これもお仕事
「は?」
「あら、聞こえなかった?だから、バーナビーとレディ・バタフライの特集組むことになったわよ!」
皆さん、ボンジュール。天宮千紘です。普段はアポロンメディアのメカニック兼情報処理の仕事をしています。その傍ら、ヒーロー達の補佐としてレディ・バタフライというヒーロー名も持っているのですが…補佐なので、基本は裏方なんです。
NEXT持ちでもありますけど裏方向きの能力なので、あまり表舞台には立たないのですよ。なので、市民の方々が知っているレディ・バタフライは声のみーという稀有な状況だったりする。顔出しをしたのは今までに二度くらい、だったかなぁ…男性陣のようにフルフェイスじゃないけど、化粧とウィッグで上手くバレないようにはなってます。
なのに!それなのに今、一番人気のルーキーと組んで特集って!!一体、どういうことなのですかアニエスさん!!!色々とツッコミ所満載なんですけれども!…というか、ブルーローズならともかく、ほとんど表舞台に立たない私なんかが特集ってそれ見ます?そしてバーナビーファンに殺されませんか?私。
「貴方、自分の人気を知らないの?」
「人気なんてあるわけないじゃないですか…だって私、顔がほとんど出てないヒーローですよ?しかも補佐ですからね?」
そんなヒーローに誰が憧れるっつーんですか。私だったら絶対に憧れないと思う、うん。
「いやぁ…表舞台に出てこないヒーローが人気って、」
「バカ言わないでちょうだい。見てごらんなさい」
「なにこれ、市民の声…?」
ええっと、なになに…
『レディ・バタフライってミステリアスでいいよな!』
はあ、そうなんですか。
『前に1回だけ戦ってる所を見たことがあるんですけど、すっごい素敵でした!』
あ、珍しい。女性からの意見だ。
『いっつも声だけなんだけど、その声がカッコイイっつーか色っぽいっつーか…堪んない!って感じですね』
堪んないって、なんだそれ。
アニエスから渡された紙を読み進めていけばいくほど、レディ・バタフライの人気が意外とあることがわかった。
中には『ヒーローなら表舞台に立て』とか『安全なとこにいて、偉そうに指示出すな!』っていう意見もあったけどね、私はその意見が至極正しいものだとわかる。仲間が危険な場所へ行っている間、私は絶対に危険が及ばない場所で情報を集め、処理をして、それをヒーロー達に教えているんだから。…むしろ、好意的な意見があったことに驚いているくらいだもの。
「どう?伝わった?」
「まぁ、それなりに…」
「HERO TVにもレディ・バタフライのことがもっと知りたい!って声が結構、きてるのよ。そ・れ・で!今回のバーナビーと組んだ特集が企画されたってわけ」
「経緯はわかりましたけど、何で相手がブルックスくんなんですか…」
「そんなの決まってんじゃない、美男美女で売れるから!」
アニエスの言葉に私は今度こそ、がっくりと項垂れるしかなかった。美男美女って…そりゃあブルックスくんはハンサムって言われるくらいにイケメンの美男子だけれどもさ!!断りたい、ものすっごく断りたいけど、視聴率の鬼と呼ばれているアニエスがそれを許してくれるとは思わないです。彼女は視聴率稼げるわよ〜って嬉しそうに笑っているからね。これはもう逃げ道はなさそうだ、…腹を括れってか。
ヒーロー補佐となって数年。今更になってメディアデビューです。わー、パチパチパチ。
「で?バニーちゃんとの撮影をOKしたってか?」
「だって相手はあのアニエスだよ?断れるわけないでしょう」
「まぁなー…視聴率の鬼だしな、アイツ。んで、どんな企画なわけ」
虎徹とのランチ中(ブルックスくんは単独取材の撮影中です)、アニエスからもらった企画書のコピーを彼に渡す。
企画自体はよくある疑似デート。ほら、女性向けのファッション雑誌でよくあるでしょう?待ち合わせしたり、ショッピングしたり…そんなのをする、ってことみたい。男女でやる企画としては王道です、よね、うん。…その分、テレビを見た人達の反応がもんのすごーーーーーーく怖いけど。
「大丈夫かなぁ、これ…」
「企画は王道だし、相手はバニーちゃんだろ?心配いらねーって」
「…あのね、虎徹。私、この企画でメディアデビューなのよ?ブルックスくんは慣れてるだろうけど!」
「虎徹さん、千紘さん、お待たせしました…って、何を読んでるんです?」
「お、おかえりバニーちゃん。これだよ、お前と千紘が今度撮影する企画」
「ああ…レディ・バタフライとデートするという」
こくり、と頷いて、食べかけだったサンドイッチを頬張った。撮影は明後日、丸一日かけて行われるとこの前説明があったっけ。その間に出動しなければいけない事件が起きなければいいんだけど、…そればっかりは運に任せるしかなさそう。もし事件が起きて中止になっても大丈夫なように、もう2日程、予備の撮影日を設けてはいるみたいだけどね。…撮らない、という選択肢は最初からないみたい。ま、当たり前か。
はあ…もう決まってしまった仕事だから文句は言わないようにするけど、本当に何でブルックスくんとなのよ。アニエスは美男美女だから、って言ってたけど、私にそれ当てはまるのか甚だ疑問です。いまだに。
ブルーローズの方が美人さんでしょ、どう見ても。並んでて溜息つきたくなるくらい、お似合いだと思うんだけどなぁ。というか、私がそれを見たいというだけなんですけど。私得ってやつです、特集組んでくれないかな。アニエス。
「千紘さんは嫌ですか?僕と疑似デート」
「貴方が嫌とかそういうのではないです。…メディア露出、避けてたので」
「そういえば、レディ・バタフライはいつも声だけですよね」
「ランキングに参加しない補佐だからな、レディは。だから顔出ししないっつー条件なの」
元々、私がアポロンメディアに入社したのはヒーローを支える仕事がしたかったからなのだ。別にヒーローになろう、と思っていたわけじゃない。憧れている存在だからこそ、大好きな存在だからこそ…頑張っている彼らを陰ながら支えよう、と思ってこの会社に入ったのに。
ひょんなことからNEXTだってバレてしまって、それがアニエスの耳に入り、現在に至るわけです。ただ、ヒーローになる条件としてHERO TV以外のメディア露出はしないというのを出させてもらったけど。
「何度かはHERO TVに出てるけどな」
「それでも2回くらいだし、私の顔知ってる人なんてほとんどいないよ」
「へえ…」
「お前、顔出ししたら一気に人気上がりそうだよなー。ブルーローズと美人コンビ組めば?」
「……嫌だよ」
そういうのはしたくないから露出しない、って言い張ってきてるんだから。
「今回のが成功したら増やしますか?メディア露出」
「ええー…?私、本来はただの社員なんだけど。メカニックと情報処理の」
「そうですか…」
何で急にしょんぼりしてるんだろ、ブルックスくんってば。隣に座ってる虎徹は楽しそうに笑ってるし、…なんなんだ、このコンビ。というか、私は彼を落ち込ませるようなこと言ったかなぁ?普通に意見を述べただけなんだけれども。
「けどよー、今回の特集が好評だったらまーたアニエスから呼ばれるんじゃね?」
「う、…否定できないなぁ、それ」
「アニエスさんですしね。…とりあえず、当日はよろしくお願いします。千紘さん」
「ええ、お願いします。ブルックスくん」
あー…今からもう、憂鬱で仕方ありません。ネイサン辺りはハンサムとデートだなんて羨ましい〜とか、腰をくねらせて言ってきそうだけど。