捜査官同士のアイコンタクト
―――ガガガガガッ!
冗談抜きで銃弾の雨ってやつです…!何とか今の所、大きな怪我は負ってないけど、時間の問題かもしれない。ショットガンにベレッタで太刀打ちできるとは思えないし、どう活路を見出そうかなこれ。
は、と短く息を吐き出せば、同じ場所に身を潜めていた降谷に大丈夫ですか、と声をかけられた。そう言っている君も息が切れてるけどね。
「そういう君こそ、…怪我は?」
「してないに決まってるだろ。男前な発言やめてくれないか」
「今のどこが男前…」
「そもそもそんな柔な体してませんよ」
いや、そういう問題じゃないよ。柔な体してなくても、ショットガンで撃たれたら蜂の巣まっしぐらだよ。
「しかし参りましたね…ショットガンじゃ太刀打ちが難しい」
「ええ、本当に。アイツの手から弾き飛ばすことができればいいんだけど」
そう思っても、私と降谷の持っている銃ではそれも無理な話だ。次元のマグナム、ルパンのワルサーでも難しいかな…でも次元の腕ならできそうな気がしないでもないけど。とはいえ、この銃弾の雨が降る中じゃ狙い撃ちしてくれって言っているようなものね。迂闊に顔を出した瞬間にTHE・ENDとなる可能性はゼロじゃない。下手すると100%だ。
(唯一、それができる可能性を秘めているのは秀一か…)
ブルーノのショットガンが火を噴いた瞬間に、それぞれバラバラに身を隠してしまったから誰がどこにいるのか皆目見当もつかない。私達は偶然鉢合わせしただけだし。どうにか確認したいけど、連絡手段もないしなぁ…通信機で繋がっているのはルパンと次元、そして五右衛門の3人だけ。秀一に繋がるわけがない。
携帯はあるけど、この非常事態で出るわけがないのです。私だったら後にしろ!って叫びたくなるもの。つーか叫ぶ、なので携帯で連絡は却下。となると、連絡手段が1つもなくなるという始末。あっははー、…ヤバイ、マジで詰んだ。
「ここから飛び出して、ブルーノに飛びついてみる?」
「バカですかアホですか。見事に的にされるに決まってるだろう」
「わかんないじゃない、もしかしたら怯んで一瞬だけ撃つのやめてくれるかもしれないでしょう?」
そんなわけがあるか。バカ。
もう一度、おまけにバカと言われました。降谷に。そう何度も言わんでもいいでしょうが!知ってたけど容赦ないな、コイツ!!
本格的に詰んだ。どうしよう。内心、頭を抱えていると、何かが鈍く光ったような気がした。今のは何だろう…よーく目を凝らしてみると、それは秀一が抱えているライフル。成程、月の光が反射したんだ…アレは彼がいつも念入りにメンテナンスをしているから。
でもそのおかげで秀一の居場所がわかったわ。あとはこっちに気がついてくれればバッチリなんだけど、どうにも難しい。音を立てた所でいまだにショットガンの弾が飛び交うこの中で、彼の耳に届くとは思えない。かき消されてしまうのがオチだろうな。
どうする、どうすればあの人に気がついてもらえる?いっそのこと、秀一が潜んでいるコンテナを狙って銃を撃ってみるか?そうすればさすがに気がついてどの方角から撃ってきたのか、それを探るはずだからこっちに目を向けてくれると思うんだけど。…方法はそれしかなさそうよね、というか考えるのも面倒。あとでこっぴどく怒られるのを覚悟して、銃を構えた時だった。
真っ直ぐ前を見据えていた秀一の瞳が、ツイ、とこっちを向いたのだ。
一瞬だけ私を映した翡翠の瞳、彼の口元がゆっくりと弧を描く。そしてまた視線は、前に。ただそれだけだ、と思うかもしれない。けれど、私は彼の言いたいことが何となく理解出来た気がした。
ブルーノに見つからないよう細心の注意を払って、見つからないラインギリギリの所まで移動する。何故か降谷まで着いてきたけど。いや、君はさっきの場所にいてくれて構わなかったんだけど。
溜息を吐いてジト目で見つめれば、しれっとした顔で「貴方が無茶しないようにです」なんて言われてしまった。ああそうですか、すみませんね突拍子もないことをする人間で…!ボソッと呟いた言葉は、彼への反論。でも些か拗ねた子供のような口調になってしまって、眉間にシワが寄る。もう少し他の言い方ってものがあったでしょうよ、私!!
