戦乱の女神


 side:コンラート


「ハァ…ッ何でこんなに多いんだよっ?!」
「箱と鍵を奪う為に決まっているだろう!というか、何でお前は城で大人しく待っていられないんだ、このへなちょこめ!!!」
「俺だけ安全なトコにいるってのは、どう考えてもおかしいだろ?!」


いえ、おかしくありませんよ?ユーリ。全く…王という立場を3年経った今でも、きちんと理解してくださらない。確かに王位を継承された頃より、大分強くはなられたけど…それでも実戦の経験は少ないから。ユーリもわかっているだろうけど、鍛錬とは何もかもが違う。
初めての実戦ではないけれど、まだ戸惑いは消えていないはずだ。ユーリの中から。とても…とても優しい方だから。敵とはいえ、傷つけることを心の中では嫌だと感じている可能性が高いんだ。それが、戦だとは言ってもね。


「…減る様子がないな。何処からともなく現れてくる」
「さすがに多すぎるな。…こっちも疲弊してきてる兵士が増えてるぞ」
「ここまでくると時間との勝負のように感じるな…」
「でも、負けるわけにはいかないだろう?」
「ふん…当たり前だろうが」


そう、負けるわけにいかないんだ。どれだけ敵軍の人数が多かろうが、どれだけ疲弊しようが…この道を通すわけにはいかない。
眞王廟には侵入を許してしまったようだが、それ以上の侵入は絶対に許さない。この命に懸けて、絶対にね。ここを通してしまったら、被害は拡大するばかりだから。


「く…っ!何故、先に進めない?!!この人数の倍の兵士を連れてきてるはずだぞ!」
「簡単に通すわけにはいかないんだよ、俺達は。護るって決めてるんだ、あんたらから全てを」
「憎き魔族め…っ!!!箱と鍵を我らに渡せっ貴様ら魔族が持っていたら、この世界を滅ぼされちまう!!!どうせそれが目的なのだろう?!」
「わかんない奴らだな!あれがどんなに恐ろしい物かわかってんの?!誰も手を出しちゃいけない物なんだよっ」


視界の端に兵士数人と対峙しているユーリの姿が見えた。
心配になるが、ユーリの近くにはヴォルフもいる。いざとなったら、ユーリを護ってくれるはずだ。…最も、ユーリもそう簡単にやられるような方じゃないと思うけれど。


『ぅわあぁぁああぁ?!』
『何だっ援軍か?!!』
『馬鹿者!怯むな、たった2人増えたところで何も変わらんぞ!!!』


…何だ…?向こうの方が騒がしくなっている。


「ヨザ!少し肩を借りるぞ!」
「いっ?!おっまえ、無茶をするなっ」


懐かしい声が聞こえた、その直後。
遠くに見えた人影に向かっていく、敵軍の兵士達。馬から飛び降りた 彼女 は、圧倒的な強さで、打ちのめしていく。


「隊長!見つけました、紅眼の―――」
「…悪いな、借りるぞ?」


鮮やかな剣術、しなやかな綺麗な動き。それは確実に敵軍の兵士の数を減らしていったんだ。
誰もが、夢だと思っていた。幻だと感じていた。信じられないような出来事が、目の前で起きている気がした。意識を集中させなきゃいけないのに、華麗に舞う青から目がそらせない。


「隊長っ閣下!何とか持ち堪えてるみたいですね」
「負けるわけにいかんからな。意地でも此処は護るぞ」
「ははっ違いねぇ」
「こちらはお前達に任せる、私はあちらに加勢をしてくる」
「了解。頼むよ、グウェン」


ヨザックとグウェンの声で、ようやく我に返った。戦場で集中を切らすなんて…護衛云々の前に、軍人として失格だな。どんな出来事があろうと、目の前の敵から目を離してはいけないというのに。
そう…わかっているのに、遠くで剣を振るう懐かしい姿を追ってしまうんだ。今すぐにでも名を呼んで、駆け寄って、その存在を確かめたいと思ってしまう。だが、今はダメだ。名を呼ぶことで意識をこちらに向けさせることになる。それは死を意味するから…呼んではいけない。
この戦いが終われば、いくらでも呼ぶことができる。確かめることができる。今はただ、この戦いを終わらせなければいけない。


「嘘、だろ…ルナなのか?本当に…」
「ッユーリ!何をボーっとしているっ」
「…え?」


ヴォルフの焦ったような声。
何かに意識を奪われている、我が主君の姿。
その後ろに迫る…敵の兵士。


「ユーリッ!!!」
「坊ちゃん…っ!」


俺とヨザックは無我夢中で駆け出した。間に合えと、足を動かす。ヴォルフも必死に手を伸ばしている。もう少しなのに、届きそうな距離にいるのに…届かないもどかしい距離。
間に合え…っ!


―――ザシュッ…


刃が肉を斬る音、飛び散る血飛沫。抱きしめられている、ユーリの姿。斬られたのはルナだった―――――


「ユーリには…指一本触らせない」


背中から血を流しながらも、剣を構え直し再び立ち上がる。女性とは思えない程の、鋭い瞳の光。主君を必ず護り通すという、誰よりも強い意思。その姿を見た者は、彼女を"化け物"だと…"紅眼の悪魔"だと罵った。
敵軍の兵士が逃げ出し、戦いが終息へと向かうのは…それから間もなくのことだった―――
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