全ては片付いた


『安室です。明後日の夕方、ポアロに来てください。…ああ、間違っても残業などするなよ?』

そんな連絡がきたのは、麻薬組織の後処理に追われている時だった。メールを見てまず最初に思ったのは、何故私の連絡先を知っている!だったけど。思わず携帯を投げそうになったけど、そこは大人の対応だ。ミシッと音がする程に握り込むだけで耐えましたよ。
つーか、後処理で忙しいんですよ私!そのくらい同じ組織なら安易に想像がつくもんなんじゃないのかそれともFBIの事情なんて知ったこっちゃねぇってことか?…あ、そのくらいのこと思ってそうで嫌だなぁ。
とはいえ、後処理も大分進んでもう少しという所まできているのも事実。このまま何かイレギュラーなことが起きなければ、明日辺りには全て片付くとは思うけれど。

(連絡先を知られていることも気になるけど、ポアロに来いってどういうこと…?)

話がある、と書かれているわけでもないし、本当にただポアロに来いと明記されているだけ。用件は会った時に言う、ということなのかしら。せめて何の用事なのか書いてくれていれば、行くかどうか悩むこともできるんだけどなぁ。この書き方じゃ見当もつかないし、何より…暗に逃げるなよ、と言われているような気さえする。そして安室くんとして用事があるのか、それとも降谷として用事があるのか、それも気になる所だよね。
さてどうしたものか、とペンをくるくる回していると、ヴヴッと音を立ててまたメールを受信した。今度は誰―――って、また安室くんか!!何か言い忘れた?それとも何か別の用事?溜息を吐きながらメールを開いてみれば『1つ言い忘れていました。ディナーをご一緒に。』と、書かれておりました。





「あっ工藤さんいらっしゃいませ!待ち合わせですか?」
「待ち合わせと言えば、待ち合わせなんですけど…」
「もしかしてコナンくん?彼ならそこにいますよ〜」


どうぞ、と案内されるけれど、私、待ち合わせ相手がボウヤだって言ってないしまず違うんですけど梓さん!!ほら、ボウヤも何でここにいるの?って疑問に思ってるじゃないですか!とりあえず私の話を聞く所から始めましょうか…!
けれど、そこそこお客さんがいるせいか梓さんはごゆっくり、と言ってカウンターへと戻っていってしまいましたとさ。今更別の席に座るわけにもいかず、向かいに座るボウヤにお邪魔するわねと声をかけて、そこへ腰を下ろした。


「こんばんは、円香姉ちゃん!」
「(ポアロだから子供モードなのか…)こんばんは、コナンくん」
「…もしかして昴さんと待ち合わせ?」
「違うわよ、待ち合わせしてるのは―――」


コトン、とグラスが置かれる音。そっと視線を上げた先には、にっこり営業スマイルを浮かべた安室くん。


「工藤、早かったんですね」
「残業するな、と言ったのは君でしょう?」
「……あれ?」
「コナンくん、この人よ。相手」


指を指された安室くんは何の話?と首を傾げている。待ち合わせの相手、と言えばすぐに理解したらしく、そういうことかと笑みを浮かべた。…かと思えば、眉を下げて申し訳なさそうな表情に変わる。何事?


「安室くん?」
「悪いんだけど、シフトが30分伸びたんだ。飲み物奢るんで待っててくれます?」
「それはいいけど…」
「ではそれで。はい、コナンくん。オーダーのハムサンド」
「ありがとう、安室の兄ちゃん」


どうやらボウヤの保護者代わりである毛利親子は、本日不在のようです。蘭ちゃんは空手の練習とかかなぁ…おじ様は、まぁ…うん。飲み屋さんか麻雀の気がしないでもない。前に蘭ちゃんがコナンくんを残して行っちゃうんですよ、って愚痴ってた覚えがあるし。
そんなことを考えながらメニューの飲み物のページを開いた。普段だったらコーヒー一択なんだけど、どうせ食後に飲むだろうし…たまには違うのでもいいかなぁ。何にしようかしら。