くつくつと笑っている降谷はもう無視しよう、今はこの場を切り抜けることだけ考えればいい。笑ったことを怒るのは後でもできる。そう自分の中で結論付けて、私はそっと耳を澄ました。
「工藤?貴方、一体何を…」
「しっ!…死にたくなかったら黙ってて」
弾切れなのか、そうでないのか音だけでは判断ができない。けれど、あれだけ鳴り止まなかった発砲音が一瞬だけ止まった。―――きっと、秀一ならこの一瞬の隙を狙うはず。
私のその予想は当たっていて、ライフルの発砲音がしたと同時に何かを弾き飛ばすような、甲高い音が耳に届く。私はそれを合図に身を隠していたコンテナとコンテナの間から、文字通り飛び出した。
後ろからは降谷の怒号が、別の場所からは驚いたような次元の声が聞こえてきたけれど、それに反応している余裕はない。ブルーノが弾き飛ばされたショットガンを、再び手にする前に彼を制圧しなければ…!
飛び出してきた私に気がついたのか、ブルーノは慌ててショットガンへと手を伸ばした。それが触れるより一瞬早く、私の足がそれを蹴り飛ばす。でもそれで終わりじゃない。間を空けることなく回し蹴りを繰り出せば、脇腹にクリーンヒットしたらしくその場に蹲った。
ふむ、さすがに私の力じゃふっ飛ばすことは無理か…男性の力だったら、ふっ飛ばすこともできたのかもしれないけど。まぁ、圧倒的な力の差を嘆いても仕方ないか。今は。
「ゲホッ…貴様ァ……!」
「悪いけど―――FBIとしてアンタを逃がすわけにいかないの」
「ぐっ…!!」
やっぱり脇腹に1発食らわせただけじゃ、動けなくなるわけないか。まだ抵抗しようとするブルーノの腕を締め上げ、そのまま地面へ押し倒した。全体重をかけて背中に乗っかれば、そう簡単には動けやしないのです。
このくらいは新人研修の時に習ってるし、それなりに武術も嗜んだ方だから。…女だから簡単に勝てる、なんて思われたくないからね。
「すっげぇなぁ、工藤ちゃん!」
「そりゃドーモ」
何か縛るものないかな、ずっとこのままにしておくのもアレだし…何より私が辛い。でも手錠とかロープなんて持ってないしなぁ。何か代わりになるもの、とキョロキョロしていると、ブルーノが着ているのはスーツだということを思い出した。スーツということは、もちろんネクタイも―――あ、やっぱり!ネクタイしてるじゃない。これで手首をギュギュッと縛ってしまえば大丈夫かな。
締め上げていた腕を左手と足で抑え込み直して、空いた右手でネクタイをしゅるりと解く。…何か周りの視線が痛いけど、ツッコむのはやめておこう。でもあんまりにも熱い、というか痛い視線を送ってこられるもんだから気になって仕方がない!ネクタイが解けないのを確認してから、顔を上げれば全員がこっちを見ていた。…訝し気な目で。秀一以外、だけど。
「…なによ、その視線は」
「いえ、…ネクタイを解いて何をするつもりだったのかな、と」
「最後まで見てたでしょうよ」
「まぁそうなんだけどよー…一瞬、違うこと想像しちゃうのは仕方なくね?」
「おいルパン。君は一体何を想像したの?!」
こら、視線を逸らすんじゃないよ!ぜぇーったい良からぬこと考えたでしょう!!
「というか、何であのタイミングで飛び出したんです?赤井が撃つなんて、わかっていなかったでしょう」
「え?いや、目で合図されたような感じがしたから…」
「………」
「あ、あれ?私、何か変なこと言った…?」
降谷を筆頭に、ルパンと次元まで驚いた顔して固まってるんだけど。平然としているのは秀一だけだ。そりゃ本人だからね、驚くこともないと思うけど。
というか、何で3人共、そんなに驚いてるんだろう。聞かれたから素直に答えただけなんだけどなぁ。
「次元ちゃーん、この子達なんなの?」
「知るかよ、俺に聞くな!」
「はぁ…なんなんですか、貴方達は!」
「え、何で怒られてるんですか?秀一」
「くくっ…さぁな。自分で考えろ」
楽しそうに喉をくつくつ震わせる秀一を見て、私は首を傾げるしかない。考えろ、って言われたって、何も心当たりがないから聞いてるのに。
でも彼はヒントを出すつもりもないらしい、もうすでに意識は食ってかかってきている降谷へ向かってしまっているようだし。…なんなんだ、本当に。