恋とか愛とか


ブルックスくんと2人で出かけるようになって、そろそろ1ヶ月が経つ。とはいえ、社内では部署が全く違うからそうそう会わないし、会ったとしても二言三言交わす程度だし、ランチを一緒に食べることだって前に比べれば増えたけど…でもそれは2人きりじゃない。虎徹も一緒。
だからずっと危惧していた噂になる、というのも一切ない状態です。トレーニングルームで話すことは増えたから、カリーナやネイサンには「なに?つき合ってるの?」ってよく聞かれるようにはなりましたけどね。カリーナには違うよ、って前に説明したのに…。

元々、ブルックスくんの印象はそこまで悪くない。正直に言えば、悪くなくなったっていう感じかな。初めて会った頃―――彼がアポロンメディアに来たばかりの頃は、クソ生意気な子が入ってきたなぁ…と、印象最悪だったけど。
パートナーであるはずの虎徹とも上手くいっていないし、まるで独りでいいと言わんばかりの態度で、他のヒーロー達ともギクシャクしていたというか。とにかく、いい印象なんて1つもなかったの。
それが変わったのはいつくらいだったかなぁ…ハッキリとしたことは覚えていない、でも気がつけば虎徹との仲が良好になっていて目を瞠ったくらいだ。

(可愛い所もあるじゃないって思ったのよね、うん)

笑った顔もよく見るようになったし、時々、テレビの延長線?って思うこともあったけど、苦笑しながら素の状態ですよ、って言われた時は、そんな顔もできるんだなぁって思ったっけ。…けど、私はずっと虎徹に想いを寄せていたからどれだけ周りがカッコイイ、と騒いでいても、何とも思わなかった。
確かにカッコイイとは思うし、素敵だと思うわ。女性の憧れの的になるのも頷ける。ファンサービスもきちんとしているしね。なら好き?と聞かれたら、…よくわからないというのが本音なんだと思う。


「アンタがまた悩むとはねぇ…ハンサムに告白でもされた?」
「え?ううん、そんなのされてませんよ。相変わらずオフの日は何処か行きませんか、って誘われるけど…でも月2くらいのペースかな?」
「毎週、オフの日に会っていたらもうつき合ってるも同然よ」
「ですよねぇ…はぁ」


ネイサンに飲みに誘われたのは、ちょうど良かった。ブルックスくんについて、話ができるから。さすがに虎徹にはこんな話できそうにないもの…いくら今は義理の兄妹に戻ったとはいえ、告白した相手に別の男性の相談ってあまりよろしくはないでしょう?
向こうはあまり気にしないだろうけれど、むしろ張り切って話を聞いてくれそうだけれど、私が嫌だ。何となく気まずい感じがあるから。


「私の気持ちもそうだけど、もっとよくわからないのはあっちのことで…」
「どうして自分を誘ってくるんだろう、って所かしら?」
「そう。彼だったら私なんか誘わなくても、他にイイ人たくさんいるじゃないですか」


それこそ声を掛ければ、いくらでもデートにつき合ってくれそうな女性が。


「…千紘って意外と鈍感なのねぇ」
「へ?そう?」
「そうよ。だってそれ、気がついていないってことでしょう?」


グイッとグラスに残っていたお酒を煽り、バーテンダーに新しいお酒を注文しているネイサン。何だかずいぶんと含みのある言い方だったけれど、どういうこと?私、何か見落としているのかしら?
チビチビとお酒を飲みながら考えてみるものの、全く思い当たることがなかった。これでも勘はいい方だと自負しているのだけれど。


「ネイサン、さっきのってどういう意味ですか?」
「どうもこうも、そのまんまの意味よ。自分で考えてみなさい!」
「えええ…全く思い当たらないから、こうして聞いてるのに」
「コレは千紘自身が気がつかないと意味がない、ってこと」


バチンッとウインクされて告げられた言葉。ネイサンはそれ以上、この話を膨らませるつもりは更々ないらしく次の話題へと変わっていった。話が盛り上がる頃にはすっかり頭の隅に追いやられてしまっていたけれど、ポケットの中に入れていた携帯が震えたことでまた思い出すこととなる。メールの相手が、ブルックスくんだったから。
何となくその場でメールを開く気にはなれなくて、カバンにしまいこんでネイサンに向き直った。今はお酒を飲んで、ネイサンとの話に花を咲かせて、…彼のことは考えたくないと思ってしまう。深く考えれば考える程、わからなくなってくるというのもあるけれど…気がついてはいけない気持ちに気がついてしまいそうで、怖かったのかも。

(しばらく恋愛はいい。仕事一本で、生きていきたいんです)

いずれ、また誰かを好きになれたらいい。夢中になれる人に出会えればいい。そう思っているのは本当だけれど、今すぐ恋をしたい!とは思わないし、彼氏も旦那さんも今はいいかなって思ってるの。
年齢のことを考えれば、そろそろ身を固めるべきなんだろうけど。現に同じくらいの年齢の人達は、彼氏がいたり、旦那さんがいたりしてるけれども。私の場合、ずっと虎徹を好きだったから…長年、彼氏が欲しいとか考えたことなかったんですよね。
だって、あの人以外いらないって本気で思っていたから。


「千紘。無理に恋しなさい、なんて言わないけれど…少しは周りを見てみるといいわよ」
「周りを?」
「そ。そうすれば、知らなかった事実が、目を逸らしていたものが見えてくるかもしれないから」
「知らなかった事実と目を逸らしていたもの…」


そんなのあったかな。ネイサンがやけに真面目な顔で言ってきたから聞き入っちゃったけど、ハッキリ言ってそんなのなかったと思うんだけどね。でもそのことにすら、気がついてないとかは…有り得るのかな。
うーん、と頭を抱えてしまっていた私は、それを楽しそうに見下ろすネイサンに気づくはずもなかった。
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