侵入者


ヨザからユーリを狙う奴らがいると聞き、警護を強化して2週間。
今の所、何の異常もない。城下に見回りに行っているコンラート達からも、特に異常がないと聞いている。


「やはり、噂は噂でしかなかった…ということか?」


ふあ、とあくびを1つもらして大きく伸びをした。
コンラートが城下へ行っている2週間、ユーリの護衛は私の役目。…さすがに2週間寝ていないのは、体に堪えているのかもしれないな。
それはコンラートも同じだろうに、私にだけ休みを命じやがって。午後はあいつを休ませねばならんな。無理矢理にでも。

…コンラッドー!…

窓の外から聞き覚えのある声が聞こえ、読んでいた本から目を外す。
覗いてみると、ユーリとコンラートがキャッチボールとやらをしている。
ヴォルフはー…あぁ、木の下で本を読んでいるのか。平和な光景だなぁ、あんな噂があるというのに。


「しかし、コンラートも寝ていないだろうに…元気だな」


もう1つあくびをもらし、さっきまで読んでいた本に目を戻した。…が、ユーリの後ろの方に、見たこともないメイドと執事が立っていた。
血盟城で働く者達は、今回の件であらかた顔を覚えたはず。…ならば、あの2人は誰だ?

思考を巡らしていると、何かが陽の光に反射してキラキラと光を放っていた。
眩しさを感じたのは、あのメイドが手に握っている―――


「あれは刃物……?っまさか!」


嫌な、予感は的中した。
刃物を握っているメイドの体が、ゆらりと揺れる。


「ユーリッコンラートッヴォルフラムッ!!!」
「へ?ルナ…?」


まずいと思った時には、もう体が勝手に動いていたんだ。
窓枠に足をかけ、2階だということも忘れて飛び降りた。


「ユーリッ危ない!!!」


間一髪の所で、コンラートがユーリの体を引き寄せてくれた。
彼の命を消そうとした刃物も、ギリギリで叩き落とせたようだしな。メイドと共にいた不審な執事も、駆けつけた兵士が押さえつけてくれたようだ。


「ユーリ!怪我はしていないか?!」
「え、あ、うん…何とも…てか、何が起こったんだ?」
「貴方の命が狙われたんですよ。まさか城内に侵入していたとは…っ」
「本当に間一髪だったな」
「くそ…っ!」


さて…どうしたものかな?


「…1つだけ、聞きたいことがある…お前はどちらだ?」
「……」
「どちらって…どういうこと?」
「人間か、それとも魔族かと聞いているんだ」
「……混血でしょうね、恐らく」
「っ?!」
「やはりそうか…」


混血の暗殺者。
警護を強化している今、ユーリへの謁見は必要最低限になっている。
そして新しいメイドや執事も、募集しているとも聞いていない。それを考えると…堂々と潜入するのは無理がある。


「混血…だと…っ?!」
「ヴォルフ、騒ぐなよ?」
「〜〜〜っわかっている!」


混血を汚らわしいとか騒ぎ出す前に釘をさす。
騒がれると面倒なのもあるが、何よりユーリとコンラートが傷つくだろうから。
2人のそんな顔は見たくないからな。


「…殺せよ…」
「…何だと?」
「殺せと言ったんだっ!どうせ魔族でも人間でもない半端者は、何処にいても厄介払いされるだけだ!帰る場所などない…捕らえられた以上、待つのは死以外に何もないんだからな!!!」
「ちょ…っ」


ユーリ並の早口だな。
覚悟もできているようだ…しかし、言っていることは気に食わない。私は静かに剣を抜いた。


「ルナ?!」
「陛下!近づいてはダメです!」
「何で?!ルナを止めなきゃ…っ」
「しっかり押さえておけよ、コンラート。私は陛下を傷つけたくはないからな」
「やめろ、ルナッ!」
「…終わりだ」


―――ドスッ…

鈍い音が辺りに響き、しんと静かな空間を作り上げた。


「は……っ」
「え、生きてる…の?あの人」
「生きていますよ」


そう、殺してなどいない。
剣を突き立てたのは、顔の真横。殺されると確信していた暗殺者、殺すと思っていたユーリは呆然としていた。
まぁ、当然の反応か。剣はしっかりと振り上げていたし。


「魔王陛下を狙うことは、どんな理由があろうと、どんな人物でも許さない。…だが、あの方は命を奪うことを嫌がるからな」


だから、今回はこれで勘弁というところだ。
突き立てた剣を抜き、軽く土を払ってから鞘に収めた。さあ、どうしようか。


「牢屋に連れていってくれ。見張りも忘れずにな」


さすがコンラート。指示が素早いな。
あとはグウェンダル閣下、フォンクライスト卿、ヨザに知らせないと。恐らく話し合いになるだろうから、暗殺者の処遇を決める為に。


「驚かせてすみませんでした、ユーリ」
「本当だよ…本当に殺しちゃうのかと思った」
「はい、すみません」


所変わって、此処は魔王陛下の執務室。
暗殺未遂騒ぎの後、ヴォルフに皆を集めてもらい経緯を洗いざらい話した。
大方こうなるだろう、と予想していた通り…


「陛下の御身を狙うなど、どんな処罰を受けようと許されませんっ!このギュンター、命に代えても陛下の仇をーーーっ!」
「仇って、まだ俺生きてるからっ!」


フォンクライスト卿が大暴走。……言わなきゃ良かったか、この人には。


「…ルナ」
「何ですか?グウェンダル閣下」
「お前はこの件、どう思う?」
「陛下の命を狙ったのは混血でした。徽章を持っていたとは考えられませんし、メイドや執事の募集もしていない」
「表から潜入したとは考えにくい、と?」
「はい。魔族の後ろ楯があったと考えるのが妥当かと思いますが」


