再び闇へ
side:有利
シマロンで戦争の準備をしているという情報を掴んでから、早1週間。今の所、攻めて来る様子はないみたいだ。
禁忌の箱とルナのことはヨザックに任せてあるし、何があってもいいようにグウェン達にも軍隊を編成してもらってる。…絶対にしないと、魔王になった頃に誓いを立てたはずなのに。今まさに自分から破ろうとしてるんだ。
出来ればしたくない。未来永劫平和主義者の魔王だから、俺は。だけど、それをシマロンが聞いてくれるとは思わない。好機だ!って攻めて来て、禁忌の箱と鍵を奪おうとしてくるだろうし。この国に攻め込んできたら、最後。
「城下町も、国民も…何一つ無事では済まないよな」
「でしょうね。箱を奪えるのなら、どんな手段も厭わないと考えていた方がいいかと思いますよ?」
「…うん、だよな」
「辛い、ですか?戦争になってしまうこと」
「…辛い、かな…。けど、この国がなくなる方が…箱を奪われて世界が闇に染まることの方が、辛いかも」
今、ここで俺自身の勝手な希望を通すことで、全てを危険に晒すことになるのなら。くだらないことではないけど、捨ててしまうしかないんだ。だって、俺はこの国の…眞魔国の王だから。
皆が笑って暮らせる国にしたいんだ、誰も傷つくことなく。だったら、今は戦わなきゃいけないだろ?
「シマロンが攻めて来るなら、受けて立つ。何も奪わせない」
「ええ、仰せのままに」
「だけどさ、コンラッド」
「はい、何でしょう」
「くだらない、果てしなく遠い理想なんだけど……なるべく端で引き止めたいんだ!国民には敵が攻めて来たってわからないように、町には向こうの軍が攻め込まないように!…可能、かな?」
「貴方が俺達を信じなくてどうするんですか?それが命令なら、それが陛下の望みならば…叶えてさし上げます」
つくづく俺は甘いと思う。戦争なんて本や、教科書で得た知識でしか知らないから。どれだけ過酷で…どれだけ恐ろしいものかもよくわかっていない。
それを全てわかっているのは、グウェンやコンラッド達だ。当事者だから、体験者だから。だから、彼らからすれば何て甘い考えだろうって思うと思う。それでも!…俺は、被害は最小限で抑えたい。その思いは皆と一緒のはずだろ?
「全く…いつまで経っても、甘い考えだな。お前は」
「む。ちゃんと自分でもわかってるよ、甘いってことくらい…」
「…だが、国と民を傷つけたくないのは皆同じだ。全力を尽くそう」
「グウェン…」
「護りたいものがあるのは、皆一緒です。その為に戦うのですから」
魔王の座に就いて、もう3年だ。今までどのくらいのことが出来たのか、どのくらい成長できたのかはわからない。それでも…周りに助けられて、何とかやってくることができた。信頼できる臣下がいるから。
だから、俺はここにこうやって立っていることができるんだと思う。
迷うことがあっても、間違えることがあっても…皆がいてくれるからさ。その人達の為にも頑張ろうって思えるんだ。
「お話中に失礼いたしますっ!」
「何ですか、ノックもせずに…」
「す、すみません!ですが、事は急を…っ」
「何かあったの?」
「はっ!シマロンと思われる軍艦が、もう目の前まで来ております!」
「…来たか」
「思っていたよりは、早かったな。迎撃の準備だ、全軍隊に伝えろ!」
始まってほしくなかった戦いの火蓋が、今切って落とされる。