ゆるりと歪む口元


ルパン達が去った後、私達は他の捜査官達と合流し、ジョディからこってりとお説教されました。
さすがに迷惑とか心配とかかけていた自覚があるので、反論することなくただ黙って彼女の言葉を聞いていた。というか、反論できないしね。悪いのは私だもの。


「ふう…」
「お説教は終了か?」
「秀一、…まだ残っていらしたんですか」
「帰る所は一緒だ、お前を待っていても構わんだろう?」


飲み終えた缶を投げる姿すらカッコイイとか、どういうことなんだろう。ガコンッと見事にゴミ箱に入ったのを見届けて、秀一は薄暗い廊下を歩き始めた。
一瞬だけついていっていいのか迷ったけれど、一緒に帰るつもりだったみたいだし…ついていかない、という選択肢はきっと用意されていない。少し先を歩く背中を追いかけ、早足で隣へと並ぶ。


「…ジェイムズから麻薬の欠片を証拠品として押収した、と聞いたが」
「ああ、はい、そうですね。押収しましたよ」
「てっきりあれはルパン三世が持ち去ったものだと思っていたんだがな」


まぁ、普通はそう思いますよね。彼らはそれを盗む為にわざわざ日本へとやって来たんですから。それなのに私達FBIの手に渡ったと聞いたら、疑問が浮かぶのも当然のことだ。
そしてそれを私に話しているということは、何かしら情報を持っているんだろう?という、暗に問いをかけているということになるのです。証拠品として提出したの、私だしね。ボスが秀一にそこまで話しているかは、彼の言葉からは読み取れなかったけれど。
チラ、と向けられた翡翠の瞳。そこにはやっぱり、全て説明しろと言わんばかりの色が宿っていて、思わず苦笑が漏れた。うん、事が片付いたら根掘り葉掘り聞かれるだろうとは予想してたけど…案の定か。
今しがた、ジョディ達にも話してきたばかりなんだけどなぁ。とはいえ、面倒だからという理由で話さないわけにもいかないんですけれども。


「話せることなら全部話すつもりです。何が知りたいですか?」
「全て、だな。何故、ルパン三世達と共にいた?」
「事の始まりは、あの男…ブルーノが私のことを彼らの仲間だと勘違いしたことです」
「勘違い?」
「ええ。ルパンと次元と鉢合わせしてしまった現場を見て、そう思ったようですよ」


そしてルパン自身から手を組まないかと言われたこと、そのままFBIに戻れば他の捜査官達に危険が及ぶかもしれないと思ったこと、順を追って包み隠さずに話していく。
きっかけを与えたのはブルーノであり、ルパンであるけれど、最終的にその案を飲んだのは私自身だ…ということも、ちゃんと付け加えて。ルパンのせいにしちゃっても良かったんだけど、それはちょっと違うと思ってしまったし、私自身の意思が一切なかったわけでもありませんから。
ルパン側についた経緯を聞いた秀一は、溜息を1つ吐き出した。あ、これは完全に呆れられてるパターンだ…!


「…それで?あの麻薬の欠片がお前の手に渡った理由は」
「ああ、あれはジャケットのポケットに入ってたんです。手紙と一緒に」
「手紙?まさかルパン三世からか?」
「ええ、読みます?」


頷かれたので胸ポケットにしまっておいた手紙を出し、はい、と秀一に手渡した。手紙といっても切れ端に書かれているだけだから、メモ書きみたいなものだけれど。で、何が書かれていたのかといいますと…

『親愛なる工藤ちゃんへ
このお宝は特別にお前さんに譲ってやるよ。捨てるなりなんなり、好きにすっといいさ。 ルパン三世』

と、書いてあったわけ。だからその言葉の通り、証拠品としてボスに渡したってわけ。というか、そうさせるつもりで私に渡してきたんだと思うんだけどね。
あの人は本当に、ただ盗み出せればそれで良かったんだもの。アレ自体に興味を持っていたわけでも何でもない、その理由がわかったのはつい最近だけど。


「亡くなった恋人の、遺品なんだそうです」
「ルパン三世のか?」
「いいえ、彼に依頼してきた女性の」
「依頼…?なら、ルパン三世は麻薬の欠片に興味など持っていなかったのか」
「そういうことですね。私も最初からそのことを知っていたわけではありませんが」


とある男性が偶然にも作り出してしまった、綺麗な石。彼はそれを宝石だと信じて疑わなかったけれど、実際はそうではなく…麻薬になる欠片だった。瞬く間に噂は裏社会にまで及び、男性は数々の組織から追いかけられる羽目になってしまったそう。
必死に逃げて、逃げて、逃げて…作り出してしまった『悪魔の石』を隠したそうだけれど、その直後にFBIが追っていた麻薬組織の構成員達に殺されてしまったらしい。殺した男性の体を隅々まで探したけれど、石はどこにもない。
諦めきれずに行方を追ってみると、男性はとある日本人に石を託していたことがわかったの。それが―――今回、取引を持ち掛けられた赤城だった。


