決戦
運命の歯車は止まらない。
世界の破滅を止める為のカウントダウンが始まった。
side:有利
「…ユーリ、見ているのは辛いんじゃないか?」
「そんなんヴォルフだって一緒だろ?俺だけじゃない…」
封印を、決行する当日。村田が指定した何もない草原に、俺達はやってきた。
本当なら俺は城で待っている予定だったんだ…見なくていいものだから、と。
けど、選択したから。だから見届ける理由があるんだよ、俺には。
ルナの…国の為に覚悟してくれた最期を。
確かに誰かの死の瞬間って、いいものじゃないし。率先して見るもんでもないんだけどね…。
「…いいのか?ルナ」
「そんな顔をするな、ヨザ。大丈夫だから」
ルナに何か言いたいのに、このまま終わりだなんて…そんなの嫌だって思うのに。何も浮かばないんだ…。
ギュッと拳を握っていたら、そっと肩に手を置かれた。
「大丈夫?ユーリ」
「コンラッド…うん、大丈夫だよ。あんたやルナの方が―――」
「正直、大丈夫とは言えませんね。…情けないですが」
肩を竦めて、困ったように笑う名付け親兼護衛。けれど、その手にはしっかりと、封印の剣を握っている。
ああ…現実なんだな、今日これから起きることは。
理解していたけど、改めて思い知らされた気がしたんだ。
「俺の決断は…間違ってたのかな?」
「ん?」
「命を投げ出してくれなんて選択、間違ってたんじゃないかなって…思うんだ」
「…ユーリ、ルナのことを思うなら…後悔をしないであげてください」
「え…」
「自分の下した決断を、後悔しないで。そうじゃないと…ルナの覚悟がムダになってしまうから」
後悔を…しない?
「そして、あいつのことを忘れないでください…しっかりと覚えていてあげて?」
「俺がルナを忘れるはずがないよ…っ!」
忘れない、絶対に忘れない!忘れたくなんて、ないから。
時間と共に薄れていく記憶だとしても…忘れない。
この選択が正解だとは思わない。だけど…泣き言はもう言わないよ。
「辛くなったら…俺がいますから」
「その言葉、そっくりそのままコンラッドに返してやる。一人じゃないよ、あんたも」
「!……ええ、ありがとうございます」
大丈夫だ。きちんと…見届けるよ。
ルナの覚悟を、コンラッドの覚悟を…全て。
「表情が凛々しくなったね。心の準備ができたんだ?」
「うん…俺が迷ってちゃダメだからさ」
「そうだね…君が迷ったら、2人の気持ちも迷ってしまうからね」
「だから…もう大丈夫だ」
辛くないわけじゃない。悲しくないわけじゃない。だけど…前を見なきゃいけないんだ。
ルナならきっと、そう言うんだろうな。いつもの笑顔で。
「村田、そろそろ始めるのか?」
「…うん、始めよう」
時は、きた。全ての終わりと、全ての始まりだ。
「陛下」
聞こえた声はルナのもので、バッと後ろを振り向いたら…やっぱり彼女が立っていた。
いつも結んでいた長い髪は、今日は下ろしている。服もいつもよりラフになってて、白いシャツにズボンをはいているだけだった。
彼女曰く、最期なんてこれくらいで十分だろうとのこと。
「ユーリ陛下、私は貴方に仕えることができて幸せです」
「何も出来ない王様だけどね。…皆がいてくれて、ようやく何とかなってる」
「…まだまだ成長途中ですから、これからですよ」
「っうん…!」
「泣かないで、ユーリ」
何で涙が出てくるんだよ…っ!どうして当事者のルナじゃなくて、俺が泣いてるんだ!
本当に泣きたいのは、俺じゃなくてルナやコンラッドのはずなのに。
「ごめん、ルナ…ごめん…っ」
「謝るな。ユーリは何も悪いことなんぞしていないだろうが」
「だけど…っ」
「これは私が決めたことだ、ユーリが気に病む必要などない。前にもそう言ったろう?」
優しくて、温かいルナの手が頭を撫でてくれて。諭すように言葉を紡いでくれる。
その行為のおかげか、だんだんと落ち着いてきて、涙も止まったんだ。
自分がどんな状況に置かれている時でも、ルナは優しいんだな。
もう大丈夫、そう言おうとした時に手を握られて…キス、されました。手の甲にだけども。
「ルノアーナッ貴方は何を…っ!」
わーお、ギュンター大暴走。…あ、ヨザックに羽交い締めにされた。
だけど、ルナはそれに構わずに俺の目をじっと見つめて、更に言葉を紡いだ。
「…貴方の傍からいなくなろうとも、生涯忠誠を誓います」
俺を必ず護ると言ってくれた時と、同じ行為。
そっか…あの時も忠誠の証として、手の甲にキスしたんだね。
そんな誓い、いらないから此処にいろって命令をしたら…いてくれんのかな?…いや、困った笑顔で謝られるんだろうな。きっと。
「…バカだと思われようと、俺はルナが生きてる未来を諦めてないから」
「陛下?」
「うん、諦めるのはやめた。信じることにする。だからっ…だから…その時にまた、聞かせてよ。さっきの言葉」
"また"なんて、あるわけがないのに。
何て残酷な言葉を吐いてるんだ、俺は。……最悪だ、本当に。
それでも彼女は、笑顔で頷いてくれたんだ。
「ありがとう…ユーリ」
「渋谷、ルナさん」
「すみません、猊下。長い時間お待たせしてしまいましたね」
「いや、全然大丈夫だよ。…平気かい?」
「ええ、いつでも」
ルナは静かに立ち上がって、俺から離れていった。
いつの間にか隣からいなくなってたヴォルフが、いつの間にか隣に戻ってきていて。
震えてたらしい俺の手を握ってくれた。そのヴォルフの手も、俺と同じように震えてたんだけどね。
「…見届けるんだろう?僕が隣にいてやる」
「うん…ありがとう、ヴォルフ」
それはわかりにくい、不器用なこいつの優しさ。
そして、運命の時間が訪れた―――