動き始める運命
4000年前、眞王と双国の大賢者が世界を脅かしていた創主を4つの箱に封印したと言われている。
『地の果て』
『風の終わり』
『凍土の劫火』
『鏡の水底』
それぞれの箱を解放する鍵は、4人の体の一部へと封印された。鍵はその一族の魂へと代々継承されている。
禁忌の箱と呼ばれる4つの箱は、それぞれ別の場所へと隠されることとなった。二度と創主が目覚めぬように、世界がまた闇に染められることのないように。
だが、4000年という長い長い時が封印の力を弱まらせていった。
そして第27代魔王シブヤ=ユーリ陛下が即位した現在、この世はまた混沌へと堕ちていくカウントダウンを刻み始めた――――
side:コンラート
「なー、コンラッド」
「どうしました?ユーリ。疲れましたか?」
「いや、全然大丈夫なんだけど…ルナが、さ」
「?ルナがどうかしましたか」
「目の下の隈、日に日にひどくなってる気がするんだけど」
そう言われて、ルナを見てみると…確かに少し前より濃くなった隈があった。
彼女は無類の読書好きで、気に入った本があればどんなに分厚い本でもずーっと読んでいることが多々ある。
それはもう昔からで、いくら注意しても直らないくらいだ。
恐らく、今回のもそれが理由だとは思う。ここ最近、資料室に閉じこもっていると聞いているし。
別に本を読むことは悪いわけではないからいいんだが、体調管理はしっかりとしろと思ってしまうんだよな。
…まぁ、護衛や執務に支障が出るから、1〜2時間は眠ってるとは思うけど。
「…確かにひどいですね」
「だろぉ?!また何か無理してんじゃないよな?」
「諜報員としての任務は入っていないと聞いていますから、大丈夫だとは思います」
「ならいいんだけど……あんまり無理すんなーってあんたからも言っておいてくれよ」
「ええ、そうします」
ユーリにはそう答えたものの…実際、どれだけ言っても「大丈夫」の一点張りなんだよなぁ。
どれだけ周りが心配しても、その厚意を受け取ろうとしないのがルナなんだ。
その性格のせいで苦労していた記憶がある。俺もヨザックも。
かと言って、このままにしておくのもまずいから。
「ルナ」
「コンラート?どうした、追加の書類でもあったか?」
「いや、久しぶりにお前とお茶でもしようかと。入って大丈夫か?」
「ははっ珍しいな?コンがユーリの傍を離れて、私の所へ来るなんて…どうぞ」
執務が終わって、夕食も済ませた後。どうしてもルナの様子が気になって、お茶を口実に彼女の部屋を訪ねてみた。
もしかしたら、また資料室に閉じこもってるかとも思ったけど、自分の部屋にいてくれたようだ。
お茶も無駄にならなかったし、良かったかな。
「散らかってはいるが、座る所はある。勝手に掛けてくれ」
「あぁ。…また本の数が増えていないか?」
「血盟城の資料室には興味深い本がたくさんあってな。フォンクライスト卿に許可をもらって、借りてきているんだ」
ソファやテーブルに散らばっている本のほとんどが、眞魔国の歴史に関する本。
それもかなり年期の入ったものだ。ほこりをかぶっているし、文字も所々擦れてしまっている。…だが、何でまた急に歴史の本なんぞを読んでいるんだ?
近くにあった本を手に取り、パラパラとめくってみる。目に留まったのは、ある一族の創設者に関する文章だった。
「…お前が最近、資料室に閉じこもっていたのは…その紅に関することを調べるためか?」
「さすが私の幼なじみ。そんな分厚い本から、私が興味を持っている事項を探し当てるなんてな」
「たまたまだと思うけどな。紅茶、飲むか?」
「あぁ、頂くよ」
持ってきていた紅茶を淹れながら、彼女の様子を窺うと、真剣に文章を追っていた。
「調べるのは構わないが、あまり根を詰めすぎるなよ?陛下が心配していた。ちゃんと寝てるのか?」
「寝てはいるよ…ただ、眠りが浅くてな」
「それで眠くなるまで本を読んでいたら、朝になっていた…そんな所か?淹れたぞ」
「ま、当たりかな。ありがとう」
「で?目当ての資料はあったのか?」
「いや…なかなか見つからない。ほとんどの書物には、私達がすでに知っている事柄しか書いてないから」
「…そうか、やはりただの御伽噺でしかないのかもな」
「あぁ…そうなのかもしれない…」
それからしばらく話をしていた。昔話や最近のこと…城下へ視察に行った時のこと。
ルナとこんなにもたくさんの話をしたのは久しぶりかもしれない。
夜も大分更けてきた頃、ルナは倒れこむようにソファで眠ってしまった。
睡眠不足がたたっていたんだろう…俺が抱き上げても起きないくらい熟睡してしまっていたんだ。
この日から数日後、事態は急転してしまう―――――