どこにいたって


『シュウ、どう?』
「ああ、視界は良好だ」


スコープを覗き込めば、取引現場とされている場所がよく見える。まだ誰も来ていないようだが、直に現れるだろう。ジョディ達もそれぞれの配置についたようだな。


 side:赤井


まだルパン一味の姿は見当たらんな…だが、奴らのことだ。どこかに身を潜めている可能性の方が高い。それに変装していない、とは言い切れん。すでにFBI、もしくは麻薬組織の人間に化けて潜り込んでいることだって有り得ないわけではない。
あちらには変装のエキスパートともいえる円香がいるし、ルパン自身も変装に長けていると聞く。だとすれば、次元大介・石川五右衛門すらも変装させていると考えた方が妥当だろう。ただの推測にすぎんが、あらゆる可能性を思い浮かべていた方がいい。

(アイツはどう動くつもりかな?)

あの女は頭の回転が速い。そしてこちら―――FBIのことを熟知しているときた。恐らくは今回の配置も、作戦も、ある程度は想像がついているだろう。それを踏まえてあちらも動くつもりだろうが、大胆な行動に出るか慎重になるか…くく、見物だな。
いつ狙撃することになってもいいようにスコープを覗いたままでいると、視界の端で何かが動いた。なんだ?組織の奴らか?だが、動きが妙だ…辺りを警戒しているのかもしれんが、素人とは思えんぞ。いくら組織の人間とはいえ、あんな場慣れした動きができるものか?あれはむしろ…俺達と同業に近い動きだ。


「ジョディ、俺達以外に誰かいるぞ」
『え?ルパン達じゃなくて?』
「違うな…それとは別の―――」


背後に殺気。瞬時にホルスターの銃を抜いて殺気の塊に向けた。
そいつの正体は、ルパン一味の早撃ちガンマン・次元大介。


『ちょっとシュウ?!どうしたのよ!』
「悪い、少しばかり立て込みそうだ…通信を切る」
『は?!待って、シュ―――』


―――ブツン。

狙撃の援護がなくとも、アイツらならどうにかするだろう。…いや、むしろしてもらわなければ困る。イヤホンを引っこ抜いて無造作にポケットに突っ込んだ。
さて、まさかあちらさんから来てくれるとは思わなかったな。我々FBIなど相手にせず、さっさと目的の物を盗むつもりでいると踏んでいたんだが、予想は外れたらしい。


「へぇ、さすがだな。あの体勢から銃を抜きながら起き上がれんのかい」
「そのくらいの訓練はしているさ」
「そりゃあ恐ろしいこって…」


そう口にしてはいるが、目はそうは言っていない。むしろ、この状況を楽しんでいるかのようにも見える。…だが、それはこちらも同じか。
ガンマンとスナイパー、多少なりとも違いはあるが―――こちらも銃の腕には、少しばかり覚えがあるんでね。そう簡単に負けてやるつもりはないさ。


「どうやら相棒が世話になっているらしいな」
「ああ、あの嬢ちゃんか?なかなかに面白れぇ奴だぜ」
「悪いが、…貴様らに円香はやらんよ」
「こちとら泥棒だ。…意地でも盗んでやる」


ニヤリと歪んだ口元。一瞬だけ見えたギラつく瞳。…成程?どうやらこの男は冗談を言っているわけではないようだ。それがルパン三世の意思か、はたまた次元大介の意思か―――そこまでは判断がつかんが、想像以上にあの一味に気に入られているらしいな。俺の相棒は。
全く…どこまでも自由奔放で、どこまでも俺に嫉妬させる女だよ。まぁ、それは割と昔からだ。今更、そこを直せと言う気は更々ないが面白くはない。


「さて、どうする?FBIのスナイパーさんよ。ここで俺とドンパチやって、あちらさんにFBIの存在を知らせるか…」
「大人しく君に制圧されるか、か?フ、愚問だな」
「ケッそう言うと思ったぜ。一筋縄じゃいかねーなぁ」
「だが、俺と銃撃戦をしたとして、不利になるのは君達もだろう?」


