女同士の秘密の話
温かな日差しが降り注ぐ昼下がり。今日は仕事もひと段落していて、流れる空気も普段に比べれば穏やかなように感じます。
くあ、と欠伸を噛み殺しながら、作り終わった資料をまとめていると、デスクの上に置いておいた携帯が短く震えた。今のバイブの感じだとメールかな、誰だろう?よく連絡を取っているカリーナは学校に行っている時間だし、虎徹も私と同じく仕事中…ということは、ブルックスくんも同じのはず。だとしたらパオリンかしら。
持っていた資料をファイリングしてから確認すれば、やっぱり新着メールのアイコンが画面に出ていた。差出人は、…あら、カリーナだわ。
(授業中にメール?そんなことをするような子ではないはずなのだけれど…)
肝心な内容は、たまたま午前で授業が終わったから良ければお茶しないか、というお誘いでした。とはいえ、私が仕事なのはわかっているから、仕事終わりで構わないと一文があったけれど。
うーん、学生である彼女を待たせちゃうのは申し訳ないけど…でも、最近はカリーナにも会えていなかったしいいかな。仕事が終わったら連絡するね、と返信をして携帯を閉じた。
粗方、仕事は片付いているけれど今日ばかりは残業をするわけにはいかない。イレギュラーな仕事がきてもいいように、終わらせられるだけ終わらせてしまおう!
「カリーナ!」
「千紘。…そんなに急いで来なくても良かったのに」
「だって、あまり待たせてしまうのも悪いでしょう?せっかく誘ってくれたのに」
「大丈夫よ。千紘から連絡来るまで、友達と遊んでたから」
ああ、そうなんだ。それなら良かったけど。
「ね、私が行きたいカフェでもいい?パンケーキが評判なの」
「もちろん」
「千紘ならそう言ってくれると思ったわ」
ふんわりとした笑みを浮かべた彼女。ブルーローズはクールなイメージで演じているけれど、本来の彼女は年相応の行動や仕草をする。美人な顔立ちなのは確かだけれど、笑った顔はとっても可愛くて、女子高生!って感じがするのよね。
私にも学生だった時間はあるけれど、カリーナのように素直に可愛く生きていたかどうかって聞かれると、ものすっごく微妙な気がしちゃう。その頃にはもう虎徹に恋をしていたけれど、…今思えば、色んな気持ちを隠しながら笑っていたような気さえします。
(その時に比べれば、今は割と自分の感情や気持ちに素直になってるのかなぁ)
大人になってから素直になる、っていうのもおかしな話だけれど。運ばれてきたアイスティーを口にしながらそんなことを考えていると、同じようにミルクティーを飲んでいたカリーナが「で。」と身を乗り出してきた。…え、なに?
「えっと、…何かしら?カリーナ」
「アンタとバーナビーって付き合ってるの?」
「ぶっ!」
思いっきり、アイスティーを吹き出した。
「やだ、汚いわね。大丈夫?」
「大丈夫だけ、ど、ゲホッいきなり何言い出すの…」
「だって最近、トレーニングルームでよく話してるじゃない」
仲良さげよ?アンタ達。
パクリ、とパンケーキを頬張りながら言われた言葉に、思わず溜息をつかざるを得ない。最近の子達は何というか、こういう話に食いつくんだなぁ…またカリーナの学生らしい可愛い一面が見れて嬉しいけど、その話題の中心にいるのが自分だというのは頭を抱えたくなる程です。
いや、まぁ確かに前に比べてよく話すようになったとは思うけど。だからって何で付き合ってるって勘違いされるのか…付き合ってないよ、とぶっきらぼうに言えば、カリーナは少し残念そうになーんだ、と乗り出してきていた身を引いた。
「私、好きな人にフラれたばかりだもの。そんなすぐに好きな人とか恋人なんて、見つけられないわ」
「えっ好きな人いたの?!というか、告白したの?!」
「…ま、一応ね」
詳しく言うつもりはないけど、とパンケーキを切り分けながら釘を刺せば、わかりやすく脹れっ面。ふふ、可愛らしい拗ね方だなぁ。
「千紘ってそういう浮ついた話っていうの?全くしないじゃない、興味ないんだと思ってた」
「人間だもの、人並みに恋くらいするわ」
「ふぅん…聞いてみたいんだけど?千紘の恋バナ」
「ええ?私みたいなオバさんの話なんて聞いても、面白くも何ともないわよ」
「オバさんって、そんな歳じゃないじゃない」
いやぁ、カリーナからしたら私の歳なんて十分オバさんだと思うのだけれどね。もごもごとパンケーキを咀嚼しながら苦笑した。
それにしても恋バナ、かぁ…学生時代にもそういうのは一切してこなかったかも。友達の話や相談にのることはあったけど、私自身が―――というのは、した記憶がない。それもそうだ、姉の彼氏が好きなんですーなんて友達に暴露できるはずもないのだから。
「カリーナは?」
「わっ私?!私はっ…別に、」
「ふふっ応援しているから頑張って」
にっこり笑ってそう言えば、カリーナは一気に顔を真っ赤にした。これはバレてる、とは思っていなかったんだろうなぁ…確かにわかりやすいって程ではないけれど、ちゃんと見ていれば僅かな表情の違いというものがある。私が彼女の想いに気がついたのは、好きな相手が同じ人だったからっていうのが一番大きな理由だとは思うけれどね。
(…やっぱり不思議だ)
少し前―――つまり、告白する前の私だったらこんなに笑って「応援しているから」なんて言えなかったと思う。だけどどうだろう、今の私は素直にそう思えるし、笑うことだってできるの。できることなら、上手くいってほしいなぁ…なんて。
歳の差は大分あるけれど、そんな理由で諦められるような子ではないと思うし。いまだに真っ赤な顔でミルクティーを飲んでいるカリーナを見て、私は笑みを一層深くした。