舞い降りる


 side:ヨザック


あらかたの敵軍を倒して(ばっちり侵入されちまったけど)、猊下達を押し込んだ最奥の部屋に様子を見に行ってみたら。猊下が巫女さんを背に庇ってる姿が見えた。しかも、斬られそうになってて。

何でいるんですか、逃げろって言ったのに…っ!

必死に駆け出すけど、間に合いそうになくて…最悪なシナリオが頭に浮かんだ。彼を失う…感覚でそう悟った。だけど、肉を斬る音はいつまで経っても聞こえることはなくて。代わりに聞こえたのは、猊下じゃない男の声と凛とした懐かしい声。その声の正体はルナ、だった。
2年前のあの日。深い眠りについて、いつ目覚めるかもわからなかった彼女が…今、この最悪な状況の中で目を覚ました。目は覚まして欲しかった。でも、このタイミングはないだろ?いくらなんでもひどすぎやしねぇか。
目覚めた彼女の強さは相変わらずで、あっという間に兵士達をのしてしまった。…っと。あいつに服、渡さないと。


「ほら、とりあえずこれ着ろよ」
「私の服…わざわざ残しておいてくれたのか。ありがとう」
「いつ目覚めてもいいようにね」
「ありがとうございます、猊下。…それより、何が起きているんですか?」


ま、やっぱりそれを疑問に思うよなぁ。
目が覚めたんなら、ルナにも協力を仰ぐか。…言わなくても、協力してくれそうだがな。


「実は、眞魔国に禁忌の箱と鍵があることがシマロンにバレちゃったんだ。それで…」
「向こうが攻め込んできた……陛下は戦うことを選んだんだな」
「あぁ。ただし、村や城下町には絶対に侵入させないこと!…それが命令だ」
「ふふっあの方らしいよ、本当に。それならば私も加勢するとしようか」


やっぱり。思ってた通りだな。まだ協力してくれなんて言ってないのに、力を貸す気満々だ。
…でも1つだけ、気がかりな点がある。目覚めたばかりの体は、辛くないのかってこと。さっきのを見た限りじゃ、特に問題はなさそうだが…。


「加勢してくれるのは嬉しいけどよ、体は平気なのか?2年も眠ってたのに」
「問題ないよ。心配には及ばない」
「…わかった、とりあえずは信じる。何かあったら、すぐに言えよ」
「あぁ、リョーカイ。猊下達は此処から動かないでください、絶対に。もう眞王廟には来ないでしょうから」
「だけど…っ」
「大丈夫です、すぐに鎮圧して戻ります。私もヨザも。…ね?」


優しく頭を撫で、ルナは微笑んだ。何つーか…普段は男っぽいのに、こういう時はまた違う雰囲気なんだよな。こいつに諭されると、頷いてしまう。何でかはよくわかんねーけど。猊下も大人しく頷いてるしね。不服そうだけど。


「気をつけて、くださいね?」
「わかってますよ。これ、ありがとうございました」


さて、ルナも着替えたみてーだし…出立の準備をするか。馬はー…ほとんど使っちまってるよなぁ。俺と相乗りとかしてくれんのか?ルナって。
気になったから、素直に聞いてみると…あっさりOKが出ました。よく考えてみりゃ、気にするようなヤツじゃねーわな。


「んじゃ、加勢しに行くか。…ルナ、剣はどうする?自分のはもうないだろ?」
「そこら辺の兵士から借りるさ。この際、贅沢は言ってられないし」


そりゃそうか。素手で戦うには限界がある。誰かの剣を奪わないと、きっとこいつでも生き残るのは難しいだろ。俺のを貸してやれればいいが、そうもいかねぇし…何よりルナ自身が断る。
ま、当然のことだよな?俺だって同じことされたら、きっと…っていうか、絶対に断る。


「…ヨザ、陛下は大人しく城にいると思うか?」
「何とも言い難いなぁ。この2年で剣の腕も、魔力も格段に成長された。だが、周りが許すとは思えない」
「でもきっと、あの方はいるんだろうな…何か出来ることがあると言いながら」
「大人しく城にいるのと、戦場に向かうの…どっちが良い王様なんだろうな?」
「どっちもどっちじゃないか?私にも正解はわからないが。…だけど、陛下が悪い王だとは思わない、かな?」
「あぁ、それは同感だ。王の素質を持ってる方だからな」


眞王廟の外に出てみると、遠くから何かが聞こえる。どうやらまだ、侵入してきた場所より奥には来てないみたいだな(…侵入を許しちまった奴らもいるけども)。それでもなるべく急いだ方がいいだろう。坊ちゃん達からの白鳩便には、どのくらいの人数かは書いてなかった。
ただ「シマロン軍の大きな船が来た」、それだけだったから。だから、確かな人数は把握できてない。それは向こうもそうだろうけど。元々、戦争なんて人数の把握なんてしねーけどさ。


「よしっルナ、しっかり掴まってろよ?」
「わーかってるよ。…でも場所はわかるのか?」
「詳細はわからない。けど、向こうは船で乗り込んできたらしいから、大体の予想は立てられるだろ?」


きっと、何とかなる。そう思って、簡単な状況説明だけの白鳩便を飛ばし、馬の腹を思いっきり蹴った。一秒でも早く、場所を特定して加勢する為に。この争いを鎮圧する為に。


「っ!相変わらず、乱暴だなヨザは!」
「悠長にしてる暇はないだろっ?!」
「それはそうなんだがっ…もう少し丁寧に馬の手綱を操れよ!こいつがびっくりしてるだろうが」
「帰りはもーっと、今まで以上に丁寧にするから、今は許せ!時間がねーんだよ」


全てが片付いたら、いくらでも小言でも文句でも聞いてやるよ。
だけど、今はそれ以上に大事なもんがあるから。それが何なのか、お前ならわかってるはずだろ?ルナ。





馬を走らせてしばらくした頃。遠くから聞こえていた音が、段々と大きくなってきた。
怒号に、爆発音に、剣同士がぶつかり合う音…思っていた以上に激しい音が響いてて、少し驚いた。こんなの、慣れたもんだと思ってたはずなのに。


「これは…」
「まさに惨劇、だな」


目の前に広がった光景は、恐らく爆発物によって破壊されたであろう木々の山。その中で倒れている兵士達。そして、怪我人を絶えず治療している癒しの一族。
昔、まだ今の上王陛下がこの国の頂点に君臨していた頃に、よく見ていた光景だ。俺も、ルナも、何処かで戦っているであろう隊長も。


「ヨザ、急ごう!コンやグウェン達がいるから大丈夫だとは思うが…気に掛かる」
「あぁ、そうするか!」


隊長や閣下達がいるのは、きっともっと先だ。
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