頼りある護衛


 side:有利


俺の暗殺未遂騒動から、早一週間。あれから特に何の問題もなく、いつも通りの毎日を過ごしている。
毎朝、名付け親兼護衛のコンラッドと日課のロードワーク。
その後に朝飯を食べて、溜まっている書類に「渋谷有利原宿不利」とサインをして。
また昼頃に腹ごしらえをして、休憩を挟みつつサインをしまくっていく。
(サボってた分ってでかいんだなーって実感しながら。…俺が悪いんだけど!)

ヴォルフが俺のベッドで眠りこけてるのも、汁を垂れ流しながら追いかけてくるギュンターも、眉間にしわを寄せてるグウェンも、爽やかな笑顔のコンラッドも…何も変わっていないはずなのに。
…ただ、コンラッドと一緒に護衛をしてくれてるルナが、仕事に行っているだけ…。
それだけのはずなのに、彼女が何も言わずに消えたわけではないのになぁ…何か落ち着かないんだ。何かが起こりそうで。


「…珍しくお茶菓子を食べる手が進んでいませんね。具合でも悪い?」
「コンラッド…。具合は悪くないんだけど、なぁんか落ち着かなくてさ」
「ルナが仕事に出かけてから、ずっとそんな感じだな。ユーリは」
「心配ですか?ルナのことが」


心配、なのかな?だからこんなに落ち着かないのかな?
でも彼女の腕はこの国でも上の方(確か2番かな)だってヨザックも言ってたし!
別に戦場に行ってるわけじゃないから、死んだり大怪我をしたりとかはないってわかってる。
…それに、ヨザックも一緒なわけだしさ。


「心配する要素なんて、あるはずがないんだけど…」


時は遡り、一週間前―――


「い、今何と言ったのですかルノアーナ…ッ!」
「捕虜としている2人を今までいた村へ戻したらどうか、と言ったんだ。先に言っておくが、私は正気で本気だぞ?」
「そんなことをして、またユーリを殺そうとしたらどうするんだ?!!」
「それはない、断言できるよ」
「何か、わかったということか?」
「ええ…説明が必要ですか?閣下」
「当たり前だ」
「かしこまりました。簡単に言うと、暗殺自体は2人の意思ではないということ。生まれ育った村を人質に取られ、魔王を殺せば村を優遇すると言われてね」
「混血の村、か。魔族からは当然だけど、人間からすら疎まれる存在だからな」
「そこを逆手に取ったわけだな?」
「恐らくはね。…その村の場所も聞いた」
「なるほど、場所がわかればおのずと黒幕の正体が見えてくるな」
「そこで、陛下に相談が…というより、お願いがあるんですが」
「なに?!俺に出来ることなら…っ」
「実はですね―――」


ルナのお願いっていうのは、捕虜の2人を村に返して欲しいということ。
そして、その村を俺の支配下に置いて…事が落ち着くまでは、兵士を数人見回り要員として配置して欲しいということ。
…その兵士を引き連れて、ルナ自身も村へ一度足を運ばせて欲しいということ。

最初の2つは二つ返事でオッケーした。もちろん、全員で話し合いもしたけど。
でも最後の1つだけは、条件つきで。
いくら何でも彼女一人で行かせるのはダメだーッて叫ばせてもらいました。
だから、無理を承知でヨザックも一緒に!…と、頼んだんだ。こればっかりは譲れないから、それが嫌なら最後のお願いは絶対に許さないからってね。
苦笑しながらも、ルナは「わかりました」と理解してくれた。

それから、一週間。


「白鳩便でも特に問題なく終わったとありましたし、今日の夜辺りには帰ってくると思いますよ?」
「…だよな!大丈夫、だよな」


まだ胸に一株の不安があるけれど、今はルナとヨザックが無事に帰ってくることを祈ろう!
だって、心配したって俺には何もしてあげられないからさ…それなら2人が帰ってきた時に、笑顔で「おかえり」って言った方がずっといいよな?!
ようやくメイドさんが用意してくれた、美味しそうなお菓子に手を伸ばした。ら、扉がすんごい勢いで開いた。
えっ何事?!また何か厄介事の再来ですかぁーーーー?!!


「どうもぉ〜♪」
「ヨザ、此処は陛下の執務室だぞ?せめてノックぐらいしろよ…」
「……へ?ヨザックにルナ?」
「思ったより早い帰還だったな」
「すんなり事が進んでくれたからな、助かったぜ」
「ただ今戻りました、ユーリ。何か困ったこととかはありませんでしたか?」
「っ何もない!なかったよ!コンラッドもヴォルフもグウェンもギュンターも…皆、いてくれたしっ!…おかえり、ルナッヨザック!」
「ただいま、坊ちゃん」
「…ただいま」


2人の姿をしっかりと、この目で確認できてすごくホッとした。ちゃんと生きてるし、怪我をした様子もない。
俺がおかえりって言ったら、嬉しそうに笑いながらただいまって返してくれた。良かった…遠征先で悲しいことは起きなかったんだな。


「…あ、グウェンダル閣下に報告しに行かないと」
「報告なら俺が行ってくる。ルナはもう休め」
「何を言うか、報告までが任務だろう?私だけ休むわけには…」
「たーいちょ!こいつ、ちょっと疲れてるからよろしくねん」
「わかったから、腰をくねらせるな。陛下の前だぞ」


腰をくねらせて、手をひらひらさせながら部屋を出て行ったグリ江ちゃん。
置いてかれたルナは、コンラッドにがっしりと腕を掴まれてむーっとしてる。…こんな子供みたいな表情(カオ)もするんだなー。
いつもクールで、凛としてて、しっかりとした大人!って感じだから。
ハッキリ言って初めて見る表情です。ヨザックとコンラッドってすげーんだな。
俺は何か変なトコで感動していた。


「グリエがあんな風に言うということは、また無茶でもしたのか?」
「えっそうなのか?!なに、争いとか起きちゃったわけ?!!それで無理しちゃった?!!!」
「素晴らしいトルコ行進曲ですね、陛下」
「ありがと、コンラッド…って、そうじゃなーいっ!」


肝心のルナは、肩をふるふると震わせて……めちゃくちゃ笑ってます。
どれくらいって?もう目尻に涙を溜めるくらい、笑ってますよ。


「ふはっあははは!すみませ、へーか…っ!」
「や、それだけ笑っていただけると俺も嬉しいデス」


…ま、いいか。ルナが楽しそうに笑ってくれてるから。
この日は彼女の子どもっぽい表情とか、すごい楽しそうに笑うとことか…初めて見る部分が多くて、ちょっと嬉しかったんだ。
でも……あんな顔をするルノアーナは、できれば見たくなかったんだ―――
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