例えば、魔族の商人の付き人で入り込んだ…とかね。色々と手段はあるはずだ。
まぁ、あくまでも推測の域を出ていないんだが。あの2人から話を聞いたわけでもないしな。
そう簡単に口を割ってはくれないだろうが、聞かなければ何故ユーリが狙われているのかがわからない。
何か理由があったのなら、それを突き止めなければ意味がないと思うんだ。
だって、このままあの2人を捕虜にしておいたとしても、解決にはならないだろう?黒幕がいる可能性が、高いんだからさ。


「それならば拷問するのが一番では?必ず吐きますよ」
「ダメだって!!!」
「ですが、陛下…」
「いくら何でも拷問はダメだっての!故意に傷つけるのは一番やっちゃいけないことなんだから」


事故ならばいい、というわけでもないけどな。


「とにかく!無理矢理はダメなんだってばっ!俺が直接…」
「直接お話をすることはいけませんよ、ユーリ」
「貴方が行ったら、また命を狙われてしまうでしょう?許可できませんよ、いくら頼まれても」
「じゃあ、どうしたら…っ」
「……わかりました、私が行ってきますよ」
「え?」
「私が陛下の代わりにお話を聞いてきますから。報告もちゃんとしますので。…それでも不満ですか?」


数秒考えた後、小さな声で不満じゃないと聞こえた。肯定の証だ。
ユーリなら自分が行くと言うだろうとは予想していた。何となくだが。
だから驚きはしなかったが、それでも牢屋に行くことは護衛付きでも許すことはできないな。命を狙われないとは、限らないから。
だから、護衛である私とコンラートは反対する。直接話を聞きたいという気持ちはわからないでもないけどね。


「しかし、大丈夫ですか?ルノアーナ」
「さあ、どうだろう?狙いはユーリだから、私に危害を加えるとは思えないが」
「自棄を起こして、ということも有り得るからな。気をつけろ」
「もちろんです、閣下」
「…待て、ルナ。一人で行くのか?」
「?当然だろう」


なーにを言ってるんだ、このわがままプーは(あ、つい本音が)。
ただの一諜報員、もとい一兵士だ。護衛なんぞいらないし、人数が多いと向こうも話してくれない可能性がある。
私一人で行くことに、何の疑問があるのだろうか。…あ、私だけでは信用ができないということなのか?それは少しばかり落ち込むなぁ。


「お前の心配をしてるんだよ、ヴォルフラムは。信用してないとかじゃなくね」
「あぁ、そういうことか。少し落ち込んだぞ」
「べっ別に心配してるわけじゃ…っ!」
「本当に可愛いな、ヴォルフは。大丈夫、牢屋越しに話すんだから」
「あ、そっか。牢屋にいるんだもんね…簡単に怪我したりしないか」
「ルナの実力は、この国で2番目だから心配いりませんよ。陛下」


思った以上に心配されてびっくりだ。
…ま、それはさておき。早めに済ませてくるとするか。


―――カツン…ッ

薄暗い階段の先に待つのは、罪を犯した者を収容する牢屋。
あまり使われてはいないけど…。


「ルノアーナ閣下、本当にお一人で…?あまりに危険すぎるのでは」
「大丈夫だ、問題ない。…誰も此処に近づけるな。あと閣下はつけなくていい」


見張りの兵士を扉の外へ残し、単身牢屋が立ち並ぶ中へと進む。
少しずつ濃くなる殺気に、思わず苦笑いがこぼれる。
まぁ、警戒もするか。捕まっている身だものな。


「…あん時の護衛か」
「覚えていたのか?意外だな」
「人の顔を覚えるのは得意なんだ」
「ほう、そういう特技があるのなら他のことに使えばいいものを…何故、陛下の命を狙った?」


簡単に話してはくれないだろうが。それは承知の上で来てる。何か聞き出せれば、こちらの勝ちというところかな。
ユーリの為にも何かわかれば嬉しいんだが…さあ、どうなることやら。
2人は目を逸らしたまま、ずっと黙っている。
(実際喋っていたのは、メイドの変装をしていた男だけだが。もう1人は何も語ろうとしない)


「…質問を変えようか。誰に、いくらで頼まれた?」
「っ?!!」


お、反応アリ…当たりってことだな。


「な、んで…」
「反応するんじゃねえ!バカか、お前はっ!村がどうなってもいいのか?!」
「だけど、どっちにしたって…っ」


あー…何となく読めてきたぞ、この2人の後ろにいる黒幕の意図が。
できれば読みたくなんてなかったけどな、こんなさいっあくな…想像もしたくないこと。
きっとその黒幕をどうにかしないと、どっちにしたって この2人の命も村自体も…消えてなくなるだろうし。


「村が、人質に?」
「〜〜〜っそうだよ!魔王を殺したら、村を…俺ら混血が暮らす村を優遇してくれるって言われたんだ!!!」
「…やはり、そういうことか……城内にあっさり入ることが出来たんだ。進言したのは、貴族だな。もちろん魔族の」
「そう…失敗すれば、村も俺達の命もないぞって…」


…あぁ、だから嫌なんだ。相手の一番弱い所をついて、自分の手は汚さずに望みを叶えようとする。
今にも、腸が煮えくり返りそうなくらい…私自身でも驚くくらい、怒りがこみ上げてきて。


「…そんなふざけた望み、叶えさせてたまるか…」
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