青空に誓う
「バニーちゃんさ、千紘のこと好きだろ」
黙々と書類整理をしていた虎徹さんの口から出た言葉に、僕は持っていた紙コップを盛大に握りつぶした。まだ中にコーヒーが入っていたのにもかかわらず。当然、熱くて叫びかけましたけど。
side:バーナビー
慌てて冷やしに行って、今はテラスで休憩中です。ああもう、本当にこの人は爆弾発言を何気ない顔でしてくるんですね…とりあえず、書類がダメにならなくてホッとしました。でもどうして急にあんなことを聞いてきたのだろう?そんなにわかりやすかっただろうか、僕。
奢ってもらった新しいコーヒーを啜りながら、そんなことを考えていた。何も言っていなかったんだけど、何となく察したらしい虎徹さんが苦笑いしながら「目だよ」って教えてくれました。いや、教えてくれましたって言ったけど、何が何だかさっぱりですからね?!何が目なんですか。
「千紘のことを見る目がさ、すげぇ優しいんだよ。お前」
「え…?」
「なんつーか、愛しい者を見る目っつーの?優しくて甘くて、胸焼けしそうなくらい」
「そ、そんな目で見てました…?!」
出会った頃よりは距離は大分、縮まったと思う。それでもまだ気持ちを告げていい程だとは思えなくって。だけど、この気持ちを本人に悟られるわけにはいかないから、必死で平静を装って…社内とかトレーニングルームで会った時も、ただの仲間ですよって風を演じていたはずだったのに。それなのに虎徹さんにはこんなにもすんなりバレてしまったというんですか。
(ああでも、ファイヤーエンブレムさんにもバレてたんだっけ…)
むしろ、あの人の方が先に気がついていた。虎徹さんは千紘さんと一緒に住んでいるから、僕とよく出かけていることも知っているし…気持ちを表に出さないように気を付けていたとしても、勘付かれてしまうのは当然のことかもしれないな。
彼がそれを誰かに言いふらす、なんて思っていないし、口も堅い方だと思っている。こういうことに関しては特に。相談、というか、話を聞いてもらうのもアリなのかもしれません。
「…好きですよ。もしかしたら一目惚れだったのかも」
「ああ、アイツ美人だからなぁ。友恵によく似てるよ、本当に」
「そういえば貴方の奥さんの妹さんでしたね、千紘さんって」
「おう。最近じゃあますますそっくりでさ…楓もでっかくなったらこうなんのかな、ってちょっと思った」
きっと亡くなった奥さんのことを思い出しているのだろう。そう語る虎徹さんの瞳は、とても優しい。
ああそうか、彼がさっき言っていたのはこの色を宿した瞳のことだったんだ…きっと僕も千紘さんのことを思う時、こんな瞳の色をしていたんですね。確かに胸焼けしそうな程に、甘いかも。
こんな瞳を堂々と晒していたのか、と苦笑が漏れるけれど、不思議と悪い気はしなかった。ちょっと恥ずかしいですけどね、さすがに。
「千紘はさ、友恵の大事な妹なんだ。俺にとってもそうで、ずっとそうで…だから、何が何でも幸せになってほしいって思ってる」
「…はい」
「俺じゃあ幸せにしてやれない。どうしたって俺は、…友恵と楓が一番だから」
伏せられていた瞳が真っ直ぐ、僕を見つめた。
「だからバニー。お前がアイツを幸せにしてやってくんねぇか」
それはまるで、大事な一人娘をお嫁に出すかのような…そのくらい真剣な眼差しで。ああ、そんなにも大切な存在なんだなって思うとちょっと胸が痛むけど、でもきっと、虎徹さんが彼女に抱いている思いと、彼女が虎徹さんに抱いていた想いは全く別物なんだ。
(彼女が僕を選んでくれるかはわからない。でも…)
できることなら僕だって、千紘さんを幸せにしてあげたいと思うんです。誰よりも、それこそ虎徹さんよりも近くにいて守ってあげたいって思うし、笑顔を見たいって本気で思ってるんだ。
彼女の心にはまだ、虎徹さんがいるとは思うけど…それでも少しずつ僕を見てくれたら、嬉しいって思うから。
「期待に応えられるかはわかりません。でも…勝負はこれから、ですよね」
「!…おう。頑張ってくれよ、バニーちゃん」
「ええ、ありがとうございます」
口にしたコーヒーは冷えていたけれど、でもどこか清々しい気分でもあって。
今度の休み、千紘さんは予定空いてるだろうか―――そっと空を見上げ、思いを馳せた。