明日はきっと雨模様
三蔵は、恋人であるはずの私にも塩対応だ。それはもういじめられていると勘違いされるくらいには、塩だと思う。まぁ、三蔵の性格を考えると甘〜い言葉を吐くとか、そんなの想像もつかないんだけど。言われたらきっと、指差して大笑いするか、何か悪いものを食べたんじゃないかって後退りする。
決してときめいたり、嬉しいって思ったりはしなさそうなんだよね。喜べないのもどうなのよ、と思うんだけど、それは普段の三蔵が作り上げたものってことで。だってあの人のことをよく知ってれば、絶対に天地がひっくり返ろうともないってわかるじゃん?…なんだけど、明日、天地がひっくり返るかもしれない。
「なんだ、その顔は」
「え、あ、いや、だって…ねぇ?」
何故、私がマヌケ面を晒して三蔵に呆れられているのかと言いますと…原因は呆れている三蔵自身なんだよね。
だってこの人、部屋に入ってきた途端なんて言ったと思う?「出かけるぞ」だよ?!買い出しだって行かないし、どんなに私が誘ってもテコでも動かないあの三蔵が!自発的に!!私を誘ってきたんだよ?!そんなのマヌケ面にもなるし、思わずは?って言っちゃうでしょうよ。
え、え、え、…なに?悟浄と対決して罰ゲームでもやってんの?
「ば、罰ゲーム…?!」
「は?」
「スイマセン」
「いいからさっさと準備しろ。置いてくぞ」
「そっちから誘ってきておいて?!あっちょ、本気で置いてかないでよ!!」
本当にさっさと出ていった三蔵を、慌てて追いかける。準備をする暇なんてあるはずもなかったわけなんですけど、これって一応デートってやつですよね?私、普段の格好なんだけどいいの?これいいの?
三蔵は珍しく法衣を脱いで、…えっ脱いでる?!なんで?!上半身だけ脱いでる時はあるけど、旅に出てから法衣を脱いでる所なんて見たことなかったんですけれども。雨とかで濡れた、とかそういう事態が起きなければ。
「なに目ェ見開いてやがる。さっさと隣に来ねぇか」
「あ、うん!…なんか珍しいことばっかりだ」
「あ?」
「だって三蔵から出かけようなんて言われるし、法衣着てないし、隣に来いとか言うし…」
「なんだ、嫌なのか」
眉間にシワを寄せているものの、見下ろしてくる瞳は相手を射殺すような剣呑さはない。これも珍しいことの1つ、だろう。言わないけど。機嫌損ねるのは嫌だから。
「嫌じゃないよ。明日は雪かなとか、天地がひっくり返んのかなとは思ってるけど」
「…減らず口」
「そうしてないと緊張MAXでマズイんだもん」
三蔵とは一緒にいることが当たり前になってて、2人きりになってもドキドキしたり緊張したりすることなんてそうそうない。最初こそよくあったことだけどさ。いつからだったか、まるでそれは空気のように感じていて…それを悪いことだとは思っていなかったけれど、久しぶりに感じるドキドキは―――あの頃を思い出す。
初心忘れるべからずとはよく言うけれど、それは恋愛にも有効だったんだねぇ。なんかもう、何を言いたいのかよくわからなくなってきた。どうやら私は予想以上に、今のこの状況に緊張しているようです。
「―――…たまには構ってやらねぇと逃げられるぞ、と」
「?なにが」
「なまえ以外に誰がいる」
「え、私?」
思わず足を止めると、これまた珍しく手を引かれた。それは子が迷子にならぬようにする親のようだけれど、ずっと珍しいことばかり体験していていい加減、心臓が破裂しそう。恋人同士のようなことを三蔵にされたら、指差して笑う自信があったはずなのに…何でこんなにもドキドキが止まらないのかワケがわからない。
「ずっと守らなくていいものが欲しかったんだが、…どうやらてめぇは別らしい」
「ッ」
三蔵が、一瞬だけど、とてもとても優しい笑みを見せてくれた。たったそれだけなのに、私にとっては重大な出来事なんです。三蔵の笑顔は、超レアなんだよ。
ああ、じわじわと顔が熱くなってきた…!
「…三蔵って時々、すっごいズルイ」
「うるせぇ。これでも俺なりにてめぇのことを想ってんだ。察しろ」
「ふはっなにそれ、俺様だな〜何様のつもりですかってやつだよ」
「フン、『三蔵様』だ」
「くくっ…うん、そうだね」
手首を掴んでいる手を解いて、即座に指を絡ませれば三蔵はそっと力を入れてくれた。どうやら突っ撥ねないでいてくれるらしい。
「今日くらいはなまえにつき合ってやる。どこに行きたい」
「さっき宿の人に聞いたんだけど、町の中心部にはたくさん露天商が出てるんだって。それ見に行きたいな」
「わかった、行くか」
本当に明日は雨とか雪かも…。
でもこうして甘やかしてくれる三蔵も、たまにはいいかも―――ね。
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