何も存在を知られるのは俺達、FBIだけではないはずだ。取引現場から離れてはいるが、それでもこの港は使われなくなってから長いらしい。この静かな夜に銃撃戦を開始すれば、マズいと察知されるのは当たり前のこととなる。辺りを警戒しているとなれば、尚更な。
それに互いにたった1人で取引に来ているわけではあるまい…それなりの人数を警護として連れて来ているはずだ。…だとすれば、俺達がいるこのビルの近くにもどちらかの組織の人間がうろついている可能性は高いといえる。取引をする本人達が気がつかなくとも、誰かが気がつけば―――どちらにも不利な状況が作り上げられてしまうだろう。それはルパン三世側も避けたいのではないかな?


「同じことを問おうか、次元大介。あちらに君達、泥棒の存在を知らせるか…俺に制圧されるか、選ぶといい」
「なら、俺も同じ答えを返してやるよ。―――愚問だぜ、赤井秀一」


そうか、交渉決裂だな。できれば、穏便に事を済ませたかったが…上手くはいかないものだな。だが、この男が大人しく降ると思ってはいない。予想の範囲内、といった所か。
さあ、これからどう動くか。此処に次元大介がいるということは、やはりルパン三世と石川五右衛門と円香もどこかに潜んでいるようだな。
まさか俺の所に囮として、この男を送り込んできたわけではあるまい。FBIを攪乱させる為の囮とするならば、次元大介のままではなく『誰か』に変装させた方が効果的だからな。見た限り、次元大介の変装というわけではなさそうだ。つまり、この男自身の意思で俺を潰す為―――…この場所に来た、と考えるのが妥当といった所だろう。


「ま、ここでずっと睨み合ってるわけにもいかねーんでな…アンタには大人しくしててもらうぜ!」
「…黙って大人しくしていると思うか?」


互いに引き金を引き、銃弾がどこかに当たった音がするのと同時に―――背後で爆発が起きた。


「なっ…爆発?!」
「先に言っておくが、仕掛けたのはFBIではないぞ」


この反応を見ると、ルパン一味の仕業でもなさそうだ。
ポケットに突っ込んでいたイヤホンを装着し、切っていた通信を繋げば、即座にジェイムズからの通信が入る。


『赤井くん!すまないが、作戦変更だ。すぐに他の捜査官達と合流してくれ!』
「了解」


どこまで被害が広がっているか、そして一体何者がこの爆弾を仕掛けたのか…調べなければいけないことは山ほどある。だが、何よりも優先しなければいけないのは麻薬組織の構成員の確保と、取引される予定のブツを押さえることだな。
すでにジョディ達が動いているとは思うが、…先程の爆発で多少なりとも混乱が起きているはずだ。騒ぎに乗じて逃げられる、という最悪の結果もないとは言い切れん。組み立てたライフルとライフルバッグを背負い、階段を駆け下りる。後ろからは次元大介の足音…まぁ、当然か。目指す場所は同じだ。


「おいFBI!これはどうなってんだよ!」
「それは俺も聞きたいね。…だが、明らかに邪魔をしている組織がいるようだ。それは君達も知っているんじゃないのか?」


ジェイムズに頼んでいた調査は、例のブツを狙っている組織が他にいる―――という結果だった。あのパーティー会場の爆発も、今回の爆発も十中八九そいつらの仕業と見て間違いはない。今回の取引は秘密裏に行われていると、本部も俺達も認識していたが…それは違ったようだな。
どこからか情報が漏れ、裏組織の間では争奪戦紛いのことが起きているらしい。全くはた迷惑な話だよ。…まぁ、取引のことが俺達FBIに突き止められている以上、秘密裏でも何でもないとは思うが。


「…円香、」


さっきの爆発に巻き込まれるようなヘマはしないと思っているが、どうか無事でいてほしい。そう願うのは相棒として、恋人として当然のことだろう?
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