君の代わりに


 side:ヨザック


「…ん?」
「どうかなさいましたか?」
「いーえ?多分、俺の気のせいだと思いますから」


坊ちゃんの命令で、俺は眞王廟でルナの護衛についている。+猊下の護衛もしてるわけで。
ずっと静かだった眞王廟の周り。…けど、今は微かに怒号が聞こえる。とは言っても、俺の気のせいっていう確率ははるかに高い。だけど、もしもってこともあるから…何だか落ち着かねーや。


「ヨザック!」
「猊下…?いかがなさいました?」
「ウルリーケもいたのか、今すぐ此処を離れるんだ!」


珍しく猊下が慌てていた。いつもの落ち着きも、聡明さもない。ただ焦っているようだ。
その様子で何となくだが、予想がついてしまった。
猊下が眞王の声を聞ける唯一の人物、ウルリーケ様に此処を離れろと言う理由…そんなの1つしかない。


「来たんですね、シマロン軍が」
「あぁ、渋谷達から白鳩便が届いた。此処に辿り着くのも時間の問題だと思う」
「そんな…!禁忌の箱を奪いに来たと言うのですか?!あの箱の封印を解くことで、世界がどうなるかわかって…っ」
「どうなるかなんて考えてないと思うよ。…この世界を自分のモノにしたいだけなんだから…」
「とにかく、猊下はウルリーケ様と此処を離れてください。多分、表はもうダメだろうから裏から」
「僕も此処に残るよ、護るって決めてるからね」


やっぱり坊ちゃんの友達だ。考え方も、頑固さもそっくりで。でもだからこそ、この方達について行こうと思ったんだけどな。
この方達の為になら…命でも何でも賭けれると、捧げられると思った。だからこそ、今此処で2人を失うわけにはいかないんだよ。俺達の身に何が起こっても。


「それはとっても心強いんだけどね?猊下。…貴方を危険な目に合わせるわけにはいきません。表も、ルナも俺が必ず護る、約束しますから。今は逃げてください…ね?」


猊下の顔が僅かに歪んだ。納得できないって顔ですね、これは。でも、だからと言って、此処に残るのを許すわけにいきませんから…どんなことをしてもわかっていただかないといけない。
この人は物分りが悪い人なわけではない。ただ、少しだけ頑固で、責任感が強くて、信念が強いだけ。だからこそ、此処を離れたくないと言っているんだろう。気持ちはわからないでもないけれど。どうしても、自主的に動いていただけないと言うのなら…


「っきゃ?!い、一体何をするつもりですか?!!」
「ヨザック?!君、まさか…っ」
「そのまさかですよー?聡明な猊下なら、お分かりでしょう?」


2人をひょいっと持ち上げてみました。動いていただけないのなら、無理にでも動かすのみだ。
外に出してしまえば、きっと2人は此処から逃げてくれるはずだ。本来なら俺が護衛してさし上げたいが、坊ちゃんの命もある。此処から離れることはできない。


「さ、時間がないんでしょ?わがままを言わずに」
「…死ぬなよ、ヨザック。絶対に生きて戻って来い。そうじゃないと…渋谷が悲しむ」
「はい、必ず。お約束しますよ、猊下」


ルナが眠っている部屋は、眞王廟の最果てでわかりにくい場所にあるから。鍵のことを知っている奴らでも、そう簡単に此処までは入り込めないはずだ……多分、きっと恐らく。
軍を編成してあるから、兵士の数はそれなりにいる。きっと食い止めることができる…その間に此処から逃げていただければ。そっと2人の体を降ろし、扉の奥へ押し込む。扉を閉める瞬間に見えたのは、不安そうに顔を歪めた2人の姿。


「俺は表を護る…だからルナ」


お前の力で2人を助けてやってくれよ―――――
密かに願うは、彼女との再会と…2人の無事だけだ。
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