赤い月の使者
そのうち来るだろう、とは思っていたけれど…まさか勢揃いするとは思っていなかったんだけど。案の定、秀一の姿を見つけて降谷は噛みついてるし。はぁ、何をしに来たんだ。
「おーおー、FBIと公安が揃うとはなぁ」
「笑い事じゃないでしょうよ。…どうすんの?敵だらけだけど」
「んー?んなの突破するに決まってんでしょ。ここまできて引くわけねーだろぉ?」
いや、まぁそうだけど。私達の目の前には目的の物もあるわけですしね。とはいえ、秀一と降谷まで相手しなくちゃいけないのはちょっと骨が折れそうだわ。敵に回したのは私の意志、いわば自業自得なわけだから文句は一切言わないでおくつもりだけど…敢えて言うのであれば、あの2人が利益の為に組んだらそれはもう大変なことになる。それぞれのスペックがかなり高い人達だから、かなりの強敵になるのは予想がつきます。厄介だ。
(…まぁ、それはないに等しいと思うけどさ)
犬猿の仲もいい所だからねー。秀一は多分、場合によってはすんなり協定を受け入れそうだけど、降谷はきっと受け入れない。いや、受け入れられないっていうのが正しいかもしれないね。それが一番の策でもなかなかに難しいことだと私は思っている。
それにここは『彼が守る日本』だからねぇ。できることなら公安だけの力でどうにかしたい、と思うのが本音でしょう。
「っ…お前ら何を怯んでいる!さっさと撃ち殺せ!!」
突然現れた3人に呆けていたのか、男はハッとしたように叫んだ。その声に呼応するかのように周りの男達も銃を構えたけれど―――次の瞬間には彼らの手から銃が弾き飛ばされていた。
「あの構え…君のとそっくりだな?次元大介」
「なんだ?嫉妬か、FBIのスナイパーさんよ」
あー…何か不穏な会話をしてるな、あの2人。放っておいたらそのうちドンパチし始めそうな雰囲気。隣に立っているルパンは楽しそうな顔をしちゃってるし。
「工藤、…貴方、いつの間に早撃ちなんてできるようになったんですか?」
こんな状況の中、気になることは今すぐ解決したいのか…降谷が質問してきた。その瞳は暗黒街で名を馳せた男の弟子にでもなったのか、と言いたげですね。FBIを目の敵にしているものの、元は同じ組織にいるようなものだからね。それを裏切るようなことを何故しているのか、と聞きたいのかもしれないなぁ。ルパン側の人間として行動しているわけですし?
「俺様もビックリだわ。ほんといつの間に次元の弟子になってたわけ?」
「…ホー、それは聞き捨てならんな」
「えっちょ、そんな怖い顔しないでくださいよ秀一!!」
というか、次元の弟子になった覚えないし!!確かにさっき私がとった構えは、次元がするものと全く一緒。だからといって、彼の弟子になった―――というのは、些か安易な考えじゃありませんかね。皆様。
弁解したいのは山々なんだけど、今はそんな場合じゃない。まだ何ひとつ解決してないんだから、そっちを優先すべきなんじゃないんですかね?全員が全員、目的を忘れてどーすんのって話だ。
話を断ち切るように銃を構え直せば、再び呆けていたらしい男がハッと我に返る。…ねぇ、仮にも裏組織の一員のクセに大丈夫なの?こんなので。もう少し危機感とか、そういうものを持ちなさいよ。そんなんじゃその宝石を持ち帰った所で、上にのし上がるなんてことできっこないんじゃない?