「きっと法外な金額で買い取る、と言われたのだろうな。赤城という男が石の正体を知っていたとは思えん」
「恐らくは。…その後のことはご存知の通りです」
「話はわかったが、…全く無茶をする」
「あはは…すみませんでした」


ルパンが受けた依頼は『彼が命を落とす原因となったモノを、この世から消してほしい』というもの。だから彼は不二子さんから欲しい、と言われても承諾しようとしなかったし、彼にとっては全く価値のないものだったにもかかわらず盗もうとしていたの。全ては、その女性の涙を止める為に。
その依頼がお金になるものなのかはわからない。でもきっと…ルパンならそれでも引き受けないという選択肢は、なかったんだと思う。本当によくわからない人だよ。

月を見上げそっと笑みを浮かべていると、腕を引かれ、ギュッと抱きしめられた。まるで子供が母親に縋るかのような抱擁に、驚きを隠せない。
一体、どうしたというのだろうか。首筋に回されている腕に触れて名前を呼んでも、返答は一切なくて…少しだけ不安になる。


「秀一…?」
「相棒としては、お前がどんな行動をとるのか楽しむことができた。だが、」
「……」
「恋人としては我慢ならんな、俺以外の男といたことが。俺以外の男が触れたことが」


さっき、次元の唇が触れた箇所へそっと秀一の手が触れる。そこを親指で軽く擦る仕草は、まるであのこと自体をナシにしようとしているようで。たったそれだけでなかったことになんてならないけれど、なくしたいと思っている彼の気持ちが伝わってきて不謹慎にも可愛い、と思ってしまう。
そのまま流れるような動作で上を向かされ、もう少しで唇が重なる―――そんな時だった。


「イイとこなのに邪魔するのは申し訳ないけど、ちょ〜っといいかしら?お2人さん」
「ッ、え、不二子さん……?!」
「申し訳ないと思うなら、邪魔をしないでもらいたいが?」
「や〜ん!色男は怒った顔も素敵なのね!尚更、手に入れたくなっちゃうけど…子猫ちゃんに怒られちゃうわね」


カァッと顔に血が昇る。慌てて秀一から離れようとしたけれど、それは叶いませんでした。がっちり抱きしめられたままなもので。


「それで何の用だ、峰不二子」
「ふふっそんな怖い顔しないでちょうだい。…ちょーっと子猫ちゃんにプレゼントを持ってきただけなの」
「わ、私に?」
「そっ!つまみ食いしようとしたお詫び、ってとこかしら」


はい、と何かを握らせ、彼女は颯爽とバイクに跨って去っていった。投げキッスを忘れずに。
あの人も大概、嵐のような人よね…というか、何を渡していったんだろう?何だか今日はルパン一味から色んなものをもらう日だなぁ、なんて思いながら手元を見ると、そこにあったのは1枚のメモ紙。…え、なにこれ。不二子さんはプレゼントって言ってたけど、これのどこがプレゼントなんだ?
後ろから覗き込んでいた秀一も、私と同じような反応。うん、ですよね。そんな反応にもなりますよね。
とりあえず開いてみるといい、と言われたので開いてみると、そこには『1週間後の水曜、米花町のホテルアクアガーデンに19:00!フロントには私の名前を出してね(ハート)あっもちろんイケメンの彼と2人で来るのよ! 峰不二子』と書いてあった。プレゼントっていうか、ただの呼び出し?
もう一度、2人で首を傾げる羽目になったよ。


「ええっと…行けばいい、のかな?これ」
「まぁ、そういうことだろうな」
「何なんでしょう。行ったらルパン一味勢揃いとか、そんなオチですかね」
「だったら1人残らず捕まえればいいだけの話だ」
「それはそうですけど…」


果たしてそういう話なのだろうか、と思ってしまう。いまだ何か仕掛けがあるのでは、とメモ紙を凝視していると、グッと顎に手をかけられた。
さっきと同じように上を向かされ、今度はそのまま唇が重なる。触れるだけだったけれど、秀一は満足気な笑みを浮かべていらっしゃる。どうやら、さっきおあずけを食らったのがどうしても許せなかったようです。


「まだまだ足りないが、…ひとまずはこれで」
「そう、ですか…!」
「なんだ?期待したか?」
「しっしてません!ほら、早く帰りますよ!!」


ドッドッとうるさい心臓を誤魔化すかのように、赤くなっている顔を隠すかのように、私は早足で駐車場へと向かった。


「くくっ本当に可愛らしい反応をする奴だ。さて…覚悟していろ、円香」
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