紅眼の悪魔


 side:有利


ルナが突然倒れてから、今日で5日目。
いつ目覚めてもすぐに話が出来るようにと、村田は眞王廟から血盟城に来ていた。
そしてグウェン、ヴォルフ、ギュンター、ヨザック…更に旅行中だったツェリ様も集められて。
此処に来た時のあいつは、いつもの飄々とした村田じゃなく、眉間にしわ…まではいかないけど、それに近いくらい険しい顔をしていて。彼女が目覚めてから話される内容は、きっと重大なことなんだって感じた。
そんなことを考えていたら、扉が開いてコンラッドとルナが入ってきた。


「ルノアーナ!もう大丈夫なの?!」
「平気ですよ、心配かけて申し訳ない」


心配そうな表情で駆け寄ったツェリ様に笑顔を向け、その後に真剣な表情で村田の前まで歩み寄るルナ。
少しの間が開いて、跪いた。


「お初にお目にかかります、私の名は―――」
「ウェラー卿ルノアーナさん、だよね?初めまして、僕は村田健。…君のことは何て呼べばいいのかな?」
「あ…ルナと呼ばれることが多いですが、好きなように呼んでください」
「じゃあ、僕もルナって呼ばせてもらうよ」


にっこりと笑った村田に、いつもよりは弱々しいけど微笑むルナは大分元気そうだった。
まだ本調子じゃないんだろうけど、5日前よりは全然いい。少し安心したかな、元気そうな姿が見れたしさ。
ルナと村田の初対面のあいさつは終わったけど、本題に入る気配がない。てか、マジで何の話をする気なんだろう。


「で、村田。話があるーって全員を集めたんだろ?何なんだよ」
「うーん……それじゃ、まず1つ昔話をしようか。4000年前に初代魔王が創主を封印したのは知ってるよね?」
「ええ、有名な歴史ですから。4つの箱に封印したと…」
「そう、眞王と大賢者は全て封印したはずだった。…でもその封印を逃れた者がいたんだ」
「封印を逃れた者?…だが、その後の世界は平和だと聞いている」
「だろうね。だって、ある魔族が自分の体内に取り込んで封印したんだから」
「その人ごと消滅したってこと?」
「違うよ、その魂に創主を取り込んだまま輪廻転生を繰り返しているんだ」


―――その創主の特徴、紅い片目をその身に宿して―――

紅い、片目…?創主が封印されている魂は、片目が紅いってことなのか?ちょっと待てよ、それってまるで…っ!
その場にいた全員が村田の言葉を理解したのか、一斉にルナに目を向けた。


「輪廻転生を繰り返す魂を持つ一族の名は、ウィンコット…そうでしょ?フォンウィンコット卿ルノアーナ」
「ウィンコットの…生まれだったのか…っ?」
「やはり貴方はご存知だったんですね、私が何者か」
「じゃあ、ルナが捨てられたのって―――」
「まぁ、当然だった…ってことになるのかな」
「驚くのはまだ早いよー?彼女は創主を封印してるだけじゃない、鍵の持ち主でもあるんだ」


ちょっと待ってくれ…色んな情報が出てきすぎて、脳の処理能力が追いつかないっ!
あぁ、もうっ!ルナの体に創主が封印されてるってだけで、十分驚きなのに!更に鍵の持ち主とくるかっ?!!

『風の終わり』と『地の果て』の鍵はもうわかってる。
残りは『凍土の劫火』と『鏡の水底』。ルナの本当の姓は、ウィンコット…と、いうことは―――


「私の血液が『鏡の水底』を開ける鍵だ」
「この国に3つの箱と、それを解放する鍵が揃ってしまったというわけですか…」
「でもルナ、お前…自分の瞳の色の意味、知らないんじゃなかったのか?」
「何だか嫌な予感がしてな、ここしばらく調べていたんだ。そしたら…猊下の話していた事実が載っている本を見つけた」
「そう、か」


きっとルナも知った時、その真実に驚いたんだろうな。でも今は冷静そのもので…つくづく俺は彼女のことをすごいなと思うんだ。
もし、俺が彼女と同じ立場に立ったとしたら。こんな風に冷静に受け止めることはできないと思う。
焦って、どうしたらいいかわからなくてパニックになって、どうして…って、考えるんだろうな。


「彼女の存在は極めて危険なものだ。魂にかけられた封印の術だって万能じゃない、4000年も前のものだしね」
「どうすることが一番いいんだ?」
「…そんなの決まってるじゃないか。創主の魂を彼女の中から引き離すんだ、二度と生まれ変われないように」
「え、そんなことできんの?!」
「できるよ。モルギフとは別に、もう1本だけ創主を封印することができる剣がある」
「ちょっと待て。…その剣でルナを貫く…そういうことか?」


なーんだ、簡単じゃん!って思っていた所に、グウェンの一言。その言葉に静かに頷く村田。

ルナを剣で貫くってことは、彼女の命も一緒に消えるってことだろ?
じゃあ、創主を封印する為にはルナを犠牲にしなきゃいけないってこと?!!そんなのっ…そんなのおかしいじゃんか!


「…じゃあ、渋谷は彼女の命を優先して全ての国民を犠牲にするのかい?」
「そ、れは…っでも国の為に死んでくれっていうのは、いくら何でもおかしいだろ!!!」
「おかしくなんかありませんよ、ユーリ」
「ルナ…?」
「国を統べる王が民のことを第一に考えて何が悪いんだ?そんなの当たり前のことだろう。…迷うことはないんだ」


そう告げるルナの瞳に、迷いなど一切映っていなかった。映っていたのは、ただ一つの覚悟。
女性一人が背負うには重すぎる覚悟だった…それがあまりにも悲しくて。でも国民を見捨てることなんてことも、俺にはきっとできないんだ。
俺が思っていた以上に、我が護衛のウェラー卿ルノアーナは強い女性だったんだな。


「ルナッ…まさかお前、最初から―――」
「それが私の宿命だ、決して逃げることのできない…ね」
「さあ、どうする?渋谷。彼女の心は決まっているようだよ」


本当は選びたくなんて、ない。国民も…ルナも大切なんだ、失いたくないんだ…っ!
それでも、俺は選ばなきゃいけない。渋谷有利としてではなく、眞魔国第27代魔王として…選択をしなければならない。


「…ウェラー卿ルノアーナ」
「はい、陛下」
「この国の平和を護るため、その身を…捧げてくれ」
「…は、仰せのままに」


この選択が正解なのか、それとも間違いなのか…それは神のみぞ知る。
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