、恐らく今回の案件に関する資料だろう。
ペラペラと捲っていくと、取引相手の組織のことや、取引を持ち掛けた男のこと…それからルパン達をつけ狙っている組織―――所謂、ヤーさんってやつだね、それらについて書かれていた。全く…この取引は秘密裏に行われていたはずなのに、どこからか情報が漏れていたみたいなのよね。そうじゃなきゃルパン達をつけ狙っているような奴らが出てくるわけがないもの。
まぁ、裏の世界の情報が漏れ出ようが知ったこっちゃないけど、面倒なことになるのはごめんなのよねぇ。元々が面倒事なわけだから、これ以上のことになってももう諦める他ないんだけどさ。
「公安が動いてるっぽいんだよなー」
「は?公安が?何で?!」
「詳しいことは調べてねぇから知らねぇよ。けど、どーも銭形のとっつぁんが絡んでるみてぇだ」
「銭形…?ってことは、インターポールか」
つまり何か?インターポールは公安…というか、日本警察に協力を申し出たってことなのか?そうじゃなきゃ、公安が出しゃばってくるはずもないよね?だって今回の案件は、確実に黒の組織は関わってないんだもの。FBIが動いたのだって本部からの要請があったからだ。
「公安、ねぇ」
それはつまり、降谷が動いてる可能性が高いのかな。けれど、アイツは潜入捜査官として動いているはずだからこの案件には関わっていないかもしれない。さすがに別件で捜査中の捜査官を呼んだりしないだろ。
そう勝手に納得していたのに、次元から「降谷零って知ってるか?」と聞かれて思わず持っていた資料をぐしゃっと握り潰したよね。静観していた五右衛門は見事にやったな、と感嘆の息を零している。いや、なんだよその反応!
「その反応、やっぱり知ってたか」
「まぁ…色々とあるからね。彼とも」
「いや〜お前さんモテるのな?公安の彼、工藤ちゃんにゾッコンだろ」
「ゾッコンって……古いな」
「ツッコむのはそこなのでござるか?」
多分違うけど、気になったものは口にしちゃう主義なので。
つーかね?降谷が私に構うのは秀一と繋がっている人間だからで、別に私自身に興味を持っているわけじゃないんだってば!何で秀一といい、ルパンといい、降谷が私に惚れているとかよくわかんないことを言い出すのかなぁ。絶対に嫌がらせの一種だって、それ以外の何物でもないでしょう。
ぐしゃぐしゃにしてしまった紙束のシワを伸ばしていると、向かいに座っているルパン、隣に座っている次元、少し離れた所で座っている五右衛門が同時に溜息をついた。え、なにその反応は。
「っか〜!鈍いな工藤ちゃん!」
「嫌がらせなワケねぇだろうが。完全に惚れてんだろ、そいつ」
「拙者でもわかる」
うんうん、と頷く五右衛門に頭抱えたくなった。それはつまり、この中で一番恋愛に疎そうな五右衛門より、恋愛に疎いってことになるのか?私。そりゃそんなに経験多くないですけれども!!
「恋愛に疎いっつーか、好意に鈍いって話だ」
「ええ〜…?」
「ま、それは公安の彼自身に聞くのが手っ取り早いさ」
「話を元に戻すが、インターポールと公安も取引場所に現れるのでござるな?」
「ま、そーいうこった。FBIに公安にインターポール…それから諸々の組織ってとこだな!」
うーん、当初の予定以上に障害が増えたな。だけど、私が今組んでいるのは世界に名を轟かす大泥棒…今までに今回のような局面には幾度となく立たされてきたんだろうし?何とかしちゃいそうな気がしてるんだよね。
それにFBIの動きなら私でも大体予想がつけられる。いくら作戦会議に参加していなくとも、指揮をとっているボスや秀一がどんな作戦を立てているのかくらいはわかるもの。これでもあの人達の部下ですから、私。
「そんでよ、工藤ちゃん。お前さんならどんな配置になると思う?」
「見取り図見せて。………そうだなぁ、FBIの面々は四方八方に散らばると思う。それから―――ああ、このビルの屋上が最有力かな」
「何の最有力なのだ?」
「狙撃の、だよ。撃つ確率は低いとは思うけど、でもきっとあの人はここを選ぶと思う」
「ライフルか」
「そ。700ヤードまでイケる切れ者スナイパーよ?相手としては申し分ないんじゃない?」
ニッと笑みを浮かべれば、帽子で隠れている次元の目が一瞬だけギラついた。その眼光の鋭さは、まるで獰猛な猛獣のよう。
「スナイパーVSガンマン、ってか?だったら、先にそいつを制圧しておくべきかもな」
「ひょ〜、やる気だねぇ。次元ちゃん」
「でもあの人の腕に傷つけたら許さないからね」
「…お前はどっちの味方なんだよ」
「元々、君達の味方になったつもりはないよ。利益重視の協力関係だもの」
行動を共にしているのは、お互いにその方が利益があると知っているから。それは君達だってわかっているはずだし、私が味方になると本気で思っていたわけじゃないでしょう?
この案件が無事に終了するまでは裏切る(信頼とか信用とかしている間柄でもないけど)つもりはないし、こっちが不利になりそうだったら味方であるような行動も取るつもりでいるけどさ。…というか、もう取っているようなもんだし。
「むう。思っていたより強かなのだな、お主は」
「表面上は仲間の敵にならなくちゃいけないし、そうならないと色々と大変なのよ」
とは言ったものの、実際問題自分が強かなのかはわからないというのが正しい回答だと思う。だってそんな風に思ったことないし、客観視したこともないし。目的を達成する為には手段を選ばない、という気持ちはあるけどね。必要なことなら多分、どんなことでもする。
それが一番だ、手っ取り早いと感じたのなら尚更。そんな気持ちや覚悟がなければ、今のような状態にはなっていないでしょう。絶対に。
(まぁ、でも…ルパンから言われなければ、思いつきもしなかっただろうけど)
そうなのだ。今回のコレはルパンから持ち出してきたこと。互いに利益が出るだろう、と言われてのことだから。説明されてみれば成程ね、と思うことも多々あれど、私のみだったら本当に思いつきもしない。今まで通り、ボスや秀一の指示を受けて動いていたに違いないのです。
元々は思考回路が凝り固まってるんだろうなぁ、私。それこそ何度か言われた先入観ってやつ?FBIはFBIとしてしか動けない、的な。その観念を少し取り払ってみると、いっくらでも方法はそこら中に散らばっていた。
「んーじゃ、次元は先にFBIのスナイパーの制圧をよろしく頼むぜ」
「わかった」
「俺と五右衛門と工藤ちゃんは予定通り、取引現場に突っ込む」
「…初めて作戦聞いた時も思ったけど、ずいぶん雑じゃない?」
「そうでもねぇさ。FBIに公安に銭形のとっつぁんっつー役者が揃ってんなら、細かい作戦はいらねぇってこと」
俺達が動かずとも、勝手にドンパチ始まるぜ?
にしし、とルパンが笑う。でもそれは、正論なのかもしれない。公安とインターポールは協力関係かもしれないけど、FBIはそうじゃない。そもそもそれぞれの組織がお互いを認識しているのかもわからないものね。下手すれば、現場で顔を合わせて「あーっ!」っていう展開になる可能性もあるわけだし。というか、その可能性が一番高いけど。
「さぁて…どうなるのかなぁ?」
ふふ、と零れた笑みは風に攫われ、闇に溶けた。