不穏なの中の希望
とある日の夕方、ボウヤから連絡が入った。
「ハロウィンパーティーの招待状?」
『ああ、横浜で行われる季節外れのな…おっちゃんの所にも招待状がいったらしい』
それだけなら何ら疑うことはない。でもボウヤの口から紡がれた差出人の名前に、私は喉を引きつらせた。
Vermouth―――
英語読みではヴァ―ムースだけど、日本では呼び方が違う…そう、ベルモットってね。
私に招待状のこと、差出人のことを話してきたってことは、ベルモットが黒の組織の仲間であることとコードネームだってことをとっくに知ってしまったってことよね。哀ちゃんに聞けば一発でわかるでしょうし。
『向こうからお招き頂いた、ってわけだ』
「そのようね。…でもどうするの?そのパーティー、出席するの?」
『…いや、それはもう手を打ってあるよ』
どんな手よ、と問いかけようとしたら、ボウヤはまたもや私を驚かせることを口にした。ベルモットから来た招待状には、確かに工藤新一と名前が書かれていたけれど、同封されていた手紙の出だしは『親愛なる江戸川コナン様』となっていたそうよ。まさかベルモットにボウヤの正体がバレていたなんて…だとしたら、哀ちゃんのこともバレてしまっていると考えて間違いはなさそうだ。
…けれど、どうしてバレてしまったのかしら?ベルモットは新くんのことなんて知らないはずだ、もちろんあの子の顔だって。
私の疑問に気がついたのか、彼は自分の推理を静かに語り始めた。
ベルモットが哀ちゃんを殺す為にボウヤを遠ざけようとしている理由として考えられるのは、彼女の正体が女優のクリス・ビンヤードで、しかもシャロンと同一人物だった場合。恐らく変装で二役をやっていたんだろう、って。
そうか…義姉さんと親友だったはずの彼女なら、小さい頃の新くんをアルバムで見ている可能性があるのね。だったら、ボウヤの正体を見抜くことなんてワケないということか。親友である義姉さんの子供…だから事件に巻き込みたくない、って理由だと思うとボウヤは言っているけれど、本当にそうなのかしら?ベルモットがボウヤ―――いいえ、新くんを遠ざけようとしている理由は…本当にそれだけなの?
(理屈はわかるし、筋も通っている。…だけど、)
そんな単純な理由、なのだろうか?いや、だったら他にあるのか?って聞かれても、多分、私は何も返せないのが現実なんだけど。黙り込んでしまった私を心配してくれたのか、ボウヤは大丈夫か?と言った。その声でようやく我に返る。…今はそれを考えている場合じゃない、か。
「何をするつもりか知らないけれど、無茶をするんじゃないわよ。…ボウヤ」
『ああ、わかってる。また連絡するよ、じゃあね!円香さん』
「ええ、またね」
わかってる、なんて言っていたけれど…あの子、絶対に何かを企んでいるような気がするのよね。あの子のことも気になるけれど、ベルモットの動向も気になる所ね。彼女が変装していたDr.新出の部屋に簡単に忍び込めるなんて、何かがおかしいわ…まさか気がつかないフリをしているとか、そんなことないわよね?
…何だか嫌な予感が胸をよぎる、ベルモットが一枚噛んでいるハロウィンパーティーの日に哀ちゃんを殺そうとしているのは、さっきのボウヤの話で確信が持てた。それに関しての作戦はジョディが練ってくれた。彼女をおびき出す為に。
「円香、何を難しい顔をしている」
「秀一…いえ、何でもありません。どうかしたんですか?」
「ジョディがお前を捜していたんでな。出て行ったっきり戻ってこない、と」
「すみません、電話が入ったもので…何か作戦に変更でも?」
「いや、変わりない。手筈通りに頼む」
わかってます、と返事をすれば、秀一はフッと笑みを浮かべて踵を返した。
嫌な予感は消えてくれない…だからといって、注意力散漫になるわけにもいかないわね。少しでも他に気を取られてしまったら全てが水の泡、意味のないことになってしまう。気になることはあとで考えればいいか、あの女をとっ捕まえたあとでも十分間に合うはずだし。
そう頭を切り替えて、ジョディから提示された作戦を忘れぬよう反芻することにした。