クスリ、と笑みを零せば、それが気に障ったのか懐から取り出した銃を乱射した。
「殺してやるっ…お前らは1人残らず殺し―――」
不意に男の声が途切れた。ぐらり、と体が傾いでゆっくりと倒れていく様は、まるでスローモーションのよう。撃ったのは私達ではない、次元だって裏世界に生きている男だけれど、あの人は滅多なことがない限り殺しをしなかった。それはここ数週間傍で見ていたからよくわかっている。
…つまり、私達以外の誰かだということ。
「ったく、さっさとルパン達を殺してしまえばいいものを…」
カツン、と靴音を立てて姿を現したのは、いつぞやルパンと次元を追いかけていた男。名前は確か…ブルーノとか言っていただろうか。更に言えば、私がルパン達と組むきっかけとなった男でもあったりする。
こいつが私のことを彼らの仲間だと勘違いさえしなければ、今、こんな状態にはなっていないのだけれど、…まぁ、色々と得るものはあったから結果オーライってやつなのかな。感謝なんかしないけどね、迷惑極まりないことこの上ないし。
「ブルーノ…なんだ、お前さんが黒幕か?」
「黒幕?ふふっそんな大層なもんではないさ、ただ利用させて頂いたまでだ」
よくよく話を聞いてみれば、このブルーノという男はルパンに大層な恨みを抱いているらしい。
数年前、彼が護衛として雇われていた屋敷にルパンが盗みに入り、まんまと宝石を盗み出されてしまった。その時、宝石がしまわれていた金庫の番をしていたのがブルーノらしく…宝石を盗まれただけでなく、泥棒相手に昏倒させられる護衛なんぞいらん!と追い出されてしまったんですって。
つまり、ルパンが盗みに入ってこなければ今でもその屋敷で働いていることができた、裏の世界で生きていかなくちゃいけなくなったのは全てルパンのせい―――そう言いたいみたいね。
ルパンを恨みたくなるのもわかるけれど、裏の世界で生きていくことを決めたのはアンタ自身じゃないのかしら?それまで彼のせいにするのは、お門違いってやつだと思うけど。
いくら職を失ったからといって、何もかもを失くしたわけじゃないでしょうに。他にも働き口はあったはずだ、それを少しも考えずに裏の世界へ足を踏み入れたのはブルーノ。アンタ自身でしょう。全く…溜息が出そうだわ。
「貴様がこの宝石を狙っている、という噂を耳にした俺は、その騒ぎに乗じて殺すことにしたのさ」
「…アンタが今身を置いている組織全体が、と思ってたけど、そうではないのかしら?」
「ああ、そうさ。全ては恨みを晴らす為―――だが、まさかFBIの犬が泥棒と手を組んでるとはな」
「利害が一致したの。それに、その手に持っている宝石をアンタにやるわけにもいかないわ」
つまり、さっきブルーノに撃たれた男は彼に利用されたということか。ただの下っ端にあの宝石がどんな代物か、それを話しているとも思えない…恐らくはブルーノが言葉巧みに誘導し、ルパンを殺すように仕向けたってことになるわね。少しでも野心を抱いている相手なら、意外と簡単に手玉にとれるだろうしね。現にとられちゃってるし。
全ては彼が復讐を遂げる為に仕掛けたこと、か。例の麻薬組織と赤城という男は、まんまと利用されたわけね…いや、利用というか復讐する為の場所に選ばれた、という方が正しいのかも。
「こんなモノに興味は一切ないが、…ルパン三世、貴様を釣る為には必要だったんだよ」
「…ったく、そんなに復讐が大事かねぇ?」
「なにっ…?」
「かかってくるんなら止めはしねぇし、相手にもなってやるさ。…だが、俺を殺してお前さんはどーすんだ?」
復讐なんてしたとこで、ただ虚しさが募るだけだぜ?
普段の笑みを隠した彼の顔には、今までに見たことのない哀愁が漂っているかのように感じた。月明かりに照らされたそれは、息を飲むほど。
―――ガゥンッ!
静寂を打ち破るかのように銃声がひとつ。硝煙を上げた銃を握っているのは、次元だ。さっきまでコンテナの上にいたはずなのに、彼はすぐそこまで近づいていて。次元の撃った銃弾はブルーノが持っていた宝石に当たり、ソレは大きく跳ねて空中に投げ出された。
すぐさま反応したのはルパン、見事にキャッチした彼は―――さっきまでの真面目な表情はどこへやら、見慣れた笑みを浮かべている。やっぱり泥棒は泥棒、ということか。けれど、あの表情は…相手を油断させる為の演技なんかじゃないと、そう思ったの。
「にししっ悪いけどさ、ブルーノ。これは誰にも渡せねぇんだよな〜」
「おいルパン、目的果たしたんならとっとと―――」
あとはブルーノを拘束して、それで終わりだと思っていた。だけどその考えは、ブルーノが手にしていたモノを見た瞬間に霧散することになる。
彼が持っていたのはショットガン。
「全員殺してやる……!」
狂気に囚われた瞳が、ニヤリと歪んだ。