「工藤、決まった?」
「ん、ココアにする。生クリームって増やせる?」
「ええ、大丈夫ですよ。では作ってきますので、ちょっと待っててください」


そう言ってカウンターへと戻っていった。今は『安室透』だから仕方ないのだろうけど、彼は普段、私に敬語を使ってこないから何かちょっと変な感じ。店内をぐるりと見回して(これは職業病みたいなものよね)、視線を戻すとハムサンドをもごもご頬張りながら、じーっとこっちを見上げているボウヤと目が合った。何か聞きたいことでもあるのだろうか?
なに?と首を傾げると、口の中に入っているものをしっかり飲み込んでからあのね、といまだ子供モードで口を開いた。…新くんのままでもいいのに。あ、でも一応梓さんや他のお客さんもいるからそれはマズいのか。


「いつの間に仲良くなったの?」
「ああ、彼と?…別に仲良くなったわけじゃないわよ、数日前に呼び出しのメールをもらっただけ」
「ちゃっかり連絡先交換してんじゃん」
「しーてーなーい。調べられたみたいね、連絡先」
「職権乱用してんじゃねーか、安室さん…!」


ええ、本当にボウヤの言う通りよ。


「お待たせしました、ご注文のココアです!生クリームたっぷりですよー」
「ありがとうございます」


ああ、梓さんの笑顔は可愛いなぁ。いつ見ても和むよ。運ばれてきたココアを飲みながら一息つくと、仕事で疲れきっている体が少し楽になった感じ。…というか、ちょっと力が抜けた感じかなぁ。最近はずーっと気を張ってたから、その反動かも。
ルパン達と行動して、色々作戦を立てて、…期間としては短いんだけど、何とも濃い時間を過ごしたよなぁ。そんなに前の話じゃないのに、何だか懐かしいって気分になる。

(そういえば、不二子さんから指定された日付ってもうすぐか)

ルパン達のことを考えていると、芋づる式に不二子さんからもらった手紙のことを思い出した。今度の水曜日、19:00に米花町のホテルアクアガーデン…だったわよね?それも秀一と一緒に、なんて何を企んでいるのだろう。あの人は。というか、まだ日本にいるってことになるのかしら。
本当、ルパン同様に不二子さんも何を考えているのかわからない人だよね。内心、頷いているとボウヤがそういえばさ、と口を開いた。


「うん?」
「円香さん、ルパン達と手ェ組んでたってマジ?」
「……誰から聞いたの」
「昴さん」


やっぱり君か沖矢くん…!


「澄ました顔してたけど、あれ、絶対怒ってるでしょ」
「あー…うん、多分」
「多分?」


目を逸らして、更に言葉を濁せば、ボウヤはその変化に目ざとく気がついた。探偵の性なのか、こっちが隠したいことを暴こうと目を光らせる。ああもう、だから目を逸らしたんだけど…それも全く効果はないみたいね。
チラ、とカウンターに目をやると、待ち合わせ相手である安室くんはまだ忙しそうに動き回っている。まだまだ時間がかかりそうだ、と踏んだ私は仕方なく口を開くことにした。

怒っているのは間違いない、と思う。何となく全てが片付いた時、空気で感じ取れたし。それなのに何故、言葉を濁したかと言いますと…私、いまだ工藤邸に帰っていないんですよね。
あ、別にまだホテル暮らししてるわけじゃないよ?ルパン名義で借りていたホテルは、とっくにチェックアウトしてますから!なら、どこにいるのかと言いますと―――職場、だったりします。後処理の関係と、ルパン達と行動を共にしていた間に溜まった書類整理などに追われていたから。
それも今日で何とか片付いて、数週間ぶりに工藤邸に帰れる目途がついたの。まぁ、帰れるのは夜中近くになりそうだけど。


「だから多分、ってこと」
「……昴さんが不憫に思えてきたんだけど」
「仕方ないじゃない…」
「全否定はしねぇけど、まさかあっち側につくとは思わなかった」
「色々と事情があったのよ。それも聞いたんでしょう?」


溜息をついてそう問いかければ、ボウヤはこくりと頷いた。全てを聞いているのなら、私から話すことはなにもないはずだ。
これでこの話は終わり、と少し冷めたココアに口をつける。


「お待たせしました」
「あ…終わったの?」
「ええ、ひと段落ついたので今のうちに」
「じゃあ僕も帰ろうっと!」
「すぐ上だけど、毛利さん達いないんだろう?気を付けて帰るんだよ、コナンくん」
「うんっ!じゃあね、円香姉ちゃん、安室の兄ちゃん!」


パタパタとポアロを出て行くボウヤの後ろ姿を見送り、私達も夕食を食べに行くことにした。
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